三八三年 明の三十日
本編『明の三十二日』のネタバレを含みます。
予想通り長くなりました。
朝早く、セレスティアに向かった。
早起きは慣れてるからね!
早く着きたいから、今度も馬で。こんなに長時間馬に乗ったことなかったけど、何とかなるもんだね。
お昼過ぎくらいにセレスティアに着いて。まずはってアリーに連れてこられたところは、どう見てもお店で、『スタッツガラス工房』って看板が掛かってる。
「え? これアリーの家?」
「そうよ。ようこそうちの店へ!」
にっこり笑って入っていくアリーについていくと、店の中は色とりどりのガラス製品。
何ここ? 滅茶苦茶綺麗なんだけど??
入口に入っただけでぼんやり見つめてたら、奥からロイが出てきた。
「よく来たね、レム」
一瞬ビックリしたけど、双子なんだし当たり前だよね。
でも。アリーの髪が黒いけど、ホントそっくり。
「思ってたより早かったね。アリーに無茶させられてない?」
「全然! 楽しかったよ」
そう言うと、よかったってロイは笑ってくれた。
お父さんとお母さんを紹介されて。今日はここに泊まってねって言ってもらえて。
ククルから預かってたお菓子を渡したあとは、街に出ることになった。
お世話になったっていうコーフェンさんって人に、ククルからお菓子を預かってる。
ククルは後日送るからいいって言ってくれたんだけど、お兄ちゃんもお世話になったんだし、ここまで来たんだからちゃんと挨拶したかった。
ロイに場所を聞くと、連れてくよって言ってくれたから。ロイとアリーと三人で行って、コーフェンさんにお礼を言って。
ロイとはそこで別れて、アリーと街を歩き出した。
「木工細工の店よね」
どこに行きたいって聞かれてたから。それだけはアリーに伝えておいた。
「知り合いのお店があるから、そこに行くわね」
ずらっと並ぶお店の間を、ゆっくり進むアリー。私が見れるように、だよね。
途中にも木工のお店はあったけど、アリーはどんどん進んでいく。
どう歩いたなんて私にはわからないけど、段々店構えが大きくて立派になってきた。
ちょっと待ってアリー? この辺りのお店って間違いなく高級店だよね?
わたしのお給料じゃ買えないよ?
あわあわする私に大丈夫って笑って。アリーは一軒の店に入っていった。
「ちょっと奥に行くから。ここで見てて?」
お店の人と少し話して、アリーは奥に入っていっちゃった。
店の中に並ぶのは、わたしでもわかるくらい丁寧で細かい木工細工。
手に取っていいですよって言ってくれたけど、怖くて無理だから!
木の表面を削って絵を描いたもの、それに色をつけたもの。透かし彫りに、細かいガラスをはめ込んだもの。
入れ物、置き物、小さいのも大きいのも。
何だろう。触るのは怖いけど、大事に作ってもらったんだなってわかるから、見てるだけで嬉しくなる感じ。
ソージュが見たら感動するだろうな。
ただ、何ていうか。私、場違い感がすごいんだけど!
アリー、お願いだから早く帰ってきて!!
少しして、アリーはふたりで戻ってきた。
一緒にいるのはお父さんより年上の男の人。ものすごく優しい顔をしてる。
「お待たせレム。紹介するわね。ここの店主のネウロスさん」
「ネウロス・ファンド。お嬢の仕事仲間だよ」
お嬢ってアリーのこと?
そんなことを思いながら、慌てて私も名乗る。
「レム・カスケードです」
「レムはねぇ、私の友達! いい子なのよ」
私をぎゅっとして、アリーが笑う。それから私に、見た、と聞いて。
「ネウロスさんの細工、私大好きなのよ。だからどうしてもここに連れてきたかったの」
「お嬢は嬉しいことを言ってくれるねぇ」
嬉しそうに笑って。ファンドさんは私を見た。
「私に見てほしいものがあると聞いたんだけど。見せてもらえるかな?」
え、アリー、そこまで話してくれてるの?
「お、お願いします!」
荷物からソージュの櫛を出して、ファンドさんに渡す。
「お嬢と店を見ててくれるかな」
そう言って、ファンドさんはものすごく真剣な顔で櫛を見始めた。
奥にもあるのよ、と、アリーが連れていってくれる。
奥には家具とかもあって。扉に模様が彫ってあったり、ガラスの絵がはまってたり。
アリー、仕事仲間って言われてて。
アリーの家はガラス工房で。
で、今目の前のこれ。
「…これ、アリーが?」
そう聞くと、アリーはちょっと笑って。
「よくわかったわね」
だって!!
ガラスの絵、模様みたいにお花がいくつも描かれてて。花びらとか一色じゃなくて、自然と色が変わっていってる。
店を見回してみると、ほかにもいくつかガラスの絵を使ったものがあって。
風景だったり、模様だったり。絵として飾れそうなくらい!
アリーって。美人で強くてかわいくて、それにこんな綺麗なものまで作れて。
どれだけすごいの??
ファンドさんが呼んでくれて。大事なものを渡すように、櫛を返してくれた。
「丁寧で気持ちの籠もった仕事をしてるね。歯の一本一本まで手を抜いた様子がない。細工の技術は確かに拙いところもあるけれど、まだお嬢のふたつ下でこれならたいしたものだね」
聞いてて泣きそうになった。
ソージュ!! ほめられてるよ!!
