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ギルドと救い

 ……酷い目にあった。もう知らない人に宿を貸したりしない。


 翌朝。冒険者ギルド内の酒場でミルクを呑みつつ管を巻く面倒臭い野郎が1人。

 ごめんなさい、僕です。

 一日中空いてる店なんて、ここぐらいしかないからね。


 ちょうど5杯目のミルクを注文しようとした時、酒場の看板娘さんがやってきた。


「ボク、ボク! もう朝だから出てって! 今から野郎どもが吐いた汚物の処理しなきゃいけないの。一旦閉店よ」


「うぅ…… あなたまで僕に出てけと…… パーティを追放され、母に裏切られ、宿を追い出されて、ようやく辿り着いた酒場まで追放されると言うのか……」


「ちょっ、何があったか知らないけど私にまで当たらないでよ! 出てってってば!」


 ごめんなさい酒場の看板娘さん……


「分かりました、分かりましたよぅ。待ってください、今すぐ料金払って出ますから……」


「ほんっと朝から酔ってる訳でも無いのに辛気臭いわねぇ。ハイハイ、確かにミルク4杯銅貨16枚枚頂きました!」


「あと少ないですがこれも……」


 チップとして数枚の銅貨を渡しつつ、酒場を出てギルド内の様子を見回す。

 朝早くは冒険者の活動初めの時間だ。


 掲示板に貼られた依頼を手に多くの人が受付に向かっている。

 スキンヘッドの壮年冒険者に、僕と同じくらいの年齢の駆け出し冒険者。

 多くの人が武器を持っている光景はかなり壮観だけど、冒険者になって2年、慣れてきた今になってもまぁまぁ怖い。


 別にお金の不安はそこまで無いから、ここで帰ってもいいんだけど……


 今日はなんか、気分がおかしかった。

 多分徹夜明けだったからと思うんだけど。


「いく、かぁ……」


 そう決意して覚束無い足取りで受付へと向かう。

 幸か不幸か、まぁまぁ大きなギルドであるここでは、ランク別に受付が分かれていた。

 他のレーンだったら、朝の大混雑に巻き込まれること待ったなし。

 待っている間に決意が鈍ってしまうかもしれない。


「すみませーん」


「はいはい。ボク、ギルド案内? 今は空いているけどここはSランク以上専用レーンよ。案内なら右手の案内受付に……」


「いや、ここで合ってます。一応、コレなんで」


 受付には、若めの女性が座っていた。ここのギルドは何度か利用したことがあるけれど、見たことの無い顔だ。

 これでも歴2年なんだけど、どうやら駆け出しだと思われているらしい。


 Sランクの証である金のプレートを提示して、身分を示す。

 すると受付嬢さんはギョッとして叫んでしまった。


「えっ、あっ!? [セイクリッド]のアモン様……? 嘘、本物!? でも確か不仲でパーティは解散したとか追放されたとかゴニョゴニョ」


「追放勇者のアモン様だって!? がはははっ!! お笑い草じゃねぇか! まだ冒険者続けてたのか! 《勇者魔法》も使えない癖に勇者を名乗る恥知らずがよ」


「ひゃはは!」

「わはは!」

「あっはははは!」


 うん、僕って有名みたいだ!


 現実から目を逸らそうとするけど、あまりに吸着力がヤバい。


「あっ、もういいです……」


「アモン様! ふはっ…… 待ってくださいよ勇者様ったら! 」


 周り中から嘲笑され、ギルド員にも笑われる始末。

 決意は脆くも破れさり、笑い声を四方から浴びながら僕はトボトボと受付に背を向け歩き始めた。


 また泣きそうになる。もうカピカピな目尻を拭き、俯いてレーンをゆっくりと逆行していく。


 くっそ、少しの道の筈なのに、無駄に長く感じる。


 周囲からの笑い声が体を重くしているのだろうか。

 それでも歩いて、歩いて……


 いや、進まない? 気が付けば笑い声も止まっている。


「うん?」


 明らかにおかしい光景に、思わず顔をあげるとそこには……


「……肌色!?」


 僕の肩を手で抑え、高ランクレーンの入口に仁王立ちするアマンダ(痴女)がいた。


「お部屋ありがとぉ、アモン。後はお姉さんに任せなぁさい。ほら、泣かないの!」

『面白かった!』『続きが気になる!』という方は、是非下の星★★★★☆を押して評価、またオレンジのボタンからブックマークお願いします。作者の励みになり、次話の執筆が捗ります。

次回更新は19時~20時を予定しています。

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