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三八三年 祝の十七日

これでも端折りました…。

 皆が帰る日。朝食も済ませて、荷物を持った皆が口々にお礼を言ってくれる。

「また来るよ!」

 フェイトさんは笑って手を振ってくれる。いつも元気だね。

 カートが私を見て、少しだけぎこちなくだったけど、それでも笑ってくれた。

「ありがとう、レム」

「カートも元気でね」

 そう返すと、頷いたカートが私をじっと見つめてから。

「また、来るね」

 また来るって、言ってくれた。

「うん。待ってるよ」

 ありがとうとごめんねと。伝わるようにと思いながら。

 カートはさっきよりもすっきりした笑顔で出ていった。

 好きになってくれてありがとう。伝えてくれてありがとう。

 応えられなくて、ごめんね。



 チェザーグさんとアルディーズさんは、騒がせてすまなかったな、と言ってくれて。

 ベイターさんはカートの様子に気付いているのかわからないけど、ただ優しい顔でありがとうと言われた。

 ゼクスさんたちとロイは、またすぐ訓練だから休んでおくようにだって。

 店から来てくれたアリー、私をぎゅっと抱きしめてくれる。

「またすぐ来るからね!」

「うん。色々ありがとう。待ってるからね」

 アリーにはいっぱい話聞いてもらって。励ましてもらったよね。

 ホント、感謝してるよ。



 ジェットたちが降りてきて。

「ありがとな、レム。また次来るから」

 いつも通りのジェット。ダンとリックもお礼を言ってくれて、またすぐ来るからって。

 ナリスは私を見て微笑んで。別れの言葉の代わりに立ち止まった。

「ジェット、ダン、リック」

 振り返った三人を、ナリスはじっと見返して。

「ごめん、まだ大事な用事が残ってるんだ。先に行ってて」

「ナリス?」

 最初は不思議そうにしてたジェット。ナリスと私を見て、理由に気付いたみたい。少し笑ってそうかと言った。

 そこに皆を見送りに来たお父さんとお母さんが来て。立ち止まってるジェットたちを見て、どうしたって聞いた。

「レム」

 ナリスが私に手を差し出してくれたから。私は受付から出て、その手を取る。

 ふたりで手をつないで。驚いてるお父さんとお母さんの前に行った。

「アレックさん、フィーナさん」

 ナリスの声、滅茶苦茶強張ってる。

 つないだままの手をぎゅっと握ると、ナリスも強く握り返してくれた。

「俺はレムを愛しています。俺たちの交際を認めてください」

 お願いします、と、ナリスが頭を下げた。

「お願いします!」

 私もそう言って頭を下げる。

 お父さんもお母さんも何も言わないから、そのまま下を向いて待ってたら。

 お父さんが、大きな溜息をついた。

「頭を上げろ。ジェット、ナリスは置いていけ」

「あ、ああ…」

 顔を上げると、お父さんは私とナリスを見てもう一度溜息をついた。

「話はあとだ。先に見送りに行く」

「お、お父さん…」

「ナリスはここで待ってろ」

「わかりました」

 お父さん、私とナリスを通り越して外に向かって。

 お母さんはちょっと笑って、私の背中に手を添えた。

「お見送りしないとね」

 行っておいでと頷いて、ナリスが手を放してくれたから。お母さんに連れられて皆の見送りに行った。



 皆を見送って。お父さんとお母さんと宿に戻ってきた。

 あのまま待ってたナリスがこっちを見てる。

「とりあえず話は聞く。フィーナ、テオと、ソージュも呼んできてくれ」

 お母さんは頷いて出ていった。

「お前たちは家に」

「うん」

 言われた通り、ナリスと一緒に裏口から家に行く。

「ごめんね、ナリス」

 裏口からの廊下を歩きながらそう言うと、ナリスは笑って頭を撫でてくれた。

「謝ることじゃないよ。許してもらえるように精一杯やろう」

 ナリス、笑ってくれてるけど、やっぱりかなり緊張してるよね。

「うん、ありがとう」

 がんばってくれてるナリスが嬉しかった。

 ふたりで家に行って。話をするならここかなと思って、一階のテーブルの部屋で待つ。

 私がこんなに緊張してるんだもん、きっとナリスはもっとだよね。

 ふたりなのに全然話せなくて。でもテーブルの下で手だけはつないで。お父さんが来るのを待ってた。

 しばらくして、お父さんとお母さんが入ってきた。私たちの前に並んで座って、じっと見る。

「…正直、突然で俺も混乱してる。聞きたいことはいくらでもあるが…」

 お父さんの視線が、まっすぐナリスに向けられた。

 めっちゃ睨んでる! お父さん、怖いから!!

