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三八三年 祝の十八日

 朝、いつもより早めに宿に行く。

 ロビーの長椅子、やっぱりナリスが待っててくれた。

「おはよう」

「おはよう、レム」

 前まで行くと、軽くキスされる。

 ほかに泊まってる人はいないから、そのまま並んで長椅子に座った。

「昨日は大丈夫だった?」

 昨日の夕食は、私たち家族とククルとナリスの六人で。

 お父さんが酔っ払ってるところなんて見たことないのに、昨日のお父さんは滅茶苦茶ナリスに絡んでたよね。

 ナリス、お父さんにかなりお酒注がれてたけど。今から帰るのに大丈夫かな?

「さすがに部屋に戻ってすぐ寝ちゃったけど。大丈夫」

 そう言うナリスは特にしんどそうにも見えないし。ホントに大丈夫みたい。

「あれがなければ浮かれて眠れなかったかもしれない」

 そう言って笑い、私の頬に手を伸ばす。

「本当に。嬉しくて」

 優しく唇が触れた。

「私だって」

 今度は私から。

 恥ずかしいからすぐ離れるけどね。

「次の訓練、またすぐだから」

 ナリスと手をつないで。

 次の訓練も祝の月の間にあるから。ちょっと嬉しい。

「うん。待ってるね」

 そう言って隣を見ると、ナリスは嬉しそうに笑ってて。

 隠してたわけじゃないし、反対されてたわけでもないけど。

 周りにいいよって言われると、何だか嬉しいね。



 朝食を終えたナリスがもう一度宿に戻ってきてくれた。

 もう出発だね。

「気をつけてね」

「うん。行ってくる」

 周りに誰もいなかったから、ちょっと長めのキスをして。

 一緒に宿を出て、何度も振り返って手を振るナリスを見送って。

 私はここで待ってるからね。



 昨日ほとんど仕事しなかったから。今日は任せてってお兄ちゃんに言ってある。

 お兄ちゃんが店にいれば、ククルも少しはゆっくりできるかな。

 そしたらお昼過ぎ、お兄ちゃんが代わるよって来てくれた。

「今日は私がやるってば」

「いいから。ククルが呼んでるから、店行って」

 お兄ちゃんは笑って。行ってこいって追い出された。

 何だろと思って店に行ったら。ククルに席を勧められて。

「テオと作ったの」

 そう言って、お菓子とお茶を出してくれた。

「お兄ちゃんと?」

 さっき何も言ってなかったのに。

 どうぞと言われて。一口食べる。

 出してくれたのはパイ。底にベリーが敷いてあって。上はチーズの香りがしてる。

「…お兄ちゃんと作ってくれたの?」

「お祝い、っていうのもなんだけど」

 私とナリスとのこと、だよね。

 ククルには昨日急に休みの予定を変えてもらって。

 お兄ちゃんたちにも全部仕事をしてもらって。

 それなのにまだ、よかったねって言ってくれるの?

「レムったら」

 零れた涙にククルが笑って、私の隣に来てくれる。

「あとでテオにも感想を言ってあげてね」

 涙を拭ってそう言ってくれるククルに、私はこくこく頷くことしかできなかったけど。

 本当に、皆優しい。

 ありがとう。

 少し落ち着いたふたりです。

 アレックは酔ってはないけどナリスに絡んでフィーナに止められていました。ジェットとククルを彷彿させるやりとりに、ナリスが笑いを必死に堪えていたのは内緒です。

 テオは初パイづくり。これでアップルパイも作れるようになったことでしょう。

 本編はひとり焦るテオ。心労が増えそうです。

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冬野ほたる様 作
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