寝て山行く
明日も何回か更新します
「《エンドスリープ》っと。おやすみなさーい……」
ギルドを出た後。
もう行くっきゃない! って感じの精神状態だったんだけど、体がついてこなかった。
ほら、僕って育ちがいいじゃない? やっぱ徹夜明けは力が出ないっていうか……
そんなこんなで元いた部屋。
アマンダに鍵を返して貰って、ここに帰ってきた。
部屋に微かに残る女の人の匂いは気にしないようにして、ベットに横たわる。
そして指を自分の頭に向け、スキルを宣誓すれば即意識が遠のいて行く。
Zzzzzzzzzzz……
《エンドスリープ》はSランク依頼の魔物でさえ眠らせるという呪文。
効果が強すぎる為、普通に10時間とか寝たら効果がヤバいので……
「ふんっ!」
「ノンレムすいみっ!」
30秒程で外部からの破呪で起こしてもらわないといけない。
「よしっ、だいぶスッキリした!!」
「まさか魔法をこんな風に使うだなんてねぇ……寝てる人の顔面を軽くでも殴るのは精神衛生上良くないんだけどねえ」
アマンダがグチグチ言ってるけど仕方ない。
これが1番効率的で効果的な方法なので。
「じゃあ行ってきます。さっきはありがとう、アマンダ」
「ちょっと待ってよお。本当に置いてくつもりだったのお?」
「ちょっと待ってよ。本当に着いてくるつもりだったの?」
アマンダは何を言っているのだろうか。
タナトス山は最難関領域のひとつにも指定されているヤバい領域。
命の保証はできないし、僕が横で死んだ時の精神ダメージの保証もできない。
「ダメだよ流石に。危なすぎる」
「そんなの百も承知よ。でもアナタが1人で行くより安全じゃあない?」
「まぁ、それはそうだけれど……」
確かにアマンダの実力はこの肌で感じて、相当な物だと分かってはいる。
というか、直接会ったことはないけど存在自体は前々から知っていた。
「同じSランク【雷破士】様が着いてきてくれれば、心強いよ。でもタナトス山は……」
「分かってるわあ。でもそれは私にも言えるもの。そんな危ないところに、アモン1人で行かせる訳ないじゃあない」
「……了解。なにか準備するものはある?」
「ないわあ。行きましょ、タナトス山。そこにアナタが欲しいものがあるなら、私はついて行きまあす。一宿の恩、軽く見ないで欲しいわねぇ……」
僕はSランクの中でも最底辺だ。
そんな中、ソロで名を上げているアマンダの協力は正直とても嬉しい。
僕は彼女の手を取り、深い新緑の目を見つめて湧き上がる感謝を伝える。
「ありがとう、アマンダ。本当はさっきので恩は返してもらってると思うんだけど……」
「私はちょっと話しただけよぉ」
「ありがとう、アマンダ。生きてまたこの部屋に戻ってこよう。宿代、3ヶ月先まで払ってるんだ」
「あらあら、それは大変。死んじゃったら勿体無いわねぇ。じゃあ私はこの拳で必ずアモン、貴方を守るわ。だから……」
「うん。僕はこの魔法で必ずアマンダ、貴女を傷つけさせない」
冒険者の間で伝わる誓いの言葉を述べれば、僕達は即席のパーティだ。
僕は《勇者魔法》が使えない。
でも【魔導師】としては一流。それが僕の、今縋れる唯一のアイデンティティだから。
誓いには消して背かない。
「……行くよ」
「えぇ。頑張りましょう」
僕らは2人で宿から外に出る。
ようやくちょっと、あの最悪な日を塗り潰せた気がする。
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