三八二年 雨の二十一日
今日は丘の上食堂の再開の日!
お兄ちゃんはいつもより早起きで、宿の仕事もしてくれた。
早いねって言ったら、あんまり眠れなかったって。緊張してるみたい。
宿泊のお客さんは四人だけだから、大丈夫だと思うけど。
お昼を回ってしばらくして。ちょうどロビーを通りかかったら、ソージュが長椅子に座ってた。
「レム」
「ソージュ、どうしたの?」
「隣、見に行ってたんだ」
そう言って立ち上がるソージュ。
幼馴染の様子を見にきてくれたんだ。いいとこあるよね。
「レムは? テオが抜けたら忙しくなるんじゃないか?」
「大丈夫。お兄ちゃん、ちゃんとこっちでも働いてくれてるから」
「両方? すごいな、テオ」
ソージュは私ともお兄ちゃんたちともひとつ違い。宿と食堂と木工職人じゃ仕事内容は違うけど、働く大変さはわかってくれてる。
「…レムはずっとこっちにいるんだ?」
「私? うん、私は店には行かないよ?」
「そっか…」
何か考え込むようなソージュ。どうしたのかな?
顔を覗き込んだらびっくりされた。
「よ、様子見てくるって言って抜けてきたから、もう戻らないと。レムも無理するなよ」
「うん。ありがとソージュ」
またねと手を振ってから。
あれ? どうして宿にいたのかな?
夜になって。普段はもうお客さんなんか来ない時間に、入口の扉を叩く人がいた。
「ギャレット?」
扉を開けたお父さんが、ものすごくびっくりした顔してる。
お父さんよりちょっと上かな?
その人は何も言わずにお父さんを抱きしめた。お父さんも何も言わないまま、ぎゅっと抱きしめ返す。
しばらくそうしてから。その人は少し悲しそうにお父さんを見て。
「悔やむしかないな」
そう、小さく呟いてた。
それから私のほうを見て。
「ギルド事務長のギャレット・ハーバスという。レムさん、だね」
砂色の髪に青い瞳。さっきの悲しそうな様子はもうない。
「アレックとクライヴとは昔からの知り合いでね。遅い時間にすまなかった」
お辞儀をする私に微笑んで、お父さんと出ていく。多分食堂に行くんだろうな。
試作と称して、鍋ひとつにふたかけくらい、シチューにチョコを入れてみました。知られなければ気付かれないのですが、『チョコ入ってる』と知ってるとチョコの味だけよくわかるようになります…。
きっとふたりもこの先チョコ味のシチューを食べる羽目になるんでしょうね…。