三八三年 祝の十二日
訓練が始まったんだけど。
多分昨日のアルディーズさんのことを知ったロイとウィル。それにお兄ちゃんも。機嫌悪いよね…。
それにしても、初対面で告白って何?
一目惚れ? にしたって告白する?
もちろん本人に聞けるわけないけど!
もう気になって仕方ないよ!!!
午前の訓練が終わって、帰ってきたカートたち。
二年目の子かな、しんどそうな子もいるけど、カートは余裕だね。前を通るだけなのに、滅茶苦茶手を振ってくれたよ。
「…仲いいの?」
手を振り返してたらソージュに聞かれた。
「仲がいいっていうか、カートがああいう人だから、かな」
カート、人懐こいよね。
ふぅん、と呟いて。ソージュは向こうやってくるって行っちゃった。
カートもソージュもいい人だから。すぐ仲良くなれると思うんだけどな。
午後の訓練を終えた皆はやっぱり疲れてたけど、フェイトさんはまだ元気なほうかな。
見るからにぐったりした四人がニ年目の子だよね。大丈夫かなって思ってたら、やっぱり夕食のあと先に帰ってきた。
追加訓練、出なかったんだ。
ただ疲れた顔っていうより、落ち込んでる顔をしてるから。ちょっと心配。
皆が追加訓練している間にゼクスさんたちの食事の時間なんだけど。
ゼクスさんたちは帰ってきたのに、あとの三人が全然戻ってこない。
何してんだろって思ってたけど。夜になって、アリーが話しに来てくれた。
ふたりで厨房に行って、お茶を淹れてる間にアルディーズさんの話を聞く。
アルディーズさん、一目惚れじゃなかったんだね。
まぁそれでもどうかと思うけど。
せっかくアリーが来てくれたし。アリーならナリスとのことも知ってるし。
もしいいなら、ちょっと話聞いてもらえないかな。
アリーにお願いすると、ふたつ返事でもちろんって言ってくれた。
カートの名前は伏せたけど。訓練が終わったら話を聞いてほしいって言われてて。好きな人がいるのにその話を聞いていいのか迷ったって話した。
アリーはそうねと呟いて。
「レムだったら?」
「私?」
「そう。好きな人にね、好きですって言いたいのに。言う前に、ほかに好きな人がいるからって断られたらどう思う?」
アリーの言葉に考える。
私だったら。
ナリスが私を好きかわからなくて。私が好きって言おうと思ったら、言わせてももらえなかった…って。
駄目、悲しい。
でも。言って、ほかに好きな人がいるって言われるのも悲しいよ?
どうしよう。どっちにしても悲しい思いをさせるよね。
じわりと込み上げた涙を拭うと、アリーがちょっと笑って頭を撫でてくれた。
「レムったら、考えただけで悲しくなったの?」
「だって、そんな思いをさせるのわかってるのに、そうするしかないのが申し訳なくて」
そう言ったら、アリーはびっくりしたように私を見て、それからぎゅっと抱きしめてくれた。
「相手の為に悲しんでるのね」
優しいのね、と呟いて。
「でもレム。あなたが相手の想いに応えられない以上、仕方ないのよ」
うん、わかってる。
私はナリスが好きだから、ほかの人に頷くことはできない。
謝ることしかできないよ。
アリーは私を抱きしめたまま、もうひとつ、と呟いて。
「ナリスさんにも、ちゃんと話しておくのよ?」
「ナリスに?」
「そう。レムの口から、先にね」
そんなこと言ったらまた不安にさせるかなって思ったけど。
私だったら、話してほしいって思うから。ちょっと怖いけどちゃんと話すよ。
「ありがとう、アリー」
ありがとうの気持ちを込めて、ぎゅっと抱きしめ返したら。
「レムはホントにかわいいわね」
そんなことを言われて、さらにぎゅっとされた。
訓練初日。レム的にはまだ平和です。
アリーはすっかり頼れるお姉さんですね。
本編はラウルの過去。
実際こんなこと言われたら引きますかね…。