ソージュすごいよ!!
私が感動してると、ファンドさん、にこりと微笑んで。
「彼にお土産を買いに来たんだよね。予算、聞いてもいいかな?」
何で、と思いながら伝えると。
「じゃあその金額に見合うものを用意するから。明日出発前に寄ってもらえるかな」
よくわからないまま頷くと、ファンドさん、にこにこしたまま。
「ありがとうね、お嬢。いい出会いで嬉しいよ」
「でしょう? 私も今回楽しかったの!」
また聞いてね、とアリーが笑う。
年齢的には親子だけど、友達みたい。仲いいんだね。
「そういえば、ロイ坊のあれ、どうだって?」
「あれは店に出さないって。ロイにとって特別な色だから」
「そうか…。いい色だから使いたいんだけどね…」
ひょっとして、ロイも職人さん?
そういえば、ククルが店で使ってる水差し。ロイにもらったって言ってたけど、あれってロイが作ったってことなのかな?
皆すごいね…。
ファンドさんにお礼を言って。まだ明るいから街を見て回る。
途中で見つけた染物屋さん。一色じゃなくて、系統にわけて何色かで染めてる布があって。
ライナスこんなのじゃ見ないよね!
今年のククルのと、来年のお兄ちゃんのエプロン用に色違いで買っちゃった。
切ってもらってる間に店の中を見てたら、黒に近い、濃い茶色の生地を見つけて。
ちょっと悩んで。それも切ってもらった。
初めての旅行だからナリスにもお土産買いたかったんだけど、ゴードンもここもナリスにとってはお土産買うようなところじゃないんだよね…。
だからどうしようかと思ってたんだけど。これでエプロン作って、宿を手伝ってくれるときに使ってもらおうかな。
セレスティア、ホントにお店が多くて。とてもじゃないけど一軒ずつ見れないのがちょっと残念。
アリーは文句を言うどころか、むしろ楽しそうに夕方まで付き合ってくれた。
感謝しかないよ。
アリーの家に戻ると、ロイがお客さんが来てるって言いに来た。
私も一緒に行っていいって言われて不思議に思ったけど。理由はすぐわかった。
通された部屋、ジェットが座ってるんだもん!!
「楽しかったか?」
「何でジェットが?」
私がそう言うと、ジェットは笑って立ち上がった。
「ちょっと礼を、な」
そう言って、アリーの前に立って。
「アリヴェーラさん?」
「ええ」
「俺はジェット・エルフィン。クゥたちからもよくしてもらったって聞いてる。本当にありがとう」
頭を下げるジェットに、こちらこそ、とアリーが笑って。
「私のほうこそ。知り合えてホントに嬉しいのよ」
隣の私に抱きついて、そんなことを言ってくれるから。
「私もアリーと友達になれて嬉しいよ」
思わず私も抱きつき返してそう言うと。
「もぅ! ホントにレムはかわいいわね」
って、さらにむぎゅっとされた。
三人でお茶を飲みながら。
「クゥと入れ違いで帰るなら今日になるかと思ったけど。まさかレムが一緒だとはな」
よかったな、って笑ってくれるジェット。
「で、帰りはどうするつもりだったんだ?」
「アリーがまた来てくれるって…」
「当然じゃない! レムひとりで帰したりしないわよ」
ジェットはアリーにありがとうと言ってから、それなんだが、と続ける。
「ちょうどミルドレッドに行く用事があって。よければ俺が連れて帰るよ」
「嫌よ。私も行きたいもの」
アリーってば、即答で断っちゃったよ。
ジェット、苦笑してる。
「俺も行くのに、アリーにさらに往復させるのも悪いし。な?」
「私は行きたいの! 言われた通り一回帰ったんだから」
「報告ありきじゃないのか?」
そんなこんなで。結局ジェットに送ってもらうことになった。
ジェットが帰って、アリーの家族とお弟子さんたちと夕食を食べて。
使わせてもらってる部屋に、アリーがお茶を持ってきてくれた。
話してるうちに家族の話になって。
「似てなくって驚いたでしょ」
ひとり小柄なルミーナさん。ゼクスさんの娘だよ? 信じられない!
確かにアリーの外見はどう見てもジャンさん似だけど。
「そうかな。アリーの仕草とかがかわいいの、ルミーナさんに似てると思うんだけど」
アリーって、大人っぽい外見に合った仕草をするときもあるんだけど、多分かわいいほうが素のアリーなんじゃないかなって。
アリーがするとちょっとこどもっぽいというか、甘えてるように見られるのかもしれないけど。私はかわいいと思うんだけどな。
そう思ったから言っただけなのに。アリー、真っ赤になっちゃって。
「…何だか恥ずかしいわね……」
瞳を伏せて呟かれるけど!
かわいいし、そのくせ色っぽいしで。私まで恥ずかしくなってきたよ。
アリー、絶対それ男の人の前でやっちゃ駄目だからね!
アリーは生活雑貨は作らず、気が向いたときにアクセサリーやガラス絵などを作っています。
お店を見て回るのは楽しいですよね。
レムも満喫できたようです。
本編はカレアとフェイトが帰るところ。
兄の苦労を垣間見るカレア。
大人なのでツッコみませんでした。