三八二年 雨の二十七日
ダンが来た。
「レムも大変だったな」
そう言って、いつもみたいに頭を撫でてくれる。ホント、小さいときからこうして撫でてくれるんだよね。
「さっき来てたから、ジェットはウィルバートさんの部屋じゃないかな。ダンの部屋の向かいね」
鍵を渡してそう言うと、ありがとうと返してくれる。
ダンが迎えに来たなら、ジェットももう帰るのかな。賑やかだったから、またちょっと寂しくなりそう。
お兄ちゃんが戻ってきて、ククルを今日部屋に泊めてほしいって言われた。お父さんとジェットにゆっくり話をしてほしいんだって。
言われてみれば、お父さんもジェットもいつも働いてるもんね。
お母さんにもお願いして、皆で準備を進めた。
喜んでくれるかな。
「ありがとう、レム。ふたりとも嬉しそうだった」
部屋に来たククルがそう言ってくれる。
「よかった。ね、ククル。こっちもちょっと話そう?」
もちろん、と笑ってくれる。
前にうちに泊まりにきたのは、クライヴさんたちが亡くなった日の夜だった。あのときと、今。全然違うククルの笑顔に、よかったと思う。
「お兄ちゃん、ちょっとは慣れた?」
初日は緊張してあんまり眠れなかったって言ってたけど。
「慣れたっていうより、いつも通り。ほんと、テオはすごいわね」
ふふっと笑ってククルがほめてる。
お兄ちゃん、よかったね!
「レムは? 忙しくなったんじゃない?」
大丈夫、と言おうとしたら扉を叩く音がして。誰かなんて見るまでもないけど。
「また話してんだろ? ほら」
ずいっとお茶のトレイを渡される。
「お兄ちゃんも入れば? もう仕事終わりでしょ?」
「えっ」
帰ろうとしたお兄ちゃんにそう言うと、一瞬固まってククルを見た。
にっこり笑って頷くククルに、じゃあ、と言って入ってくる。
「お疲れ様」
「うん、ククルも」
ぽすんと入ってすぐのところに座って。ちょっとそわそわしてるかな。
「テオは疲れてない?」
「大丈夫。慣れてきた」
お兄ちゃんの答えに、ククルと顔を見合わせて笑う。
「何だよ」
「何でもない」
いつも通りのお兄ちゃん。
頼りにしてるよ。
気の利くテオですが、レムにはどちらかというと振り回されてますかね。
それも含めてかわいい妹…なんでしょうか?