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三八二年 祈の三十二日

 今日は私の誕生日。

 少しだけ早く起きて、身支度をして。

 大事に置いてあった、小さな箱を手に取る。

 誕生日当日に開けてと、ナリスから渡されてたプレゼント。ちゃんと言われた通り開けずに待ってたよ。

 包装を開けると、中にカードが入ってて。『誕生日おめでとう』って、書いてくれてる。

 カードの下には布張りの箱。

 これって、そうだよね…?

 ちょっと怯みながら開けてみると、ペンダントが入ってた。トップは小さな緑の…ガラス、じゃないよね、やっぱり。

 澄んだ緑の石は、光を反射してきらきらしてる。

 石と金のチェーン、ただそれだけのおとなしいものだけど。

 絶対私の年で持つようなものじゃないってのはわかる。

 でも。

 鏡の前でつけてみる。

 ちょっと大人っぽくなる、かな。

 確かめたことはなかったけど、ナリスに好きって言われて。私も好きって言って。

 私たち、恋人同士ってことでいいのかな。

 ナリスもそう思ってくれてるから、年齢的にはまだ早くても、ちゃんと恋人に渡すようなプレゼントを選んでくれたのかな。

 目の前にいないから、聞けないけど。

 そう、なのかな。

 十六歳の私へのガラスのピン。

 恋人としての私へのペンダント。

 両方の私のことを考えて、選んでくれたのかな。

 そう考えたらめちゃくちゃ嬉しくて。朝から泣きそうになる。

 ありがとう、ナリス。

 ペンダント、似合う年になるまで。大事にしまっておくね。



「レム?」

 部屋の扉が叩かれて、お兄ちゃんの声がする。

「ちょっといいか?」

 扉を開けると、お兄ちゃんがひと抱えくらいの包みを押しつけてきた。

「誕生日おめでとう」

「ありがとうお兄ちゃん。開けていい?」

 笑ってどうぞと言われる。

 中には箱がいくつか。出してみてびっくりして、お兄ちゃんを見た。

「これって!」

 中央より東の、マードックって街のすごく有名なお菓子屋さんの!

 美味しいって話は聞くんだけど、ジェットたちもあんまりそっちのほうには行かないらしくて。今まで一度もお目にかかる機会がなかった。

「何でお兄ちゃん?」

「アルドさんに頼んで取り寄せてもらった」

 そう言って、お兄ちゃんが笑う。

「買ってきただけで悪いけど」

「そんなことないよ。わざわざ頼んでくれたんだもん」

 それに。私が食べたがってたのを覚えてくれてるんだから。やっぱりお兄ちゃんはすごいよね。

「ありがとうお兄ちゃん! 皆で食べようね」

「レムが食べろって」

「ううん、これは皆で食べないともったいないよ!」

 そう言うとお兄ちゃんは笑って頭を撫でてくれた。



「お誕生日おめでとう、レム」

 ククルは宿の裏口で待っててくれた。

「今年も祝えて嬉しいわ」

 にっこり笑ってそう言ってくれるククルにぎゅっと抱きつく。

「ありがとうククル! 私も嬉しい」

 抱きしめ返してくれたククルから離れると、小さな包みを渡された。

「エリシアとふたりで用意したの」

「エリシアと?」

 開けていいか聞くと、もちろんと頷いてくれる。

 中には銀色の金属のビーズと青と緑のガラスビーズを編み込んで作ったバレッタが入ってた。何本も垂らされたつないだ金属のビーズが、揺れるとしゃらんと音がする。

「見た目も音も涼しげだから、暑い時期のほうが合いそうだけど」

「ありがとう! 嬉しいよ」

 ふたりとも忙しいのに手作りしてくれたのが、本当に嬉しい。

 暑くなる頃にはもう少し髪も伸びてるだろうし。今から楽しみだな。



 宿に行くと、いつもより早い時間にソージュが来てくれた。

「おはようレム」

「おはよう。まだ早いけどどうしたの?」

 そう聞くと、ソージュはにっこり笑って包みを差し出した。

「誕生日おめでとう」

「あ、ありがとう」

 もしかしなくても、この為に早く来てくれたのかな?

 受け取って開けていいか聞く。もちろんと頷いてくれる顔が、ちょっと緊張してるように見えた。

 中には櫛が入ってて。細い歯も細かい透かし彫りも、さすがは職人さんとしかいいようがない。

「ソージュが作ってくれたの?」

「うん。まだ父さんみたいにはできないけど」

 これだけできたら十分だと思うんだけど。だって、歯の部分を触ってみてもすべすべで全然痛くない。

「ありがとうソージュ。使わせてもらうね」

 そう言うとソージュは途端に嬉しそうに笑って、よかったって言ってくれた。



 夕方まで仕事をして。ソージュも帰って。お父さんとお母さんに、もういいから店に行くように言われた。

 お父さんとお母さんにもらった新しい服と靴を着ようかなって思ったけど、やっぱりやめて。

 ククルとエリシアにもらったバレッタと、ピンを外した代わりに服の下にこっそりペンダントをつけていった。

 食堂にはククルとお兄ちゃんが待っててくれた。

 町の皆もお祝いに来てくれて。エリシアと、ソージュもまた来てくれて。

 ホントに楽しい時間だった。

 最後にククルが出してくれたりんごケーキは、シリルさんのケーキと同じ味で。

 お兄ちゃん、あんなに苦労してたのに。やっぱりククルはさすがだよね。

 そう言うと、お兄ちゃん、むくれてたけど。

 本当に、楽しい時間はあっという間。

 皆、ありがとうね。

 本編にはない、レムの誕生日の話です。

 色々もらったレムですが、一番テンションが高いのはやっぱりお菓子です。お兄ちゃん、さすがのセレクトですね。

 ソージュとエリシアはよく一緒に仕事をしてます。というより、互いが発注先…ですかね。

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冬野ほたる様 作
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