追放は幼馴染と共に
連載始めます。本日は1時間置きに数話更新予定です。
あぁ、どうしてこうなってしまったんだろうか。
宿屋の一室で、膝を付いて項垂れる僕とそれを囲む2人。
状況から分かる通り、これは叱責だ。それもこの一週間で14回目の。
「最強の勇者レンバルド様の息子っていうからパーティーを組んでやったっていうのに、2年経っても《勇者魔法》が使えないってどういうことよ!」
そう言って僕に平手打ちをかましてくるのは【大剣豪】、スカーレット。
「いや、でも僕魔導師としては結構いい線行ってるような……」
「魔導師でいい線じゃダメなのよ! あんたこのパーティーの"勇者"でしょ!? じゃあ剣も、魔法も、回復も! 全てが完璧じゃないと相応しくない! 実際新聞にも出ちゃったじゃない! パチ勇者を使って登り詰めたSランクって!」
「そーだそーだ! クケケ……」
「別にあんたに1ミリの価値もないなんて言って無いの! ただ、あたしたちの求める物を貴方が持って居なかった。それだけ!」
痛む頬を擦りながらする僕の言い訳など、スカーレットの前では無意味だ。
ついでに【呪毒王】のミカエルにすら追従して笑われてしまう始末。
確かに言われてることは正論だ。僕が《勇者魔法》さえ使えていれば、今頃彼女らはSSランク認定されていた筈。彼女たちには十分な実力がある。
あぁ、どうしてこんなことになってしまったんだろう。
顔を伏せて頬を流れる涙を2人から隠す。
うずくまる僕になおも怒声を浴びせ続けるスカーレットと、それに便乗し笑うミカエル。
耐えなきゃ。いつもスカーレットが満足すればこの叱責は終わる。
あと少し耐えれば……
でもこの日は、今までとは違った。
スカーレットがついに、この2年間一度も口にしなかった"あの言葉"を発してしまったからだ。
「アモン、あなたとはもうパーティーは組めないわ。あなたと組んでいたのは『勇者持ち』っていう箔が欲しかったから。あたし達3人はあなたが居なくっても十分、いやあなたがいなくなった方が上へ行ける。だからここで、あなたには出てって貰う!」
「いや、ちょっとそれは違うんじゃ……」
「なにミカエル? あたしの言うことに文句でもあるの?」
「いや…… ない、です……」
ミカエルが珍しくスカーレットに反論したけど、それもすぐに潰され黙りこくってしまう。
でもこの状況になれば、僕にだって言いたいことの1つや2つある。
「僕もこの《勇者魔法》が使えないっていう状況はマズいと思うよ? でもこの2年間、いや生まれてこのかたずっと努力してきたんだ。明日発現する可能性も0じゃ」
「この2年間、明日を信じてやってきたあたし達の期待をことごとく裏切ったのは誰?」
「…………」
「あなたでしょ? 同じアタッカーでもボスへのダメージは私の方が上、なのに報酬は4等分。それもこれもあなたの将来性に賭けてたの。もう我慢の限界よ!」
「でも僕がいないと勇者クエストを受けられなく……」
報酬のいい勇者クエストを優先的に受けることができるのは勇者の子孫だけ。僕は最後の抵抗とばかりにスカーレットにその"権利"を振りかざす。
あー、だっせ……
夢見た勇者とは全く異なる姿に、涙の勢いが増した気がした。
「それは…… あなたが居なくなれば通常クエストの効率は2倍になるから……」
「さすがに無理だ。勇者クエストの方が実入りは良い筈だよ。減給でもなんでも受け入れる。だからどうか……」
「それは……」
スカーレットの反論がたどたどしくなる。
実際僕が最弱かもしれないけど、足を引っ張ってるっていう程じゃない。
収入の面を考えても、スカーレットに言われたからといって『はいそうですか』と簡単には辞められない。
良くなってきた形勢。ミカエルもブンブン首を縦に振っている。
「ちっ……」
スカーレットは腕を組みながら部屋をグルグル周り始めた。
これは彼女が思い通りにいかなくてキレているサイン。
そう思ったのは、僕だけじゃ無かったみたいだ。
「イライラしているなスカーレット! だが喜べ! お前の悩みの解決策を持ってきた!」
そう言いながら部屋に入ってきた三人目のパーティーメンバー、【鎧神】メアリーと、彼女が連れてきた一人の少女が状況を一変させる。