「うちの娘はまだ成人してないんだが。まさか手ぇ出してないだろうな?」

 ナリス、すぐ答えられなかったみたいで。

「…そこまではまだ……」

 少し間があって、そう返事してたけど。

 そこまでってどこ??

 まだって何??

 そもそも何のこと??

 お父さんにはわかったみたい。私たちを見て溜息をついた。

「…で、認めろとはどういう意味だ?」

「レムと付き合う許可を…」

「知らん」

「お父さん?」

 聞いたのはお父さんなのに!

 おろおろする私、睨んだままのお父さん。ナリスを見ると、まっすぐお父さんを見返してる。

「アレック」

 お母さんが呟くと、お父さん、白々しく咳払いして。

「さっきも言ったが、レムはまだ十六になったばっかりだ。ナリス、お前は?」

「あと数日で二十五になります」

 ナリス、二十六日が誕生日だもんね。

「それだけ違うと、色々ズレもあるんじゃないか?」

 …要するに、私がこどもすぎるってこと、だよね。

 テーブルの下、ナリスがきゅっと握る手に力を入れた。

「俺はレムだから好きなんです。年は関係ありません」

「私だって、ナリスが何歳でも関係ないよ」

 お父さん、ナリスと私を順に見て、だから、と呟く。

「お前たちが俺たちにすべきことは、許可を得ることじゃない。まずは報告することじゃないのか?」

 お父さん?

 驚く私とナリスに、お父さんはちょっと表情を和らげて。

「そりゃあ俺だってどんな奴でも気にしないとまでは言わないが。でも一番大事なことは当人たちの気持ちだろう?」

 お父さん?? それって!!

 私とナリスは顔を見合わせて。それからお父さんを見る。

「レムがナリスを選んで。お互い同じ気持ちだというなら、付き合うということ自体には反対はしない」

「お父さん!」

「ただし」

 ありがとうと言いかけたら、お父さん、低い声でそう続けた。

「守るべき節度については、このあとふたりでゆっくり話そうな?」

 お父さん、めっちゃナリスを見てる。

 ナリス、視線、泳いでるよ。



 それからナリスは家でお父さんとふたりで話すことになって。

 私はお母さんと、宿の厨房に移動することになった。

 私たち三人が抜けてるから、宿の仕事、お兄ちゃんとソージュのふたりでしてくれてるみたい。お兄ちゃんがこっちにいるってことは、店のことはククルひとりでやってくれてるんだよね。

 今回ククルに休んでもらうはずだったのに、ホントに申し訳ないよ。

 厨房に行ったら、お茶を淹れるわねってお母さんが言ってくれた。

「…ごめんねお母さん。面倒かけて」

「何言ってるの」

 お母さんはそう笑って。

「やっと話してくれて嬉しいわ」

「お母さん知ってたの??」

 滅茶苦茶びっくりしてそう言うと、お母さんは笑ったまま頷く。

「お父さんは気付いてなかったけどね」

 お母さん、知ってたのに黙っててくれたんだ…。

「あなたもいつの間にかそんな年になったのね」

 しみじみと呟いたお母さん、溜息をついて。

「こんなことならククルと一緒に済ませておけばよかったわ」

 な、何?

「色々話すから。ちゃんと聞くのよ?」

 仕方なさそうに笑って、そう言われた。

 それからお茶を飲みながら。

 大人の女性としての話をされたけど。

 …まだ、こどもでいいよ……。



 ナリスとお父さんの話は長引いてるみたいだから、私とお母さんはひとまず宿の仕事に戻った。

「お兄ちゃん、ソージュ、迷惑かけてごめんね」

 謝る私に、お兄ちゃんは苦笑してる。

 ソージュはちょっと笑って、気にしないでって言ってくれた。

 多分もう一度抜けることになるから、お兄ちゃんたちに先にお昼を食べに行ってもらって。任せっぱなしだった分、がんばらないとね。

 お兄ちゃんとソージュが帰ってきて。

 しばらくしたら、やっとナリスとお父さんが宿に来た。

 ナリス、疲れた顔してるけど。私を見て笑ってくれた。

「あともう少し話があるが、とりあえず昼を食べてこい」

 お父さんにそう言われて。ナリスとふたりで宿を出る。

「…どう、だった?」

 やっぱり反対だとか、言われてないよね?

 心配でそう聞くと、ナリスは微笑んで頭を撫でてくれた。

「大丈夫。レムを大事にするって約束をしてただけだから」

 ナリスの言葉に、さっきお母さんにされた話が頭をよぎって。

 そ、そういう話?

