三八二年 祈の二十日
二日目。朝、降りてきた皆にお茶とお菓子のお礼を言われた。
ディー以外の五人は筋肉痛だって言ってる。やっぱり訓練大変なんだね。
今回食事は食堂でだから、前みたいに運んだりする手間はないんだけど。ある程度の洗濯はうちで引き受けてるから、その分は忙しいかな。
夜になって。今日はリックとディーだけ帰ってくるのが遅いと思ったら、お腹空いたから夜食作ってもらったんだって。
そういえばディーたちもお兄ちゃんの夜食食べてたもんね。
懐かしいなと思って笑ってると、ディーがリックを先に帰して。
また人数分、お茶を淹れてほしいと言われた。
ディーとふたり厨房に行って、座ってもらって。私はお湯を沸かし始める。
「ほかの皆とはもう大丈夫?」
そう聞くと、笑って頷かれる。
「ある程度は覚悟してたんだけどね。でも思ってた以上に早く受け入れてもらえたのは、ここで鍛えてもらえてたからと、ロイヴェインさんたちが協力してくれたからと、リックが話してくれたからと…」
藍色の瞳が、私を見る。
「ここの皆が、俺に普通に接してくれたから」
ふっと瞳を細めて、ホントによかったとディーが息をつく。
「俺が前例を作れば。あとの皆が少しは楽になるだろうし」
「だから一番目に来たの?」
皆のことをわかってもらえてない分、避けられたり、色々言われたりするかもしれないから。
だから最初に、ディーは来たの?
私の聞きたいことはわかってるみたいだったけど、ディーは答えてくれないまま。
「カートが来たがってたけどね」
そう言って、笑った。
急にカートの名前が出て、私はちょっと動揺する。
カートには話を聞いてと言われてる。
でももし、そんな話だったとしても。
もう私には、好きな人がいるから―――。
じっと私を見てたディーは表情を和らげて、そういえば、と話題を変えてくれた。
「俺に何ができるか。考えてみたんだ」
ジェットのことを聞かれたときのこと。
ディー、ちゃんと考えてくれてたんだね。
「…俺がジェットさんやククルさん、レムたちここの皆に直接できることはないけど。その分ギルド員としてがんばって、誰かの力になれたらって」
穏やかな声でそう言って。向けられるディーの瞳には、もう何の迷いもなかった。
「それがいつか巡り巡って、ここの皆の助けになればって、そう思ってる」
言い切って。微笑んで。
「ありがとう。そう思えるようになったのは、レムのおかげなんだ」
ディーはそう言ってくれたけど。
「ディーがそう思えるのは、ディー自身がいっぱい考えたからだよ」
私がそう言うと、ディーは少し驚いたように私を見返して。
ありがとう、と、呟いた。
今回はディー。
ディーの気持ちは何ともグレーで、量りかねます。でももしレムに気持ちがあったとしても、カートの気持ちを知ってる以上口にはしないだろうなぁ、と。