三八二年 動の十二日
本編『実の十二日』のネタバレを含みます。
夜、お兄ちゃんが部屋に来た。
「レムに頼みがあって…」
言いにくそうにそう呟いてから、手に持ってた物を渡してくれた。
巻きのままの、白いレースのリボン。今日わざわざ宿に来てから町に降りてたのは、これを買いに行ってたんだね。
「前にさ、リボンで髪留め作ってただろ? あれ教えてほしいんだ」
「髪留めって…あ、畳んで縫うやつ?」
今は肩までしかないからピンで留めてるだけだけど、前長かった頃に作って使ってたやつ。きれいにずらしながら畳むとお花みたいになるんだよね。
何でって聞きかけてすぐわかった。
ククルの誕生日に渡すつもりなんだ。
「今年は作るの?」
「…うん、そう思って」
下を向いて頷くお兄ちゃん。
クライヴさんたちのこととか、ウィルのこととか。色々あったから、何か思うところがあるのかな。
「いいけど…いくつ作るの?」
「え?」
「こんなにいらないよ?」
リボンは切り売りしてくれるのに、お兄ちゃん、一巻き全部買ってきたみたい。
「そうなんだ。どれだけ使うのかわからなかったから」
リボンもあまり長くすると店で使えない。結構あまりそうかな。
真っ白の、細かい模様のレース。
見ててふと、思いついた。
「お兄ちゃん! これ、私にももらえる?」
作りかけの今年のエプロン。濃い青だから、白のレースは映えるはず。
「エプロンにも使えばお揃いになるし。作ったんだってわかってもらえるよ」
「もちろん使ってもらえたほうがいいけど…」
お兄ちゃんが私を見返す。
「レムは大変にならないか?」
「重ねて縫うだけだし大丈夫!」
白いリボンの髪留めに、お揃いレースのエプロンか。
うん、絶対似合う!
こちらも本編にない日付です。
ひと月前(ひと月が五十日ですが)ということで、テオが動き出してます。
レムの髪の長さをやっと書くことができました。