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レム・カスケード/今日から

 ナリスとふたり、手をつないで。

 宿の裏、実家の隣に建てた、私たちの家。

 その前に、ふたりで立ち止まる。

 今日からここが、私たちふたりの家なんだね。



 昨日からもう本当に色々あった。

 ジェットたちが来てくれて。アリーとロイとゼクスさんたちが来てくれて。

 お義父さんとお義母さんも来てくれて。

 それに。カートが来てくれた。

 あれから一度訓練に来てくれたカート。そのときはもう普通に接してくれたから、ただ嬉しかった。

 でもまさか、結婚のお祝いに来てくれるとは思わなくって。

 お礼を言ううちに泣いちゃって。カートには悪いことしちゃったな。

 カート、どうしても直接お祝いが言いたかったんだって。そう言ってくれた。

 これで全員と思ってたら、夜になってメルトお義兄さんが来て。

 私たちも、お義父さんたちも聞いてなくって。もう本当に驚いた。

 仕入れのついでに寄ったんだ、と笑うメルトお義兄さん。初対面だったから挨拶をして。皆を紹介して。

 ケヴィンお義兄さんより輪をかけて明るいメルトお義兄さんだけど。

 朝、丘の上から町を見下ろして、ナリスはここで暮らしていくんだなって、優しい顔で呟いてた。

 やっぱりナリスの家族はナリスのことを大事に思ってるんだなって。それがわかって嬉しくなった。



 お兄ちゃんたちのときと一緒で、昼食は宿で出すことになったけど、朝は店で用意してくれた。

 ククルには今まで通りに呼んでって言われたから、今もククルって呼んでる。

 お兄ちゃんとククルが結婚して変わったことは、お兄ちゃんが店の二階に住むようになったくらいで。今も普通に宿にも手伝いに来てくれてる。仲がいいのも相変わらずだからね。

 今回はジェットは自室に、ダンは店の客間に泊まってる。ダンは最初遠慮してたけど、ククルがしょんぼりしたから折れたみたい。でも顔は嬉しそうだったよ。

 リックは新年から新人が入って兄弟子になるんだって! ナリスが動の月いっぱいで辞めたから、今は三人パーティーだもんね。

 ナリスみたいにはいかないけど、弟弟子が困らないように、ジェットとダンの気持ちを伝えていけたらいいなって言ってた。

 うん。リックなら大丈夫だよ。



 アリーの話はもうほんとにびっくりした。

 だって! 今月初めに恋人ができたっていうんだよ??

 思わず夜にククルを呼んでアリーを私の部屋に引っ張っていって。アリーが私にするみたいに全部話してって言った。

 相手の人が一年かけて口説いてくれたから付き合ってみることにしたんだって、アリーは笑って言うんだけど。

 その笑顔に、ちょっと引っかかる。

 ゴードンで、昔の話って笑ってたアリー。

 今のアリーもあのときと同じ顔をしてて。

 尊敬できる人なのって聞いたら頷いてくれたけど。

 甘えさせてくれる人なのって聞いたら、まだ付き合い始めたばかりだからって返された。

 相手は私の知らない人だけど。

 お願いだから。早くアリーを甘えさせてあげてね。



 ゼクスさんたちは相変わらずで、綺麗だって恥ずかしいくらいほめてくれた。

 呆れたロイが止めてくれたけど。ホント照れるよね。

 私のことも孫だと思ってるからって言ってくれて。また泣いて困らせちゃった。

 皆が来てくれて。祝われて。ほんとにもういっぱいいっぱいで。ちょっとしたことでもすぐ泣いちゃうから、ハンカチが足りないってナリスに笑われたけど。

 私だって止めれるものなら止めたいよ!



