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三八二年 祈の二十四日

本編『テオ・カスケード/隣に立って』のネタバレを含みます。

すっかり長くなりました…。

 皆が帰る日が来た。

 朝食が終わったらすぐ帰っちゃうんだって。

 もちろんジェットたちも。賑やかだった分、寂しくなるな。



 朝食前にジェットたちが来て、誕生日に来れないからってプレゼントをくれた。

 ジェットはどうしてか入れ物が多いんだよね。で、ナリスとか、他のパーティーの皆が中身を詰めてくれる。

 ひょっとして、弟子の皆が何を贈るか困らないようになのかな?

 ダンはいつもお菓子をくれる。年始になったら、ククルがもらったお茶と私がもらったお菓子をふたりでゆっくり食べるのが、毎年の楽しみなんだよね。

 ジェットは今年もやっぱり入れ物で、二段になってて抽斗があって。ピンとか、エリシアが作ってくれるアクセサリーとかを入れるのにいいかも。

 中にはナリスとリックからって、お菓子が詰められてた。

「嬉しい。ありがとう!」

 忙しいのに準備してくれててありがとう。

 ジェットは笑って私の頭を撫でてくれた。

 リックにはあとでお礼を言っておくからね。



 朝食を食べて戻ってきたジェットたち。今から荷詰めして、だよね。

 一旦二階に上がったナリスだったけど、すぐに降りてきた。

 ナリス、いつも朝には荷詰め終わってるもんね。

「ちょっとそっち回ってもいい?」

 受付の中?

 受付は食堂のカウンターみたいに仕切られてて。受付の台の下、外から見えないところは棚になってるから、さっきもらったプレゼントも置いてある。

 頷くと、中に入ってきたナリスが、さっきのプレゼントを指して。

「下の抽斗。よく見てみて?」

 何だろうと思って、しゃがみこんで抽斗を開けてみる。よく見ると端に光るものが見えたから上のお菓子を避けてみると、小さな緑のガラス玉のついた金色のピンが入ってた。

 これって!

 振り返ると、同じように屈んでうしろから見てたナリスが笑ってて。

 やっぱりナリスが入れてくれたんだ。

 もう昨日にもらってるのに。いつものプレゼントにも、特別を用意してくれてたんだ。

 どうしよう。ものすごく嬉しいよ。

 手に取って。しゃがんだまま向き直って。

「ありがとう」

 そう言うと、ナリスは私の手からピンを取ってつけてくれた。

 そしてそのまま、何も言わずにキスをして。

 離れかけたナリスが動きを止めた。

 何か堪えるような。そんな顔をしてるなって、思った瞬間。

 肩を掴まれて、押される。

 尻餅をついて、棚に背中が当たる。座り込んだ私に覆いかぶさるように、上からナリスが近付いて。

 強く、唇を塞がれる。

 何も考えられないくらい、ちょっとした暴力に思えるくらい激しくて。

 多分そんなに長くはなかったんだろうけど。わからないくらい混乱してる。

 ぼんやりナリスを見ることしかできない私を、どこか呆然として見返してたナリスは。

 目を伏せて、今度は優しく抱きしめて。

「ごめん」

 苦しそうに呟いてから。

 離して、くれた。



 私を引っ張り起こしてくれたナリスは、もう一度謝ってくれて。

 気にしてないよって言ったら、ほっとしてた。

 二階に戻るナリスを見送りながら、考える。

 ナリスは時々、あんなふうに追い詰められたみたいに強引になるときがある。

 私が誰かと仲良くしてたり。

 帰る前だったり。

 ヤキモチとか、独占欲ってやつなのかもしれないけど。

 我に返って謝るナリスは、今日はとても辛そうで。

 普段優しい分、びっくりするけど。

 私、怒ってないよ?

