三八二年 実の一日
ジェットが帰ってきた。
ホントに、本当に嬉しそうな顔をして、終わらせてきたって笑ってた。
「ごめんな、レム。怖い思いをさせたな」
「全然。何も知らないうちに終わってたよ」
ジェットは謝ってくれたけど、本当にいつの間にか終わってたし、友達も増えた。
「…ディーたち、どうなった?」
ジェットは私の頭を撫でて、大丈夫だって言ってくれた。
ジェットは家に帰るから、ダン、ナリス、リックに鍵を渡す。慣れてるから案内はいらない。そのまま受付で仕事をしてたら、すぐにナリスが降りてきた。
「大丈夫だった?」
心配そうな顔をして、ナリスはそう聞いてくる。
「ここが狙われるって聞いてたから、気が気じゃなかったんだ」
「店にはゼクスさんたちがいてくれたから平気だったよ」
ゼクスさんもヴェインさんも、すごく強いんだってお兄ちゃんが言ってた。
そう返すと、ナリスがじっと私を見た。
「俺が心配してたのはレムのことなんだけど?」
そう言うナリスの顔は、いつもの優しいお兄さんじゃない、大人の男の人の顔で。
初めて見る顔に驚いて。何だかどうしていいかわからなくなって、私は目を逸らしながら笑った。
「狙われてたのはククルだから、こっちは何もなかったよ」
そっか、と、ちょっと困ったような声でナリスが呟くのが聞こえた。
またすぐに来たジェットが、明日町の皆に料理やお酒を振舞いたいと言い出した。
全部終わったから、皆にお礼が言いたいんだって。
もちろん反対するわけがないよね。
振舞うってなったら、食事も結構な量がいる。
お兄ちゃんにはとりあえず食堂に戻ってもらわないと。
お父さんは宿の厨房で、手伝えって言ってダンを捕まえてた。
え? ダンって料理できるの??
「ダン、結構上手だよ?」
「そうそう。たまに独特な味することあるけど」
うしろからの声に振り返ると、ナリスとリック。
「俺たちは宿のこと手伝うよ」
そう言って笑うナリスはいつもの顔で。
さっき目を逸らしちゃったから、ちょっと気にしてたんだけど。いつも通りでよかった。
各人の料理スキル。
ナリスはそれなり。リックは初心者。ジェットは全然(そもそも生でも焼きでもあからさまな肉にはさわれない)。
ダンが料理できるのは、間違いなくジェットに食わせる為でしょう。
すっかりジェットのおかんですね。