 お兄ちゃんたちの結婚のときも嬉しそうだったジェットだけど。今も同じくらい嬉しそうにしてくれてる。

 後悔はしてないけど、ジェットたちと旅ができないのは寂しいかなって。そう言うナリスに、ジェットはすぐ呼び出してやるからって笑ってた。

 新人が入るけど北西の調査には連れていけないから、そのときはナリスを呼ぶつもりなんだって。

 ナリス、嬉しそう。

 よかったね。



 お父さんとお母さんと。お義父さんとお義母さんと。ゆうべは四人で話したんだって。

 私とナリスは最初だけ同席したけど、顔合わせだけって感じで。すぐ追い出された。

 だから私もアリーと話せたし、ナリスもジェットたちと話せたんだけどね。

 次の日には四人共すっかり仲良くなってて。親孝行するんだよって、お義父さんたちに言われた。

 お父さんが年始にエンドールに行ってこいって言ってくれたから、お留守番のお義兄さんたちにも結婚の報告ができるよね。



 ククルとお揃いの白いワンピースと。アリーとロイが去年の誕生日に贈ってくれた、淡い緑のガラスビーズのネックレスとイヤリング。あと、ククルもはめてた腕輪。

 ナリスにもジェットにも用意しようかって言われたけど。せっかくもらってたこれをつけたかった。

 成人したっていったって、急に背が伸びるわけでも出るとこ出るわけでもなくて。…アリーくらい胸があれば、少しは大人っぽく見えるのかな…。

 相変わらずの私だけど。それでも一度のことだからね。がんばって着飾ってみた。仕方ないのはわかってるけど、少しは相応しく見えてるといいな。

 結果的に皆がかわいいとか綺麗とか言ってくれたから。もうこれで満足だよ。

 そうしてナリスとふたりで届け出を出して。

 クライヴさんとシリルさんに報告して。

 皆に祝われながら店に戻って。

 店で待ってくれてた皆に、夫婦になったって報告をした。

 ナリスは今日からナリス・カスケードで。私はレム・カスケードのままだけど、ナリスの妻になるんだよ。

 自分のことなのに、全然実感がなくって。何だか他人事みたい。



 皆で夕食を食べながら祝われて。

 皆を見送って。最後に店を出た。

 ナリスとふたりで手をつないで。

 ふたりの家に足を踏み入れた。

 そんなに広くはないけど、ナリスと私の家。一階には食事やお茶ができるようにテーブルと椅子、奥は調理場。二階が寝室とまだ空き部屋がふたつ。

 一階の部屋には、もう場違いなくらい豪華な食器棚がある。

 ソージュとネウロスさんとアリーと。三人で私たちの為に作ってくれた。

 細かい彫りには全部ガラスで覆いがしてあって。もちろんアリーのガラス絵も窓のところにはめられてて。

 こんな小さな町の小さな家にあるようなものじゃないよ??

 最初に贈られてきたとき、ナリスもびっくりして固まってた。今度セレスティアに行ったら、ネウロスさんのところに挨拶に行ってくれるって。

 ソージュ、元気かな。

 同封の手紙に、下の戸棚の彫りを任されたって書いてあって。櫛と一緒で、ホントに丁寧に彫られてて。やっぱりソージュはすごいんだって、がんばってるんだって、そう思ったら涙が止まらなかった。

 食器棚の中にも、ジャンさんとルミーナさんが贈ってくれたかわいいガラス食器が入ってる。

 …ホントに。棚も中身も豪華すぎるよ。

 ナリスはやっぱり驚いてたけど。最後は諦めたみたいに、レムらしいねって。

 どういう意味??



 結婚してから一緒に住みたいって言って、ナリスは昨日までずっと宿に泊まってて。だからふたりとも、今日初めてここで夜を過ごす。

 …わかってるよ。

 ずっとずっと待ってもらってたんだもんね。

 ナリスに手を引かれて二階に上がって。寝室に入るなり抱きしめられてキスされる。

 わ、わかってるけど! 逃げないけど!

 ちょっと待って??

 私まだアクセサリーもつけたままなんだよ?

 準備くらいさせてってば!



