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三八二年 祈の十二日

 お父さんとジェットとウィルが、朝から町の皆に話をしに行ってる。

 自分は話し合いには必要ないからって、ナリスは今日も宿を手伝ってくれることになったけど。

 昨日気付いた、自分の気持ち。

 私もいつの間にか、ナリスのことを―――。

「レム?」

 声をかけられて、ゆっくりナリスのほうを見ると。どうかしたのかと、金の瞳が覗き込む。

「な、何でもないよ。今日もよろしくね」

 思わず目を逸らしてごまかすようにそう言って、仕事を始める。

 最初は怪訝そうにしてたナリスだけど。私を見る瞳はやっぱりどこか甘くて。

 恥ずかしくて見てられないから。そんな顔で見ないでって!



 もちろんナリスは真面目に仕事をしてくれて。もう何度も手伝ってくれてるから、慣れてきたのもあるかな。

 おかげで前みたいにずっと一緒に行動するわけじゃなくて。任せてほかのことをできるようになったけど。

 終わったよ、と報告しにくるナリスがじっと見てくるのが恥ずかしくて仕方ない。

「次は?」

 また私を見て、嬉しそうに笑うナリス。

 私に向けられた笑顔なんだって思ったら、やっぱり恥ずかしくて。また目を逸らしちゃった。

「じゃ、じゃあ次は向こうに―――」

「レム」

 歩きかけた私の手を、ナリスが掴んだ。

 びっくりして振り返ると、ちょっと焦ってるような、そんな顔で見られてて。

 あまりに真剣な目をしてるから、どうしたのって聞けなかった。

「…俺のこと避けてる?」

 まっすぐ私を見て。ナリスがぽつりと呟く。

「昨日のこと…怒ってる?」

 恥ずかしすぎて見てられなかっただけなのに、そんなふうに見えてたの??

 そんなことない、ってすぐに言葉は出なかったけど。違うんだって首を振る。

 必死な私に驚いたのか、ナリスはじっと私を見て。

 それから何かに気付いたように、目を見開いた。

 手を握る力がさっきより強くなる。

「…じゃあ、意識してくれてる…?」

 見上げるナリスの瞳には、期待と不安。

 じわじわ自分の顔が熱くなってきてるのがわかる。

 何も言えずに頷いてから、顔を見れずにうつむいた。

 視線の先、掴まれてた手が放されて。次の瞬間、ぎゅっと抱きしめられる。

 ナ、ナリス??

 すぐに私を離したナリスは、呆然とする私に微笑みかけて。

「嬉しい」

 そうひとこと、呟いた。



 町の皆からも了解を取れたと言って、ジェットたちはお昼前に戻ってきた。

 ジェットとウィルはお昼すぎに昼食に行ったけど、ナリスはこっちが一段落してからにするって言って残ってくれた。

 そうしてまた、ふたりでお昼を食べる。

 厨房で、並んで座って。

 それは前と一緒なんだけど、私の気持ちが全然違う。

 前の私。こんな近くに座ってて、よく普通に食べれたよね?

 もうドキドキしっぱなしで、何とか食べきって。食器を洗いがてらお茶のおかわりを淹れて、もう一度隣に座る。

 ちらりとナリスを見ると、やっぱり微笑んで私を見てて。

「レム」

 ナリスのこと見たのを気付かれたみたい。名前を呼ばれて、手を握られた。

 しばらくそのまま黙ってたナリスが、ふっと瞳を細める。

「…嫌だったら、言って?」

 囁くようにそう呟いて、手を引かれて、あっという間に昨日みたいに抱きしめられた。

 多分昨日より早い私の鼓動。

 でも、私のだけじゃなくて。

「ドキドキしてる…」

「好きな子が、ここにいるからね。緊張してる」

 呟いた私に、少し照れたような声が返ってきた。

 ナリスも私と同じくらいドキドキしてるのに、こうして私のこと好きだって示してくれてる。

 私は恥ずかしがってばっかりで、まだナリスに何も伝えてない。

 それじゃいけないって、思うから。

 すぐに言葉は出なかったから。空いてる右手で抱きしめ返す。

 びくっとナリスの身体が大きく揺れて。すぐに覆いかぶさるように抱きすくめられた。

「…応えてもらえたって、思っていいの?」

 耳元でナリスの声がする。息がかかって少しくすぐったい。

 この甘い雰囲気に流されてるだけかもしれない。

 向けられた気持ちに応えたいだけなのかもしれない。

 でも。私にそれを向けてくれてるのがナリスだってことが。

 嬉しいのは、本当だから―――。

「……私も、好き」

 やっとそれだけ呟くと、抱きしめる力が強くなって。

 しばらくそのまま、首元に顔をうずめるように抱きしめてたナリスが。

 一度離れて、笑みを見せる。

「ありがとう」

 幸せそうに、そう呟いて。

 私に伸ばされた手が、髪を梳いて頬を撫でる。

 そっと近付いて、額に、頬に、キスをして。

 もう一度、ゆっくりと近付く顔に、瞳を閉じる。

 優しく、唇が触れてから。

 抱きしめられた腕の中。

 好きだよ、と、嬉しそうにナリスが呟いた。

 レムがすっかり乙女モードですね。

 つけ込むナリス。好機を逃しませんでした。

 本編はロイの評判を知ったジェットとウィルですが。

 面と向かって何かされたか聞けるジェット、されたと答えたら根掘り葉掘り聞きそうです。…言わんだろうよ、フツウ。

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冬野ほたる様 作
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