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三八三年 実の十一日

 訓練最終日を落ち着いて迎えることができて、本当によかった。

 朝来たらもう入口の鍵が開いてたから。きっとロイが店に行ったんだろうね。

 今まで訓練中に行くことはなかったけど、やっと戻ってこれたんだもん。たぶん好きな人のところに行きたいんだよね。

 ククルがお兄ちゃんのこと好きでも、そんなにすぐ割り切れないよね。

 私にだってわかるよ。

 ナリスにほかに好きな人ができたって言われても、諦めても、きっと私はナリスのことが好きなままだもん。



 皆の食事が終わってからお兄ちゃんが来て、急いで二階に上がっていった。

 珍しいなって思ってたらすぐに降りてきて、もう心配ないから午前中の訓練に出ることになったって教えてくれた。

 お兄ちゃんとリック、ずっと一緒に訓練してたし。

 お兄ちゃんが出られるならリックも喜ぶよね!

 皆が訓練に行ってから、ウィルが店に行ってたけど。

 そっか、さっきお兄ちゃんが来てたのって、ウィルにククルの様子を見てもらう為だったんだね。

 お兄ちゃんとウィルってククルを取り合ってたはずなのに、急に仲よかったりするから不思議だよね。



 午前の訓練が終わったあと、駆け込んできたアリーが私に飛びついてきた。

「レム!! 聞いて!」

「ど、どうしたの?」

「ダンがね! 手合わせしてくれるって!!」

 私をむぎゅっと抱きしめて、もう滅茶苦茶嬉しそうにアリーが叫ぶ。

「ホント?」

「落ち着いてからって! 約束してくれたの」

 アリー、ずっとダンと手合わせしたいって言ってたもんね。

「よかったね! アリー!!」

 アリー、もうそれ以上何も言えなくなっちゃったみたいに。私を抱きしめたまま固まっちゃって。

 そんなにダンと手合わせしたかったんだね。

「よかったね」

 抱きしめ返してそう言うと、無言のままぎゅうっとされる。

 しばらくそのまま私を抱きしめてたアリーの力がふっと緩んで。

「………嬉しい」

 堪えきれずに零れたようなその声は、いつもの大人っぽいアリーでも素のかわいいアリーでもなくて。

 私の知らないアリーだった。

「…アリー?」

「取り乱してごめんね。もう嬉しくって!」

 私から離れてそう笑うアリーは、いつもの大人っぽくてかわいいアリーで。

 ちょっと気になったけど。今はただ嬉しそうなアリーに何も言えなかった。



 最終日だから恒例のお茶会!

 ククル、昨日はお菓子が少なめでごめんねって言ってたのに。今日になったらいつも通りあるよ? どれだけがんばったの??

 まぁ私は嬉しいんだけどね。

 いつものように宿の食堂で四人で食べながら、今回はもちろんククルに休んでもらうからってお父さんが言った。

 次の訓練のあとは私の番だからって言われたけど。

 年始にナリスの故郷に行きたいから、そこで休まなくていいんだけどな。

 どうしようかちょっと迷ったけど、お父さんとお母さんにそう言った。

 いつもいつの間にかナリスが話してくれてるから。たまにはちゃんと自分から話さないとね。

「だから、代わりに年始に二日休ませてほしくて…」

「二日って、レム…」

 お父さんもお母さんも、ソージュまで、驚いて私を見てる。

 ナリスの故郷に行きたいのって、そんなに驚かれることなの?

 うろたえて皆を見回す私に、お父さんが仕方なさそうに溜息をついた。

「レム。エンドールまでは、途中のリーグストで一泊しないと無理だ」

「え? だってナリスは二日で戻ってきたよ?」

 年始に来てたとき。次の日の夕方に帰ってきたもん。

「ナリスだから、だ。ここからエンドールまでは、中央までとそう変わらん」

「そうなの??」

 海側じゃないって言ってたから、だいぶ手前だと思ってたのに。

 ってことはだよ?

「私だったら四日はかかるってこと…?」

「そうなるな」

 そうなんだ!!

 驚く私に、お父さんはもう一度息をつく。

「……まぁ、挨拶に行くべきだとは俺も思うが…。とりあえずナリスとも相談するから少し待ってくれ」

「うん…」

 二日でいいとばっかり思ってた。

 四日となると結構あるよね。

 年始でお客さんは少ないだろうけど、行かせてもらえるかな…。



 訓練も無事に終わって、リックも嬉しそう。訓練生の皆もリックのことをちゃんと尊敬の目で見てるし。お手本役は大成功だったみたいでよかった!

 尊敬といえば、今回はほとんどアリーが見てたのに、ちゃんとロイも慕われてるところがすごいよね。

 やっぱりロイって先生に向いてるのかな。

 今回は訓練と関係ないことで色々あったけど、皆がちゃんと訓練できたならよかった。



 お兄ちゃんは明日のケーキを焼くから、今晩はここに来ないし。

 私がきっちり仕事を終わらさないとね!

 終わりきる前にナリスが来て、ちょっと待ってもらって。

 厨房に行ってから、お父さんたちに話したって言った。

「そっか、一日で行けると思ってたんだ…」

 説明不足でごめんねって、ナリスは謝ってくれてから。

「……どうする?」

 じっと、私を見つめる。

「どうするって?」

「やめとく?」

「何で? やめないよ?」

 休んでいいって言ってもらえるなら。ナリスの家族に会いたいもん。

 ナリスはちょっと驚いてから、困ったような、でも嬉しそうな顔をして。

「ありがとう」

 そう言って私を抱きしめた。



 部屋に帰って明日の準備をしながら、ナリスとの話を思い出す。

 お父さんとはあとは自分が話すからって、ナリスは言ってくれた。

 任せっぱなしで申し訳ないなって思うけど、いいからって押し切られた。

 それにしても。エンドールってそんなに遠かったんだね。

 リーグストってどんな町なんだろ? さっきナリスに聞けばよかった。行きと帰りで二泊するなら少しは町も見れるかな。

 ……あれ? 泊まるんだよね?

 私とナリス、ふたりで行くんだよね?

 で、途中で泊まるってこと?

 ………もしかして、さっきナリスがどうするって聞いたのって…。

 途端に顔が熱くなる。

 え? ちょっと待って?? そういう意味だったの???

 どうしよう? 行くか行かないかの話だと思って、めっちゃ即答でやめないとか言っちゃったよ?

 ナリスが困ってたのってそういうこと?

 ありがとうって、どう受け止めればいいの??



 そのあともうどうしていいかわからなくって。

 今のところ行けるかどうかもわからないし、気付かなかったことにした。

 明日はククルの誕生日だからね。

 お祝いしなきゃいけないからね。

 そんなこと考えてる場合じゃないよね!!

 レム、気付いていなかったばかりに普通に返事をしてしまいました。ゴードンのときはジェットがいましたからね。

 本編は相変わらずあとひと押しが足りないテオと、ある意味ごまかすのが上手いククル。周りが落ち着いていく中、ウィルが迷走して困りました。

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冬野ほたる様 作
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