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山中の戦い

「《電震》ちっ、数が多いわね」


「範囲で一気に片付ける! アマンダはちょろちょろ混じってる強めな奴をお願い!」


「分かったわあ!」


 タナトス山に向かった僕達だったが、やっぱり前途は多難だ。

 まだ街からそんなに離れていない場所から、大量の魔物に囲まれてしまった。


「はー、久々の実戦。でも、上手くやらなきゃアマンダに迷惑がいっちゃう。ヤバい、緊張してきた」


 日常生活のなかで魔法を使うことはあったけど、この1ヶ月敵と相対したことなんて無かったから、久々に感じる殺気に背筋が凍る。

 でも、それはやらなきゃやられるということの裏返しだから。


「《チェーンディレイ》っと、アマンダそっちにも掛かってる?」


「えぇ、有難う!」


 呪文を唱えると、黒い鎖が魔物を縛って行く。速度低下の呪文だ。

 前のパーティではこういうデバフは【呪毒王】ミカエルの仕事だったんだけど……

 やっぱり彼女のものと比べると、僕のなんか児戯だ。このレベルの魔物なら彼女は指1本動かすことすら許さないし、SSランクの相手にもこの呪文を効かせることが出来るだろう。


 そんなことを考えて落ち込みそうになる自分を叱咤して、本業の呪文を唱え始める。


 範囲魔法はまぁまぁ位階が高いから……


「できた! ちょっと退避お願い!」


「了解よお! っと、これでラスト!」


 長めの詠唱が必要になる。その間に拳が振るわれ、大きめの魔物がぶっ飛んでいく。


 詠唱時間は1分程だろうか? それだけの時間があれば、【大剣豪】スカーレットならこの呪文で倒す2倍は倒している筈。

 実際似た戦闘タイプのアマンダもしっかり強敵を全て倒しきっている。


「《永炎円》!」


 口からスキルの宣誓が漏れ、周囲がパッと明るくなる。森林破壊感はあるけどまぁ仕方ない。

 炎のサークルは魔物の群れを包み込み、その命を次々と絶っていった。


「っと。これで全部かな?」


「えぇ、そうだと思うわぁ。いくら殆ど人の手が入っていないからといって、こんだけ倒せばこの周囲はだいたい掃討した筈よぉ」


 辺りを見回せば、周りは死屍累々。

 僕はアマンダの言葉に、ふっと息を吐き出し体を弛めた。


「数は多いけど、今のところB級くらいだよね?」


「まぁ1匹1匹は、ねぇ。こんだけ集まってれば全然S級に片足突っ込んでるけどお」


「あー、確かにそうかも。こっからもこれが続いたらキツイよね。やっぱ今のうちに休憩取っとく?」


 僕は範囲が使えるからこういう群れタイプは結構省エネが出来る。

 でも、アマンダみたいな個人戦型には連戦はキツいだろう。


「そうさせて頂くわぁ」


「んじゃあこれと…… これだ」


 頷くアマンダに亜空間から取り出した水筒を手渡し、自分も1本手に取った。


「あっ、冷たいから注意してね!」


「おぉ、ありがたいわあ」


 中に入っているのは氷状にした果実水。

 冷たくって美味しいのだ。これだけは、前のパーティでも評判で重宝されていた。


「まだ山の前だって言うのに数が多いわねぇ……」


「全然間引かれてないよね。スタンピードとか大丈夫なのかな?」


「実は私その為の依頼でこの街に来たのよぉ」


 なるほど。確かにそれなら、ついてきてくれたことに説明はつくけど……


「じゃあやっぱここで……」


「なわけないじゃなあい。ちゃんと最後までお供するわよ」


「……ありがとう」


 話も少なく、果実水を飲む。

 山は目の前に聳えち、頂上はまだまだ遠い。

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