 何とかナリスを説得して。ちゃんと準備を済ませてから。

 改めて部屋に入るとナリスはベッドに座ってて、満面の笑みで隣においでと示される。

 ちょこんと隣に座ったら、すぐに肩を抱かれて引き寄せられて。顎からナリスのほうへと向けられて、キスされた。

 軽く啄むようなキスから段々深く長くなってきて。息があがったところでぎゅっと抱きしめられる。

「…ありがとう」

 急にお礼を言われて驚いて。でも抱きしめられてるから顔が見えなくて。

 だから私も抱きしめる。

「私こそ。好きになってくれてありがとう」

 こんなに好きになれる人に出会えたことを。その人が私を好きになってくれたことを。私は本当に感謝するべきだよね。

「……夫婦になれて、ホントに幸せだよ」

 ナリスが少し腕を緩めてくれたから、やっと顔を上げることができた。

 熱の籠もる金の瞳。少し照れてる、かな。

「ずっと待ってくれてありがとう。……もう、我慢しなくていいよ」

「っ! レムっ」

 叫ぶように名前を呼ばれて。押し倒されてキスで蓋をされる。

 私が成人するまで二年。

 ちゃんと待っててくれてありがとう。

 そんなことを思いながら、ナリスに身体を委ねる。

 何度も何度もキスされて。触れる手に、唇に、びくりと身をよじって縮こまる私を、ナリスは優しいけど強い瞳で見つめながら。少しずつ、解きほぐすように、緩められていく。

「…レム」

 名を呼ばれても、もう声も出なくて。

 代わりに溢れた涙に、少し表情を曇らせたナリスがそっと唇を寄せる。

「…怖い?」

 そのまま耳元で尋ねられる。

 泣いたからだって、わかってるけど。

「…ち、が……」

 怖かったんじゃないの。

 そのまま抱え込むように、ナリスの頭を抱きしめる。

 嬉しくても、涙は出るんだよ。

 それ以上声は出なかったから、ナリスの首元に唇をつけて。

 わかってくれる…よね…。

 ナリスが耳元から顔を上げて、じっと私を見て。

 そっと、キスをした。

「……続けていいの?」

 少し自信なさげなその顔に小さく頷くと、ナリスが嬉しそうに笑み崩れて。

「ありがとう」

 そう呟いたナリスがまた唇を重ねた。

 身体に力が入らなくなるようなキスが続いて。

 さっきまでより優しいけど遠慮のない手が徐々に私を暴いていって。

 もう身体も感情もついていかなくて、かろうじてナリスにしがみつく。

 何度も名前を呼ばれながら。

 ただ私を求める金の瞳を見返していた。



 目を開けると、真ん前にナリスの身体があって。少しだけ下がって見上げると、目を閉じたナリスの顔が見えた。

 …眠ってる、のかな?

 まつげ長いなぁとか思いながら。もう少し間を空けて反転して、部屋のほうを見る。

 周りは静かだし。まだ明け方前かも。

 ゆうべはいつの間にか眠っちゃったみたい。いっぱいいっぱいだったからか、あんまりはっきり覚えていないけど。

 ……うん、何か変な感じがする。

 ………こういうものなのかな…。

 朝食を作るにはまだ早いかもしれないけど、目が覚めちゃったし。一度下へ降りて…。

 ベッドから降りようと思ったら、うしろから腕が被さってきた。

「おはよう」

 ナリス! 手! 手が!! 何でそんなところに!

 あわあわするけど、単に偶然だったみたいで。特に何をされることもなかった。

 でも気になるからどけてほしくて、腕の下でナリスのほうへと反転して向きを戻す。

 これで大丈夫だよね。

「おはよう。起こしちゃった?」

「ううん」

 ナリスはそう笑って、私の額にキスをした。

「身体は大丈夫?」

 心配そうに聞いてくれるナリスに、大丈夫だと言っておく。

 まだ違和感があるけど、ナリスに言っても、ね。

「ごめんね、いつの間にか寝ちゃってたみたいで…」

 ナリス、こくりと頷いて。

「びっくりしたけど」

 そうだよね、ごめんね。

 もう一度謝ると、今度は唇にキスされた。

「無茶させたかな」

「大丈夫だよ」

 慌てて答えるとそれならよかったと頭を撫でてくれる。

「まだ早いみたいだけど。もう起きる?」

「目が覚めちゃったから、お茶でも淹れようかなって思って…」

 そっか、と腕をどけてくれたから。またナリスに背を向けてベッドから出ようと思ったんだけど。

 …服、どうしてか椅子の上に畳まれて置かれてあるんだけど。

 ここから出ないと取れないんだけど。

 ……無理。恥ずかしい。

「…ねぇナリス」

「ん?」

「ちょっとうしろ向いてて?」

「どうして?」

「服着たいんだけど。見られるの恥ずかしいから…」

 そこでナリスが返事をしてくれなくなって、しばらく待ったけど何も言ってくれなかった。

 でも動いた様子もなくて。

「…ナリス…?」

 声をかけてうしろを向こうとしたら、また腕が被さってきて。さっきと同じくまた手が…って、ナリス??

 もぞもぞと動く手に思わずびくりとする。

 わ、わ、わざとだよね???

 ナリスはそのまま私を自分のほうへと引っ張って抱きしめた。

「ナ、ナリスっ?」

「……かわいいこと言うから」

 耳元で囁かれたあと、首筋に唇が触れる。

 え? え?? まさか???

