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三八二年 動の四十四日

また少々長めです…。

 訓練途中の休憩が済んで。ククルが洗っておいてくれたカップを三階に持って上がらないとなのに、結局ギリギリになっちゃって。

 部屋の前に置いて降りようとしたら、皆と鉢合わせた。

 皆今日もヘトヘトみたいだね。

「お疲れ様!」

 声をかけると、皆も口々に労ってくれた。私より疲れてるのにね。

 次々部屋に入って。最後に入ろうとしたディーが、急に足を止めて振り返った。

「テオにも聞いたんだけど、レムにも教えてほしいんだ。…ジェットさんって、どんな人なのかって」

「ジェット?」

 そう、と頷いてるけど。

 ジェットはジェット…なんだけどな。

「どうして?」

「…俺たち、兄弟子の言うこと真に受けてばかりで。ジェットさんが本当はどんな人か知らないってことを、ゼクスさんに言われて気付いたんだ」

 そっか、ディーたちがここに来たのって兄弟子に言われたからだったんだ。

「ジェットさんには直接会えないから。レムならよく知ってると思って…」

 ディーはそう言うけど。

 よくも何も。ジェットのこと、こないだ全然知らなかったんだってわかったとこなんだけどな。

 でもディーは真剣そのもので。私も私にできる答えを返さないといけないって思った。

「…私が知ってるジェットって、きっとギルドのジェットとは違う感じだと思うけど。それでもいい?」

 少し不思議そうな顔をして、ディーが頷いた。



「ジェットはね、優しくって、強くって、めちゃくちゃがんばってて。いっつも笑ってて」

 皆真剣に聞いてくれてるけど。こんな話でいいのかな。

「ククルのことと、この町のことが大好きで。町の皆にもかわいがられてて」

 ホントに。この町の皆、誰もジェットが英雄だなんて扱わないもんね。

 理由は多分、そうなんだろうけど。

 でもきっと、ジェットはそれが嬉しいんだろうな。

「いっつも誰かの為に動いてて。皆のこと考えてくれてる」

 英雄でいることすら人の為なんだから。ホント筋金入り。

 だから皆も放っとけなくって、ジェットを助けてくれるんだよね。

「…そんな、人のことばっかり気にしてる、普通の人だよ」

 私にとって、血のつながりはなくてもジェットは叔父さん。

 英雄とかギルド員とか関係ない。大事な人、なんだ。



 皆が何も言わなくなった。

 考え込むように視線を落として、ちょっと悲しそうな顔をして。

 どうしていいのかわからなくって、私はしばらく皆を見てた。

 何かに耐えるように手を握って、ディーが顔を上げる。

「すまなかった」

 そう言って、頭を下げられた。

「本当に、俺たちは浅はかだった。…少し考えれば、わかることなのに」

「ディー?」

「俺たちにとっては関わりのない人でも、誰かにとっては普通の、身近な人なんだって。そんな当たり前のことを、俺たちは…」

 ど、どうしよう、落ち込んじゃった!

 そんなつもりじゃなかったのに!!

 皆初日みたいにしょんぼりしちゃって。せっかく元気になったのに。

 何か言わないとと思うんだけど。ちゃんと伝わるかな。

 私は皆を順番に見て、話し出す。

「…あのね。ジェットもククルも私にとっては大事な人だから、辛い思いをするのはもちろん嫌だよ?」

 皆が目に見えて落ち込んでくのがわかる。もう、ちゃんと最後まで聞いてってば!

「でも、皆は何もしてないし、ちゃんと反省してるでしょ。ククルも皆を許してる。ククルが許してるならジェットだって怒るわけない」

 ククルに害があればジェットはめちゃくちゃ怒っただろうけど。

 なかったんだから、きっと大丈夫。

「しようとしたってことにも罪はあるのかもしれないけど。だからってずっとそんな顔してても仕方ないよ」

 時間はもう戻らない。

 認めて進むしかないんだよ。

「だから。ね」

 許してもらえてることを受け入れて、あとは自分にできることをすればいいんじゃないかなって、私は思うんだけど。

 言いたいこと、わかってもらえたかな。



 うつむく六人。

 一番先に顔を上げたのはカートだった。

「…俺、ホントに……」

 じっと私を見てそれだけ言って。何か言いたそうにしてるから続きを待ったけど、それ以上は黙ったままだった。

 そんなカートの肩を、スヴェンがぽんと叩く。

「…訓練、がんばるしかないな」

「それしかない、よね」

「カートの動機はちょっとアレだけどね」

「言ってやるなって…」

 皆口々にそう言って。多分一番落ち込んでるディーを見る。

「ほら。ディーがそんなでどうするんだ」

 エディルに結構いい音で背中を叩かれて。やっとディーが顔を上げた。

「…そう、だな。今できるのはそれだけだよな」

 まだちょっと悲しそうな顔してたけど、それでも笑って。

「ありがとう、レム。俺に何ができるか、考えてみるよ」

 ちょっとだけ先を見るような目をして、ディーがそう言った。

 ロイの頭上をフォークが飛んだあとの話、ですね。ロイとゼクスは忍者になれるかもしれません。

 だいぶレムとも仲良くなりました。

 先日書いたクランベリー✕ホワイトチョコのソフト生地のパン、売っていました。あるものですね…。

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冬野ほたる様 作
― 新着の感想 ―
[一言] 本編では気付かなかったですが、 カートってそうだったんですね。 こちらで畫かれてる雰囲気的からは、 初対面の時からって感じはありましたけど。
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