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三八三年 実の九日

 ロイが戻ってこないまま、訓練も三日目。今のところアリーも疑われてないし、リックも仲良くやってる。

 訓練自体はホント何の問題もないけど。

 訓練前のあのことがどうなったのかは、まだ誰にもわからなかった。



 今回は店に泊まってるジェットだけど、皆の食事の間は宿に来てる。誰かの部屋で話してることもあるけど、今日はロビーの長椅子に座ってた。

「それにしても。レムもやるなぁ」

 受付にいる私を見て、思い出したように言ってくるジェット。

「アレック兄さん慌ててただろ?」

「心配かけるなって怒られるからもう言わないでってば!」

 隣のソージュも仕方なさそうな顔で見てくる。

 何があったかまでは聞いてなかったソージュだけど、ジェットたちから話を聞いて、無茶するなって怒られた。

 皆心配してくれてるのはわかるんだけど。全員怒るんだもん。

 ナリスも一応納得してくれたけど、仕方なくって感じだし。正直もうこの話は出さないでほしいよ…。

 だから、ちょっと強引に話題を変えることにした。

「今回はもう一日いられるんだよね?」

 そう聞いたら、ジェットはちょっと曖昧に頷く。

「ロイが戻ってくるまではここにいるけど、そのあとはわからない。呼ばれたら戻らないとだしな」

 そっか、呼び戻されるかもしれないんだ。

 せっかくククルの誕生日なんだから、ロイが戻ってきても予定通りいられたらいいのに。

 そう言うと、ジェットも笑って頷いて。

「俺もクゥの誕生日にここにいたことないから。当日に祝いたいんだけどな」

 言われてみればそう、だよね。

 去年と今年は訓練もあったから頻繁に来てくれてるジェットたちだけど、その前は年に二回とかだったもんね。

 今は毎回訓練に来てくれてるけど、たぶんずっとってわけじゃない。つまりそれは、ナリスにだって言えるんだよね。

 わかってるつもりだし、それで不安になったりはしないけど。

 やっぱり年に二回とかじゃ寂しいよ。



「どうしたの?」

 夜の厨房。ナリスが優しく笑って私の頭を撫でてくれる。

 昼間あんなことを考えてたら寂しくなって。今ナリスが目の前にいてくれるのが嬉しくて。しがみついて甘えてる私。

「ちょっとの間こうしててくれたらいいの」

 ぎゅうっとナリスに抱きついて、それだけ言う。

 ナリスは私の気が済むまで何も言わずに待っててくれた。

「…ありがとう」

 お礼を言って離れると、ナリスは笑って軽くキスをして、私を椅子に座らせる。

「お茶淹れるよ」

「私が」

「いいから。座ってて」

 譲る気はないみたいだから素直に甘えることにした。

 竈の前に立つナリスの背中を眺めながら、こうして一緒にいられるのは幸せなんだと心から思う。

 将来私たちが当たり前に一緒にいる為には、まだまだ考えないといけないことがたくさんあるよね。

 今こうして頻繁に会えてるうちに、少しくらいふたりで話しておいたほうがいいのかもしれない。でも…。

「…ねぇナリス」

「ん?」

 振り返って私を見るナリス。

「ごめんね、私、何も思いつかないよ…」

「何のこと?」

 慌てた様子でナリスが隣に来て。

「さっきからホントにどうしたの?」

 私の頭を撫でながら、優しい声で聞いてくれる。

「ちゃんと教えてくれる?」

 そのうちこんなに頻繁に会えなくなるのかなって思って寂しかったこと。

 先のことを相談しようと思ったけど何も思いつかなかったこと。

 話してる途中でお湯が沸いて、ナリスがお茶を淹れてくれた。

 お茶を飲みながら話し終える頃には私も落ち着いてたけど、もうちょっと甘えたくて隣に座るナリスにもたれかかる。

 ナリスは相槌を打ちながら、急かさず私の話を聞いてくれて。もたれかかると肩を抱いてくれた。

 呆れられてる様子がなくてほっとしながら、しばらくそのまま寄り添ってた。

「レム」

 名前を呼ばれて手が離れたから、身体を起こしてナリスを見る。

「話してくれてありがとう。…先のことは、俺もまだぼんやりとだけど考えてることがあるんだ」

 見つめる金の瞳は本当に真剣で。

「もう少しちゃんと詰めてから、真っ先にレムに相談するから。待っててほしい」

 私との将来をこうして考えてくれてることが、滅茶苦茶嬉しい。

「うん」

 泣きそうになってうつむくと、顎を持ち上げられて。

 目が合うと少し笑って、泣かないでって先に言われる。

「……まだ、泣いてないもん」

「そうだね」

 ゆっくり近付いたナリスがそっとキスをする。

「甘えてくれて嬉しかった」

 …甘えてたこと、やっぱりバレてて。

 滲んだ涙に笑いながら、ナリスはいっぱい甘やかしてくれた。

 本編にない日付です。帰らぬロイに心配そうな面々。情報がない分不安そうです。

 それなりに頻繁、といっても多くて月の四分の一くらい。しかもずっとこのままでないことは、レムだってわかっています。

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冬野ほたる様 作
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