「ナリス?」

 肩を掴んで仰向けに転がされる。

 ベッドに手をつくナリスと、その下の私…。

 う、上掛け、返してよぅ…。

 上から覆い被さられて、キスされる。

「ま、待って」

「我慢しなくていいって言ったの、レムだよね」

「そうじゃなくて、あのね、まだ、そのね」

 あちこち触られるのに気を取られて、上手く言葉が出てこない。

「何ていうか、まだ違和感があって…」

 ナリスはやっと手を止めて、じっと私を見つめた。

 っていうか、この状態もかなり恥ずかしいよ??

「……痛かったり辛かったらやめるから言って?」

 それだけ言って、また!!

「ちょっ、まっ……んっっ」

 出かかった声を呑み込むと、途端にナリスの眼差しに熱が籠もる。

「…だから。そういうところ」

 少しだけ乱暴に唇を奪って。

「俺はもう遠慮しないって。前に言っておいたはずだけど」

 吐息混じりにナリスが言い切った。

 それからはもう丁寧に丁寧に準備を調えられて。

 ナリスが離してくれたときには、もうぐったりと動けなかった。



 起き上がれずに横になったまま。じっとナリスを見上げる。

「ごめんって」

 私の頭を撫でながら、悪びれもせず謝るナリス。

「でも、あんなに恥ずかしがられたら逆効果だからね」

 覚えててねと言われるけど!

 じゃあどうすればいいっていうの??

「朝食、俺が作るから。もう少し休んでて」

 軽くキスをしてナリスが起き上がったから、慌てて上掛けを顔まで上げる。

 ナリスがベッドから降りるのがわかった。たぶん服を着てるのかな、少し音が聞こえる。

「レム」

 声をかけられたから顔を出すと、ナリスがもう一度キスしてくれた。

「ナリス!」

 部屋を出ようとするナリスを呼び止める。

 本当は昨日言おうと思ってた言葉。

 言えなかったから、今伝えようと思う。

「…今日から、よろしくね」

 振り返ったナリスにそう告げる。

「私、ナリスと結婚できて幸せだよ」

 これは昨日も言ったけど。

 ナリスは目を見開いて、それから大きな溜息をついた。

 え? そんな溜息つかれるようなこと言った?

 ナリスはまた部屋の扉を閉めて。

 な、何で服を脱ぎながらこっちに来るの??

「…だから。そういうところだって言ってるのに」

 ベッドに上がって私の上に来るナリス。

 ど、どういうところ??

「ホント。レムは懲りないよね」

 何のこと??



 そのあと。これ以上動けなくなったら今日帰る皆を見送れなくなるからって、必死にキスの合間に訴えて。

 仕方なさそうに上から降りてくれたナリスは、私に服を渡しておいてくれた。

 ほら。やっぱりナリスはちゃんと優しいよね。

「じゃあ。呼びに来るから休んでてね」

 そう言って部屋を出かけて。

 足を止めて振り返る。

「続きは今晩するからね?」

 にっこり笑ってそう宣言された。



 ぱたりと閉まった扉を間違いなく赤くなった顔で見つめながら。

 優しいけど強引な、私の夫。

 まだついていくのに必死な私だけど。

 大好きなあなたの為に。

 大好きなあなたと一緒に幸せでいられるように。

 今日もがんばろうって。そう思った。

 読んでいただいてありがとうございました!

『ライナスの宿の看板娘』完結です。


 気楽に楽しく書いてましたが。まぁレムにも色々ありましたね。

 ちなみに最後。レムの服は、レムが眠ってしまってからナリスが畳んで椅子に置きました。

 実は少しイタズラもしましたが、やはり反応がないのは寂しくてやめました。


 ではまた短編でお会いできればと思います。

 最後まで読んでいただいて、本当にありがとうございました!

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冬野ほたる様 作
― 新着の感想 ―
[一言] まさかの追加小話(暴露話) ありがとうございます。 感想を書くことで こうした作者様の思いを伺う機会を得られるのが 感想を書く醍醐味でもありますよね。 176部に付けた先の感想が最後のつ…
[一言] 完結、お疲れさまでした。 後書きで、ナリスの悪行(?)が 暴露されるところを見れるのも これが最後かと思うと寂しいですね。 ナリスは程々にしないと、 仕事に支障をきたしてしまうので 頑張…
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