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三八二年 祈の二十三日

長めです…。

 訓練最終日。昨日のジェットとの訓練のあとから、皆の顔付きがさらに変わったような気がする。

 私の知ってるジェットってやっぱり普通の人なんだけど。ギルド員のジェットってすごいんだね。



 今日は皆でお茶する日。私たちは参加しないけど、ククルがここにもたくさんお菓子を持ってきてくれてて。皆が向こうに行ってる間に、三人で食べようって言ってる。

 昨日から作ってたもんね。いっぱい食べれて私は嬉しいけど、皆びっくりするんじゃないかな。

 そうして待望のお茶の時間!

 椅子は足りないけど、お父さんがいいって言ったから、厨房で。

 やっぱりククルのお菓子は美味しいよね。

 しばらく食べてから。お父さんがカップを置いた。

「さっきジェットから、テオがだいぶ疲れてきてるだろうって言われたんだ」

 お兄ちゃんが?

 昨日も今日も訓練に参加してるのにって思ったけど。確かにお兄ちゃん、店でもここでも働いてる。

「レムもフィーナも疲れているだろうが、まずテオを一日休ませてやりたいと思ってるんだ」

 私もお母さんも、もちろん異論なんてあるわけない。頷いた私たちに、お父さんはありがとうって笑って。

「今回はなんとかなるが、これ以上滞在人数が増えると手が回らないからな。訓練期間だけでも人を雇うことも考えようかと」

「雇うってどこで探すの?」

 お母さんの言葉に、お父さんはそうなんだ、と頷いて。

「町で見つかるのが一番だがな。あとはミルドレッドで探すか、この期間だけギルドから派遣してもらうか…」

 町の皆には家業があるから難しいだろうけど。町からならいつでも来てもらえそうだし、何といっても私たちも安心だしね。

 見つかるといいなぁ。

 ウィルにも相談してみるとお父さんは言った。



 そのあとウィルと話したお父さん。

 人手については町で探してみて、いなければギルドの手を借りることになったって。

 それともうひとつ。明日、皆は午前中に帰っちゃうんだけど。訓練期間に明日も含まれてるからお客さんが来ないんじゃないかって。

 今になって気付いたとウィルが謝ってた。

 でもお父さん、ちょうどいいからお兄ちゃんを休ませようって。

 うん。私も賛成。

 でもお兄ちゃん、ククルと一緒で放っておいたら仕事してそうだよね。気を付けとかないと。



 皆、最終日も自主訓練するんだって。

 もう休めばいいのにって言ってるロイに頼み込んで付き合ってもらってる。ホント、皆楽しそうにしてるよね。

 多分この時間が一番人が少ないからなのかな。やっぱりナリスが降りてきてくれた。

 でも何だろう。ちょっと沈んだ顔してる。

「お茶、淹れるね」

 だから聞かずにそう言ったら、何も答えずちょっと笑ってくれたけど。

 笑えて、ないよね。

 厨房に行ってお湯を沸かして。お茶を淹れる用意をして。

 昨日もおとといもなかなか進まなかった作業だけど。今日のナリスはずっと黙って座ってて。

 結局お茶を淹れるまで、ナリスはひとことも話さないままだった。

「…どうかしたの?」

 横に立ってテーブルにカップを置くと、ゆっくり顔を上げて。ありがとうって、やっと口を開いてくれた。

「…ちょっと、レムの顔が見たくなって」

 お茶を数口飲んでから、またうつむいて。私を見ないままナリスが呟く。

「どうかしたの?」

 同じことをもう一度聞くと。

 うつむいたままのナリスから、乾いた笑いが洩れる。

「…格が違うのはわかってたんだけどね。…やっぱり、目の当たりにすると落ち込むかな…」

 ロイのことかなって、思ったけど。

 それは言わずに、私は手を伸ばす。

 いつもは届かないナリスの頭を、ナリスが私にするように、優しく撫でる。

 驚いたのか、ちょっとびくりとしてから。ナリスは私を見ないまま、甘えるように抱きついてきた。

 立ってる私と、座ってるナリス。

 背の高いナリスの頭が私の顔の下にあるのが、何だかちょっと不思議で。

 柔らかい髪を撫でながら、しばらく黙ってそうしてた。

 私の腰に手を回して、こどもみたいに抱きついてるナリス。

 落ち込んでる相手に、ちょっと不謹慎だけど、かわいいなぁって思って。

 ぎゅっと頭を抱きしめた途端、かなり慌ててぺりっとはがされた。

 どうしてって思ってナリスを見たら。

 耳まで真っ赤になって顔を背けて、そんなつもりじゃなかったんだ、って謝ってくる。

「…俺としては嬉しい状況なんだけど……。…その、これ以上は理性が……」

 目を逸らしたままの、ナリスの呟き。

 私はさっきまでの状況を考える。

 ナリスの頭が私の顔の下にあったってことは……。

 一気に顔が熱を持つ。

 ちょっと待って? 私何てことしたの!!

 恥ずかしすぎるって!!



 私も、ナリスも、お互い顔を見れずに黙り込んで。

 ああもう…ホント恥ずかしい…。

 どうしようかと思ってたら、急にナリスが立ち上がって。代わりに私を座らせて、軽くキスして。

「ちょっと待ってて」

 まだ赤い顔でそう言って、厨房から出ていった。

 キス、していってくれたから。呆れられたわけじゃないと思うんだけど。

 ちょっと不安になりながら待ってたら、すぐに戻ってきてくれた。

「ごめん」

 不安そうな顔をしてたのかな、ナリスが頭を撫でて、頬にキスしてくれた。

「レムの誕生日、多分来れないから」

 三十二日が誕生日。来れないのはわかってたよ。

 頷くと、ごめんね、と謝られる。

「皆と用意した分は明日渡すけど。これも」

 そう言って、小さな箱を渡される。これを取りに行ってくれてたんだね。

「誕生日に開けて」

 綺麗に包まれた箱は、何が入ってるのかわからないけど。

 誕生日当日にもらうみたいに。わざわざ用意してくれたの?

「…嬉しい。ありがとう…」

 両手で大事に包み込む。

 私の為に考えてくれたのが嬉しくて。

 さっきの不安な気持ちと混ざっちゃって。

 ダメ、泣きそう。

「レム」

 零れそうな涙を止めるように、ナリスが目元にキスをして。それでも零れた涙を指で拭ってくれる。

 ぎゅっと私を胸に抱いて、さっきと逆だねって笑って言って。

 どうしよう。

 いっつも私がたじろぐぐらいキスしてくるのに。

 こんなときは、どこまでも優しくして。

 私が泣いてると、ちゃんと落ち着くのを待ってくれて。

 どうしよう。

 私。

 多分ものすごく、好きになっちゃってる。

 アレックも甘い物食べます。結構好きそうです。

 ナリスは自分の実力をちゃんとわかっているんですが。年下の、ギルド員ですらないロイに敵わないと認めるのは、やっぱり少し葛藤があるようです。珍しく甘えてますね。

 ちなみに単純な強さでいうと、ダンが一番、ジェット、ロイ、アレックと続きます。ロイには伸び代がありますが、経験ではダンとジェット、技量的にはアレックが上です。

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冬野ほたる様 作
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