三八二年 祈の二十一日
三日目。皆訓練にも慣れてきたみたい。何だか笑顔が増えてきた。
ゼクスさんたちは厳しいって皆言うけど、だからって嫌がられてるとかはなくて。ちゃんと皆に尊敬されるのは、ゼクスさんたち自身が動いて、できるところを見せてくれるからなんだって。前の訓練のときにお兄ちゃんが言ってた。
それに輪をかけて尊敬されてるのがロイみたいだけど。これはディーの影響かもね。
順調そうな訓練。今日は皆で夜食を食べるんだって、リックが浮かれてた。
今頃食べてるのかなって思ってると、いつもより大きな人影が入ってくる。
「ただいま、レム」
手を上げて、にっこり笑うジェット。ダンと、ナリスも一緒だった。
ナリスが私を見て嬉しそうな顔してる。
「ジェット? 明日じゃなかったの?」
ナリスばっかり見そうになって。慌ててジェットにそう聞くと、馬を飛ばしてきたって言われた。
ダンとナリスが同室でいいって言ってくれたから、部屋の鍵をひとつだけ渡した。
ナリスがダンに、放り込んでおくから、と荷物を預かって。ジェットたちはゼクスさんに到着を知らせてから、三人は夕食なんだって。
三人揃って降りてきて店に向かう。一番うしろにいたナリスが、私を見て微笑んで。
受付の前、足を止めたと思ったら、素早くキスされた。
前にジェットたちいるのに!! 見られたら恥ずかしいってば!
多分赤くなってる私に熱っぽい眼差しを向けて。あとでね、と口だけ動かして言われる。
予定より早く会えて嬉しいけど!
どうしていきなりこんななのかなっ!
ジェットたちと、訓練生の皆も帰ってきた。
今日は夜食と一緒にククルがお茶を出してくれたから、ここでは淹れなくていいみたい。ジェットたちが来たから、色々話をしてたのかな。
ジェットは今からゼクスさんたちと打ち合わせなんだって。
ナリスが私を見てたから。来るかなって思ってたら、やっぱりしばらくしてから降りてきてくれた。
「お茶、淹れてもらっても?」
にっこり笑ってそう言われる。
厨房に行って。お湯を沸かそうと奥に行きかけたら。
「レム」
うしろから名前を呼ぶ甘い声。振り返ると、思ったより近くにいたナリスが両手で私の頬を包んで引き寄せた。
そのままキスされて。唇が離れても頬は離してもらえなくて。
こつんと、額が当たる。
「会いたかった」
噛みしめるように呟くナリスに。
私も、って言おうと思ったのに。またキスされた。
お湯、沸かさないと。お茶淹れれないよ。
そんなことを頭の端っこで思いながら。何度もキスを繰り返す。
そのうちに段々熱が籠もってくると、触れるだけのキスじゃなくなってきて。唇を重ねる時間も長くなって。
恥ずかしいのと。苦しいのと。
とてもじゃないけど、息も、心も、続かない。
もう限界、と、唇が離れた隙に、ナリスの唇を手で塞いだ。
はぁ、と吐息が洩れる。
「…お湯、沸かすから……」
何とか息を整えてそれだけ言った私を、ナリスは離してくれたけど。
「…まだ足りない」
ちょっとしょんぼりした顔で、そんなことを言われる。
あれだけしといて足りないって!!
嬉しいというか恥ずかしい。
お湯を沸かし始めて。お茶を淹れる用意をして。
振り返ってナリスを見ると、まだちょっと寂しそうに私を見てて。
ホントに、もう。
私から近寄って。背伸びして、ナリスの頬にキスをする。
「私も会いたかったよ」
さっき言えなかった言葉を伝えると、途端にナリスの顔が真っ赤になった。
今までで一番うろたえて、恥ずかしそうに視線を逸らすナリス。
小さくありがとうって言われたけど。
あれだけキスしてくるのに? 今のほうが照れてるってどういうこと?
どうしてかはわからないけど。
うろたえるナリスが、ちょっとかわいく見えた。
相変わらずのナリスです。滞在人数が多いのにめげてませんね。
ロイとディーは同い年。ディーにとってロイは、同い年なのに、と尊敬する相手なんですかね。ロイは基本面倒見がいいので慕われてるようです。