三八二年 動の四十六日
本編『動の四十七日』のネタバレを含みます。
今日で訓練は最後だから、午後のお茶休憩に私も呼んでもらえることになった。
お兄ちゃんが呼びに来てくれて。裏に回ると皆がいた。
「レムもお疲れ様」
ククルがそう笑って、パイが載ったトレイを渡してくれる。
椅子に座ったゼクスさんたちと、そのまま座り込む皆の間に私も座る。ヴェインさんだけうしろにいるんだね。
皆のトレイにはサンドイッチまで載っててびっくりした。朝昼晩と夜食とこれ、皆五食も食べてたんだ。それだけ訓練大変なんだろうな。
皆、こうして食べられるのは今日で最後かって残念がってる。
ククルのお菓子、美味しいもんね。よくわかるよ。
途中、ククルがお茶のおかわりを注いで回ってて。
ここでしか会う機会がないからか、皆必死にお礼を言ってる。
ふふ、面と向かって言われてるから、ククルもちょっと恥ずかしそう。
やっぱりククルは全然怒ってない。
だから、大丈夫だよね?
ギルドに戻っても、ひどい罰を受けたりしないよね?
私にはどうすることもできないから、余計に心配。
本当に。せめて軽くすみますように。
最後のお茶休憩が終わって、最後の訓練を終えて。最後の夕食の時間が来た。
皆にお茶を持っていくのもあと二回。本当にあっという間だった。
いつものようにカートが受け取ってくれたけど、今日はちょっと待っててと呼び止められた。
カートはテーブルにポットを置いて戻ってきて。
ものすごく真剣な顔で、私の前に立った。
「レム」
手を取られ、ぎゅっと両手で握られる。
「俺。ちゃんと責任取って償ってくるから」
声もいつもより緊張してて。まっすぐ私を見つめる濃い灰色の瞳は、本当に、真剣そのもので。
私は黙ってカートの言葉を聞いていた。
「いつになるかわからないけど。次来れたとき、俺の話を聞いてほしい」
握る手と、眼差しと、いつもと全然違うその様子。
何の話か、うぬぼれじゃなければ、多分そうなのかもしれないけど。
「…うん、わかった」
今はまだ、話を聞くって約束だけだから。
考えないでおくね。
ロビーに戻るとノーザンさんがいて、お疲れ様と労われる。
「レムちゃんにも話しておくよ。儂ら、明日帰ることにした」
「明日?」
急だなと思ってそう言ってから、気付く。
「…皆と一緒に?」
ノーザンさんは笑っただけで答えてくれなかったけど。
間違いなく、そうだよね。
ノーザンさんたちが一緒なら、きっとひどいことにはならないよね。
「よかった…」
「レムちゃん??」
ほっとしたら涙が出てきて。ノーザンさんが慌ててる。
まだどうなるかわかったわけじゃないけど。
こんなに皆のこと考えてくれてる人たちがいるんだから。
きっと大丈夫だって、そう思った。
今度はノーザン。同じくちゃん呼び。ククルと変わらずかわいがってます。
ロイはヴェイン仕様なのでレムとの会話が全くありません。おそらく観察だけはしてるんでしょうが、レムは気付きませんね。
今のカートの精一杯。相手がククルなら気付いてもらえないところでした。