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三八三年 明の三十一日

本編『明の三十二日』のネタバレを含みます。

もちろん今回も長くなりました…。

 今日のお昼前にジェットが迎えに来ることになってるから、それまでアリーがまた一緒に街を歩いてくれるって言ってくれた。

 お店が開くまでは、アリーの家、というか店を見せてもらってたら、ルミーナさんが私とククルとお兄ちゃんにお土産だって言ってグラスを包んでくれた。

 お兄ちゃんたちはまだ行かなきゃいけないところがあったから、渡せなかったんだって。

 泊めてもらった上にお土産までもらっていいのかなって思ったけど、アリーもロイも嬉しそうに選んでくれたから。素直に甘えることにした。

 ホントに。いくらお礼を言っても足りないよ。

 お店が開き始めてからは、あちこち見ながら歩いて。

 大体の時間は伝えておいたから、それに合わせてファンドさんのお店に行った。

「おはよう。待ってたよ」

 ファンドさんが笑顔で迎えてくれる。

「これなんだけど。気に入ってもらえるかな」

 渡してくれたのは、両手からはみ出すくらいの大きさの、薄めの箱。

 蓋は升目に区切ってひとつずつ色んな彫りと透かし彫りが交互に並んでて。側面も全部彫りが入ってる。

 待って、いくら私が詳しくなくってもわかる。これ、私の予算どころの値段じゃないよ?

「ファンドさん! こんな立派なの買える程―――」

「レムさん、と呼んでも?」

 返そうとした私の言葉を遮って、ファンドさんはそう言って。頷くと、自分のことも名呼びでって言ってくれた。

「蓋はね、昔に作ったやつなんだけど、弟子用の手本なんだよ」

 お弟子さんの?

 見返す私に頷いて。

「全員もう独立して、今は弟子はいないから。少しでも役に立つなら、と思ってね」

 向けられる優しい笑顔。

「同じ細工職人に、あれだけ丁寧な仕事のできる若者がいることが本当に嬉しいんだ。そして限られた滞在時間を、その彼の為に使うレムさんに出会えたこともね。それだけで彼の人柄がわかるってものだよ」

 そっと、箱を私のほうに寄せて。

「私から、未来のすばらしい職人への投資なんだ。受け取ってほしい」

「ネウロスさん…」

 ネウロスさんの温かな言葉と思い遣りと、ソージュが認めてもらえたことの嬉しさと。

 本当に。何で皆こんなに優しいのかな。

「レムってば」

 零れた涙に、アリーが笑って抱きしめてくれた。

 ネウロスさんはちょっと驚いてたけど。

 泣きながらお礼を言うと、若き職人によろしくね、と笑ってくれた。



 もう戻らないと、とアリーに言われて。何度もお礼を言って店を出る。

 外まで見送りに出てくれたネウロスさん、私にはアリーと合作を送るって笑ってたけど、本気なのかな??

 アリーの家に戻りながら。ネウロスさんを紹介してくれたことにお礼を言うと。

「レムもソージュも。絶対気に入られると思ったのよ」

 アリーはそう笑ってた。

 戻ると何人か人影があったから、ジェット、もう来てるのかって思ったら。

 ジェットの隣! ロイはわかるけど、ナリスがいるよ?

 何で?

「朝からありがとな、アリー」

 ジェットが手を上げてそう言って。

「弟子のナリス。ま、もうとっくに教えることないけど」

 はじめまして、とナリスが頭を下げてから、私を見た。

「せっかくだから。俺も行くよ」

「え??」

「そうなんだよ。昨日話したら、俺も行くって言い張って」

 不思議そうに言うジェットと、微笑んで私を見るナリスと、驚く私を見比べて。

「…レム」

 アリーが小さく私を呼んだ。

 がしっと腕を掴まれて、三人に背を向けるようにくるっと回される。

「あの人?」

 今のでバレたの??

 何で?

「でも、あの様子じゃ向こうも…」

 あわあわしてると、アリーにさらに小さな声でそう言われたから。

 頷くと、すごい顔されたよ??

 アリー、私の腕を掴んだまま、くるりと三人を振り返って。

「いっぱい歩いたから喉乾いちゃったし。お水飲む時間くらいもらえるわよね?」

 アリーがどんな顔してたのかは見えなかったけど。三人共ちょっと怯えてたのは気のせいだよね?