「スカーレット! お前の悩みはこうだろ! アモンは追放したい、だが勇者クエストの旨味は欲しい!」
「え、えぇそうね。それで解決策って?」
「いや待てよ、その解決策って僕を追放するための策?」
前々から計画されていた様に、メアリーとスカーレットはスラスラと言葉を交わす。
明らかに僕に不利な何かが起こっている。
その時、気づいてしまった。メアリーの後ろにいる1人の少女に。
疎遠になってしまったものの、昔から兄妹の様に見知った少女の姿に。
「そうに決まっているだろ? 雑魚は黙っていろよ」
「まぁそれはいいわね!」
「いや、我はそれは違うと……」
「いいわねいいわね! で、この子が……? 紹介して頂戴?」
まずい、それはまずい……
僕やミカエルの言葉を無視して話が進んでいく。
「あぁ、勿論。サリア、頼む。」
頷いて横を見たメアリー。その目配せに応えた少女が、僕にチェックメイトを突き付けた。
「ご紹介に上がりました、パーシーの娘サリアですわ! 勿論職業は【勇者】。でもそこの雑魚とは違って《勇者魔法》はレベル4まで鍛えておりますわ!」
勇者魔法が使える勇者が来た以上、使えない雑魚は確かにお払い箱だ。
それに……
「パーシーの娘!? ただの勇者じゃなくって、レンバルド様と同じ<聖光四剣>直系の血筋を連れてくるなんて…… メアリーやるわね!」
「いやいや、それほどでも…… あるぞ?」
「言い過ぎですわスカーレット様! Sランクパーティー〔セイクリッド〕が勇者を募集していて、応じない方がモグリですわ!」
「ギルドで募集してみると思いの他好評でな。集まった中で一番能力的、将来性において優秀なサリアを選んだという訳さ。だからそんなに謙遜するな」
「ふふっ、あたしたちも大分有名になったものね。あっ、それとこれからあたし達はパーティー、もう一つの家族だから…… スカーレットで良いわよ。あたしもサリアって呼ぶから。」
「はい! スカーレットお姉さま!」
勇者の中でも家柄は初代勇者からの血筋の濃さイコールで力の濃さを示し、その中でも〈聖光四剣〉は最高の血筋だ。
僕もその血を継いでるけど、見ての通りの落ちこぼれぶり。それに比べてサリアは……
あぁ、そこにあったのは新たな勇者パーティーの姿。僕が入る隙なんか、どこにも無かった。
ふと、スカーレットがこちらを見る。
「あら、あなたまだ居たの? 早く出ていきなさいよ!」
「そうですよ、雑魚おにーちゃん!」
「サリア……」
サリアから送られたおにーちゃんという呼び方は、彼女がスカーレットに向けられた偽物のお姉さまという言葉と違い、本物の、昔からの言葉。
勇者候補として共に切磋琢磨し、妹のように接してきた幼馴染からの蔑み。
その一言が、その呼び方が僕の心を完全に折った。
「あぁ、そうするよ。今までありがとうな。スカーレット、ミカエル、メアリー…… そして頑張れよサリア。」
そう言って僕は荷物を入れたマジックバックを手に取り部屋を、そして宿屋を出る。
それを引き留めるものは……
「待ってくれアモン! 我が悪かった! 悪かったから許してくれ! そして戻ってきてくれ! スカーレットに逆らうのが怖くて追従した、でも、本当は我はお前と一緒に……」
一人だけいた。曇り空の下、街に彼女の声が響く。
確かに彼女からの罵声も、暴力も俺は食らったことが無い。
でも、それでも……
「ごめん、確かに君はあのパーティーの中では一番優しかった。でも笑ってたじゃないか。ここまで来ちゃった以上もう、無理なんだ。同罪とは言わないけど、無理だよ。君も新しいパーティーで頑張ってくれ。俺は俺で…… 何とかするからさ。……さようなら、ミカエル。」
決別の言葉を告げ、彼女に、宿屋に背を向ける。
「待てよ、待ってくれよアモン……」
すすり泣く声は聞かないことにする。
―――――こうして僕は2年間一緒にやってきたパーティを追放された。
そして母が亡くなった、そう早馬で伝えられたのはそれから一ヶ月後のこと。
そこから僕の、いや二代目魔王の物語は廻り始める。
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