 …気付かなかったことにしよう……。

「レム」

 食堂に入る前。ナリスが足を止めて私に向き直る。

「ずっと傍にいられなくても。俺はレムを愛してるから」

 まっすぐ私を見て。ちょっと照れながら。

「レムのところに帰るから。待っててくれる?」

 ギルド員のナリスは旅生活で。家も本部のある中央で。

 年に一回か二回しか会えないことだって、あるのかもしれないけど。

 それでも。

「うん。待ってるよ」

 私もナリスが好きだから。

 いつでも信じて待ってるよ。



 店でククルに報告したら、滅茶苦茶びっくりした顔で固まっちゃって。

 ごめんねククル。何も話さないままだったもんね。

 お昼を食べて、よかったわねって言われて。

 宿に戻ると、またお父さんに家に来いって言われた。

 朝と同じように向き合って座って。

 私を見るお父さんは、朝よりは優しい顔をしてる。

「まぁ、何だ。会う機会が限られている分、ふたりでよく話すといい」

「ありがとう、お父さん!」

 お父さん、笑って頷いて。

 それから色々注意をされた。

 ナリスの泊まってる部屋に行くのは禁止で。人前でベタベタするなとも言われた。

 厨房はって聞いたら、お父さん、ふたりきりは駄目だって。

 …ちょっと待って? よく話せって言われたけど、それじゃどこで話せばいいの??

「アレック」

「だが…」

「あなただって、気持ちがわかるでしょう?」

 私の顔を見て、お母さんがお父さんにそう言ってくれて。

 お父さん、仕方なさそうにだったけど。厨房で会うのは許してくれた。



 ふたりでしたい話もあるだろうからって、ここに残って話してきていいって言ってもらえて。

 渋々のお父さんとお母さんが部屋を出て、ナリスとふたり。

 そうだ、今のうちに。

 ちょっと待っててって言って。部屋から用意してた誕生日プレゼントを持ってくる。

「ナリス。これ私から」

 訓練の合間だから、誕生日当日には会えないだろうからね。

 ナリス、かなり驚いた顔して。包みを受け取ってくれた。

「…ありがとう。三人からのはもらってたから、びっくりした…」

 お兄ちゃんとククルと。三人で外套贈ったんだよね。

 開けていいって言われたから頷いて。

 喜んでもらえるか、緊張するよ。

 私からナリスには、柔らかい落ち着いた水色の生地でシャツを縫った。

 毎年お父さんに贈ってるから、着れない程下手ではないと思うんだけど。

 包みを開けたナリス、じっとシャツを見て、顔を上げる。

「…作ってくれたの?」

「大きさ、合えばいいんだけど…」

 そう言うと、ナリスは嬉しそうにもう一度シャツを見て、テーブルに置いた。

「ありがとう」

 ナリスの手が頬に触れる。

「嬉しい」

 そのままゆっくりキスされて。

 一度離れて、またキスして。繰り返して。

「待っ…ん…」

 ナリスも嬉しいのかもしれないけど!

 いつの間にか頬から頭に手が動いてて。反対の手で抱き込まれてて。逃げられない。

 もう…まだ渡すもの、あるのに…。

 しばらくされるがままキスされて。間違いなく真っ赤になってる私にナリスはごめんと笑うけど。

 もう!! 悪いなんて思ってないよね??

「待ってって言ったのに…」

 ちょっと拗ねながら、もうひとつの包みをナリスに押しつける。

「これは?」

「セレスティアのお土産」

「お土産?」

 開けるね、とナリス。中はもちろん、セレスティアで買った茶色の生地で作ったエプロン。

「セレスティアはナリスにとってお土産買うようなとこじゃないだろうけど、何か買いたくて。その生地を買って、作ったの」

「こっちも作ってくれたの?」

 頷くと、抱きしめられた。

「…もう、ホントに」

 ぎゅうぎゅう抱きしめてくるナリス。

「我慢するの、大変なんだから…」

 小さな声でそう囁いて。少し腕を緩めて、今度は優しく触れるだけのキスをして。

「…ありがとう、レム」

 もう一度ぎゅっと抱きしめられて。

 嬉しそうな声が、耳元で聞こえた。

 ふたりの節目の回ですね。長くなりました。

 アレックと一対一。面談状態、辛そうです。

 レムは器用ですね。ちなみに外套は買いました。

 フィーナの両親は厳しい人だったので、アレックは少々窮屈な思いもしてきました。普段はアレック主導ですが、夫婦の力関係はフィーナのほうが上です。

 本編はめげないラウルと覚悟を決めたロイ。

 やはり予定にない行動を取られました…。

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冬野ほたる様 作
― 新着の感想 ―
[一言] アレックとフィーナの力関係は 他にも何箇所かで見た記憶はあるものの。 昔、アレックが窮屈な思いをしていてのだとしたら 自分がそれで大変だったという記憶はありつつも それが当然、と思ってしま…
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