 アリーは私を家に引っ張っていって。私の分だけお水を出して。

「で。どういうことなのか説明してちょうだい」

 滅茶苦茶至近距離で美人にすごまれたよ!

 どういうことって言われても。ねぇ…。

 ナリスに好きだって言われて。私も好きになって。恋人になったんだって話したら。

 アリー、私の肩を掴んで溜息をついて。

「もっと詳しく聞きたいのに! 何でゴードンで話してくれなかったのよ」

「恥ずかしいから…」

 そう言うと、私をぎゅっと抱きしめて。

「かわいいんだけど!」

 何でかそんな宣言をされて。また三人の前に引っ張って行かれた。

 そこから、やっぱり自分も送るって言い出したアリーを説得するのに、しばらくかかったけど。

 渋々引き下がってくれたアリー。じっとナリスを見上げたと思ったら。

「泣かせたら承知しないわよ」

 アリー!! 何を言うの??

 うろたえる私とぽかんと見てるジェットとロイと。ナリスだけはまっすぐアリーを見返して、頷いた。

「わかってる」

「アリー!!!」

 ようやく声の出た私に、当然じゃない、と笑うアリー。

「…え……レムとナリスって……そうなんだ…」

 何かぶつぶつ言ってるロイ。

 ジェットはしばらく固まってたけど、滅茶苦茶大きな溜息をついてしゃがみ込んだ。

「…お前ら、いつから……」

 隠そうと思ってたわけじゃないけど!

 バレちゃったよ??



 ロイにお礼を言って。

 アリーを抱きしめて、何度もお礼を言う。

「またすぐ会えるわよ」

 優しい声でそう返して、抱きしめ返してくれるアリー。

 ホントに色々ありがとう。

 またライナスに来てくれるの、楽しみに待ってるからね!

 いっぱい手を振りながら離れて。

 ゴードンへはもちろん馬で行くんだけど、開き直ったナリスが私を乗せるって言い張って、ふたり乗りでゴードンへ向かうことになった。

 お父さんとお兄ちゃんに一緒に乗せてもらったときは全然気にならなかったんだけど。

 近いよね!

 めっちゃ近いよね!

 うしろから手綱を持つから抱きしめられてるみたいで落ち着かないよ!

 ナリスはそんなに気にした様子もなくて。普通に話してくれてるけど。

 ゴードンまで、もつかな、私…。

「楽しかった?」

 ひとりでそんな心配してたら、ナリスがそう聞いてくれた。

「うん。楽しかった」

 色々あったよ、って話していく。

 アリーとゴードンで店を回って宿を見学させてもらったこととか、セレスティアでネウロスさんを紹介してもらえたこととか。

「木工細工?」

「そう。ソージュにね、お土産買いたくて」

 ソージュの櫛、ほめてもらえて嬉しかったな。

 ナリスが黙って聞いてくれるから、ついアリーのすごさまで力説しちゃった。

「…そっか」

 ぽつりとナリスが呟いて。片手を手綱から放して私の身体をぎゅっとする。

 片手で大丈夫??

 っていうか、背中、ぴったりくっついてるから!

「ナ、ナリス?」

 さらにぎゅうっとされてから。

「楽しかったならよかったよ」

 そう言ってから、放してくれた。



 夕方ちょっと前にゴードンに着いた。

 ジェットもナリスも慣れてるから。やっぱり私がひとりで乗るより早く着くよね。

 ふたりで宿をどうするか相談してるから、いつも行くとこはないのって聞いたら、ギルド員ばっかりだから私が泊まりにくいだろうって。

 それならって思って。アリーと泊まったところに行くことにした。

 お姉さん、覚えててくれて。また来てくれてありがとうって。

 何だか嬉しいよね。

 今日はジェットとナリスは同室で。いつもうちではひとり部屋なのにね。

「当たり前だろ。何かあったら俺がアレック兄さんに殺される…」

 ジェットはそんなことを言って。ナリスは苦笑してる。

 暗くなるまではまだ少しあるから、ナリスとふたりで見て回ることになった。

「ジェットは?」

「いい。ふたりで行ってこい」

 仕方なさそうにだけど、優しい笑顔。

「ただ。ナリス、わかってんだろうな?」

「わかってるって」

 私はわかってないけどいいのかな?