 だからそんな顔、しないでほしいのに。



 そうして、皆が帰る時間になって。

 また来るって言って、名残惜しそうにしてくれる皆。ホント、また来てくれたら嬉しいな。

「ありがとう、レム」

 笑ってそう言うディーに。

「皆にわかってもらえてよかったね」

 そう返すと、本当にって頷いて。

「次からの訓練も。あいつらのこと、よろしく頼むよ」

 そう頭を下げてくれる。すっかり皆のお兄ちゃんだね。

「もちろん。でも皆なら大丈夫だよ。ディーが頑張ったのわかってるから、きっと自分もって思ってるよ」

 私がそう言うと、ディーはびっくりしたように私を見て。

「…手、貸して」

 小さくそう言われたから。右手を前に出したら、両手で握られて。

「ありがとう」

 もう一度、お礼を言ってくれた。



 ウィルには今日お客さんが来ないことをもう一度謝られた。

 ゼクスさんたちは無理してないかと何度も聞いてくれて。最後にはまたよろしく頼むと言ってた。

 ロイはやっぱり先生の顔で、ありがとうと言ってくれた。

 ジェットとダンは、年始に来るからって。

 そしてナリスは。

 優しい笑みで私を見て。

 また来るねと、言ってくれた。

 でも、このまま別れていいのかなって、ちょっと思ってて。

 だって。ナリス、絶対気にしてる。

 じっとナリスを見つめて。歩きかけたら呼び止めようと思って。

 私たちも見送りに行くから、全員外に向かう。皆が出ていく中、多分私が見てるのに気付いてくれてたナリスは最後まで待っててくれた。

 駆け寄って、抱きしめて。

 背伸びして、キスして。

「大好きだからね」

 離れてる間、ナリスが気にしなくていいように。

 ちゃんと伝えておくから。

 恥ずかしいからすぐに離れて。顔も見ずに外に出た。

 ナリスはしばらく宿から出てこなかったけど。

 出てきたときには、ホントに幸せそうに微笑んでくれた。



 皆帰っちゃって。

 あとはのんびり片付け、かな。

 休めって言われてるのに、やっぱり何かしようとしてたお兄ちゃんを部屋に押し込んで。

 お客さんが来ないから、片付けも順調で。

 お父さんが、夕方から宿を閉めるから、食堂でゆっくりするといいって言ってくれた。

 町の皆が代わる代わる来る中、ククルとお兄ちゃんとお母さんと、のんびり座ってるだけ。

 ゆっくり食堂にいるのもホント久し振り!

 お父さん、もてなしついでに手伝ってくれる人を探してるって話してる。

 ホント、町の誰かが来てくれるのが一番なんだけどね。



 結局ククルも厨房に立って。お父さんを座らせて、隣にお母さんが立って。

 カウンター席で手伝いたそうに見てるお兄ちゃんを、ククルが笑って止めてる。

 仲いいなぁ、と思いながら見てると、ソージュが入ってきた。

「お疲れ」

 すとんと隣に座って、声をかけてくれる。

「ありがとう。騒がしかった?」

 迷惑をかけてなかったか聞くと、大丈夫と首を振られる。

「テオ、こっち側にいるの珍しいな」

 カウンター席のお兄ちゃんを見てそう言うソージュに、明日のお昼までお休みなんだって教える。

「レムの休みは?」

「私はないよ。お兄ちゃんほど働いてないしね」

「そんなことないだろうけど…」

 疲れてないか聞いてくれるソージュ。ホント優しいよね。

「手伝ってくれる人探してるから。次からはもっと楽になると思うよ」

「探すって…?」

 きょとんとするソージュに、訓練の間の人手を探していることを話して。

「誰かいい人いないかなぁ…」

 そんなことを言ってたら。ソージュがじっと私を見て、俺は、と呟いた。

「それ、俺じゃダメ?」

「えっ?」

 ソージュ? 突然何?

「俺じゃ無理かな?」

「む、無理じゃないけど…ソージュ?」

 そう言うと、ソージュは笑って立ち上がった。

「ありがと、レム。俺戻るよ」

 またね、と手を振って出ていくソージュ。

 え? つまり、どういうこと??

 闇ナリス、意外とレムは平気そうですね。

 末恐ろしい十五歳です。

 登場人物が増えてきて、本編でも人が多いシーンはページ数を喰うようになりました…。

 視点があちこち変わるので申し訳ないです。

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冬野ほたる様 作
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