絶望と出会い
明日は昼と夜に数話出します
ただでさえパーティを追放され、ギルドでも冷たい目で見られグチャグチャだった僕の心に母の訃報とその暴露は到底受け止められるものでは無かった。
少しでも元パーティメンバーから離れるために街から街へと放浪し、安宿で夜な夜な泣いた。
「意味分からん…… 僕は勇者じゃないって? 絶対になれないって? ははっ、みんな大正解じゃないか……」
通りでどんだけ頑張っても《勇者魔法》が使えなかった訳だよ。
産まれてこの方ずっと努力してきた。
お母様はずっとそれを横で見守っていてくれたのに。
「内心では無駄なことだとずっと嘲笑ってたってのか……」
あぁ、もう誰も信じられない。
ずっと布団にくるまっていたい。
でも、僕は……
「なぁ、いいだろ? 姉ちゃんそんなヒラヒラした服で誘ってんだろ? 1発ヤらせろや」
「これはダンジョンのドロップ品で最強なんですよぉ…… 離して下さいよぉ…… じゃなきゃ私……」
「ちょっと待つんだ。貴方は彼女を掴んでいる手を離して下さい。お姉さんは手を下ろして」
勇者幻想を手放せない。
重い体を起こし、部屋の外で言い争う男女の間に入る。
「お兄さん、人の嫌がることはしちゃダメだよ。ダンジョン製の装備が性能いいのは知ってるでしょ? ほら、こんな奇抜なデザインの服なんて神様以外作れないよ」
「ちょっ、お前急に出てきてなんだよ? やんのかオラ!!」
「まぁまぁ、落ち着いて。お姉さんもさ、物騒な手を下ろしなよ」
男の方がオラついて迫ってくるけど、こちらは正直どうでもいい。嫌がっている女性に無理強いするのは良くないことだけど、今回はそう単純じゃない。
「……わかりましたよぉ。引いてくれるなら嫌は無いですぅ」
「よっし、お兄さんが引けば全部解決だね? ね?」
「あぁん? 引くわきゃねぇだろ!? そりゃじゃ俺がただ損をするだけじゃねぇか」
確かに男目線だとそういう風になるのだろう。しかし、今引けばプラマイゼロ。引かなかった場合は……
「ガキは部屋に引っ込んでろ。大人様の言うことは聞いとけ。じゃねぇと潰すぞ」
「おー、こわ。でも無理かな。だって……」
「だっても何もねぇ! 俺はこの女を今晩抱くって決めたんだよ!!」
その言葉が出た瞬間、廊下に再び殺気が迸る。1度目はさっき、廊下に出る前。
でも今度は殺気だけでは終わらなかったらしい。
「やめなって、お姉さん」
「でもこれが1番効果的でしょお? 止められるかは五分五分だったけど、若いのにやるわねぇ」
男の頬1センチのところで、僕の手に止められた拳が絶え間なく電流を送り込んでくる。
「それならただの手で良かったじゃん。痛っ!電気はまずいって。お兄さん、こういう事だから……」
「ひっ!? は、え、拳? 女、お前が殴ったのか?? え、見え…… うわっ!? えぇぇ……」
ダンジョン製の防具を見た時点で、彼我の差は悟るべきだったのに。まぁ性能が良くてもこんな服を着るセンスは分からないけれども。
早めに引いてくれれば僕の手がこんなに痛くなることも無かったのに!
……うぅ。
「ひえぇっ、分かった! 分かったから殴るならそこのガキを殴ってくれ! うわぁぁっ!」
うん、良かった。……のかなぁ。兎にも角にも男は自分の部屋へと逃げ帰り、被害者が出ることは防げた。
「ヤバいってこれ…… 電気はまずいって……」
「ごめんなさい。ついゾクゾクしちゃって、ね」
「ね! じゃないから…… 《ヒール》っと。まだダメか…… 《アークヒール》よし、オッケー」
焦げ始めた掌に回復魔法をぶち込みつつ、お姉さんの方を見る。
うん、やっぱやべぇ服着てんな!
正直思春期的にはこんな痴女とは一刻でも早くバイバイしたい。それにこの人すぐ手が出るし。
「じゃあ僕は寝るんで。お姉さんも気を付けて」
「ねぇ待って」
「……なんでしょう?」
「……泊めてくれない?」
「あんたさっき襲われかけてましたよねぇ!?」
話を聞くと、どうやら今日の宿が見つからなかったらしい。
それでさっきの人にも決して体に触らないという約束で泊まらせて貰おうとしたとの事。
……馬鹿か?
うん、馬鹿だ。
この人は自分の体を、着ている服を本当に認識できているのだろうか?
「わかりました。お姉さん名前は?」
「アマンダよぉ。あなたは?」
「アモンです。……これ、あげるんで中でしっかり休んでください。あっ、布団とか気になる様だったら受付に行ってもらって」
「えっ、あなたはどうするのぉ? 」
「流石に同室は色々きついので、どっか外で。じゃっそういうことで!」
「でも今日は! ……行っちゃった」
魔法でできた収納から部屋の鍵を取り出してアマンダに渡し、僕は宿を飛び出る。1ヶ月ぶり2度目の経験だ。
そのまま僕は街に溶け、宿を探しに歩いた。