 ナリスにそう聞くと、頭を撫でられた。



 ふたりで外に出る。

「どこに行きたい?」

 ナリスは笑ってそう聞いてくれる。

「お店見たい」

 そう答えたら、わかったって言って。

 すっと手をつながれて、歩き出す。

 こうやって手をつないで歩くのって初めてだなって気付いたら、何だか嬉しいけど恥ずかしい。

 でもきっと、ほかの人には兄妹みたいに見えてるんだろうな。

 そんなことを思いながら、お店を覗いて歩いてく。

「何も買わなくていいの?」

 心配してナリスが聞いてくれた。

 お土産はセレスティアで買っちゃったし。お金もだいぶ使っちゃったし。どうしても気になるものがあれば、くらいにしか考えてないんだよね。

「うん、いいの。一緒に歩くだけで楽しいもん」

 そう言ったら、ナリスは立ち止まって私を見てから、急にぎゅっと抱きしめてきた。

 ナリス? ここ道だから!!

 すぐ離してくれたけど。恥ずかしくて顔上げられない。誰も見てなかったらいいんだけど。

 また手をつないで歩き出してから、ナリスが私を見つめて笑う。

「でも俺、せっかくだからレムに何か買いたい」

「いつももらってるからいいよ…」

「そんなこと言わないで」

 ホントに優しいよね。

 でも嘘じゃないよ?

 ナリスが好きな旅を、今、一緒にできてるんだから。

 それで十分。

 そう思ってたんだけど、結局どうしてもって言われて。色違いのペンを、お互い相手のを選んで買ってもらった。ナリスのは私が買いたかったんだけど、いいかっこさせてって言われて払わせてもらえなかった。

 ナリスは私に明るい水色の軸のを。

 私はナリスに濃い藍色の軸のを選んで。

 お揃いだね。もちろん嬉しいよ。

 そうするうちに暗くなってきたから宿に戻った。



 ジェットと三人で夕食を食べて。

 お姉さん、私を見ると話しかけてくれて。今日も見に来てもいいよって誘ってくれた。

 もちろん大喜びで見せてもらったよ!

 お姉さんはおとといとは違うところを見せてくれた。

 シーツとかも多いだろうし、干すとこもなさそうだなって思ってたら、最上階が物干し場なんだって! 低めの天井に大きな窓がいくつもついてて。もちろん壁にも窓があって。天気がよければ開けて、悪ければ閉めて。

 雨でも干せていいなぁって言ったら、お姉さんは洗ったあと干しに上がるのが大変だけどって笑ってた。

 お姉さんにお礼を言ってから、部屋に戻る。

 ナリスが一緒に来てくれたけど。興味なかっただろうな、と申し訳なくなった。

「ごめんね、一緒に来てもらって」

「どうして? 俺も楽しかったよ」

 微笑んで、私の頭を撫でる。

「レムが嬉しそうだったから。見てるだけで俺も嬉しい」

 そんなことを言いながら、部屋の前まで送ってくれた。

 扉を開けて。いつもと逆だねって笑って。

「じゃあおやすみ、レム」

「おやすみ、ナリス」

 扉を閉めようとしたけど閉まらなくて。下を見て、ナリスが足で止めてることに気付いた。

 ナリス??

 びっくりして顔を上げたら、ナリスは辺りを見回して。

 何も言わずにキスをして。

 にっこり笑って足を抜いた。

 まずはお詫びを。ここでナリスとアリーが会っていることを失念して本編書いてましたね。『祝の十四日②』訂正しておきました。すみません…。

 ネウロスさんは好きなものをじっくり作るタイプで。ご贔屓さんができて生活に困らなくなった今は、ゆっくり好きなように作っています。ただ、基本作るが好きなので、納得いくまでゆっくりといっても長時間作業する為、手が遅いというわけでもなさそうです。

 一方ジェット。自分の弟子と姪同然のレムとの関係を知って、まず浮かんだのはアレックの顔でしょうね…。夜に宿で、これでもかとばかり釘を刺してることでしょう。

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冬野ほたる様 作
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