三八三年 実の七日
訓練初日!
朝食のあと、リックはちょっと緊張した様子で出ていった。
初めてのお手本役。緊張するだろうけど、リックなら大丈夫だよ!
あんなことがあったし、アリーが店にいられないから、今回はお兄ちゃんも訓練に出ないんだって。
そりゃそうだよね。
ククルは出ていいって言ってるだろうけど。お兄ちゃんは絶対頷かないだろうな。
気にしてないフリしてたって。お兄ちゃん、ククルのことばっかりだからね。
ふと、昨日聞いた誕生日プレゼントのことを思い出した。
それにしても。指輪かぁ。
ホントなら結婚する当日にお互い渡すのが普通なんだけど。お兄ちゃん、よっぽど誰にも取られたくないんだね。
…そっか。お兄ちゃんとククルが結婚したら、ククルは私のお姉ちゃんだね。
お姉ちゃんって呼んだほうがいいのかな。何だか今更で恥ずかしいな。
そこまで考えて気付いた。
お兄ちゃんとククルが結婚して、私とナリスが結婚したら、ナリスにとってお兄ちゃんたちは………。
考えないほうがいいみたい。
うん。ククルはククルだよね。
お昼に一度戻ってきたリックは、ちゃんと訓練生たちの中にいて楽しそうに話してた。
私と目が合うとにっと笑う。
ほら。やっぱり大丈夫だよね。
アリーはすっかりロイで。訓練生がいなくても崩さないけど、口数はちょっと減る。
喉、大丈夫かな。お茶はきっとククルが考えてくれてるだろうから、私はあとでこっそり部屋に蜂蜜とお水を差し入れておこう。
そう思って、夕方アリーが追加訓練をしてる間にゼクスさんに渡しておいた。ゼクスさんも心配してるみたい。何度もお礼を言われた。
夜はいつものようにナリスと話すのに厨房に来たんだけど。
ナリス、お茶はいいって言って。私を抱きしめる。
「ナリス?」
昨日みたいに目一杯ぎゅうっとされてるわけじゃないけど。どうしたのかと思って見上げて名前を呼ぶと、ナリスは笑った。
「確かめてるんだ」
…昨日のアレだよね。
「いいよ。いくらでも確かめて」
そう言うと、また、と苦笑される。
「…そんなつもりじゃないのはわかってるけど。ちょっと黙ってて」
そんなつもりって、と聞こうとしたらキスされて。しばらく離してもらえなかった。
やっと離してもらえたから。昨日話せなかったお兄ちゃんとククルのことを話したら。
「ふたりとも落ち着いてたから。そうだと思った」
そう言って笑うナリス。
「いつ言うつもりなのかって。見てるほうがじれったかったよ」
ちょっと待って? ナリス、知ってたの?
いつからって聞いたら、最初に店を手伝いに行ったとき、だって。
それってひと月前だよね??
そんなに前から?
驚く私を不思議そうに見てるナリス。
「え? だって、ククルがテオのこと特別に思ってるのは今更だし。やっと自覚したんだって…」
ナリスの言葉に愕然とする。
だって! 今更ってことはだよ?
「ククルってお兄ちゃんのこと前から好きだったの?」
「少なくとも俺にはそう見えてたけど…」
気付いてなかったの、って逆に驚かれる。
「どう見ても両想いなのにじれったいなって。俺ずっと思ってたんだけど」
「……お兄ちゃんに対しては、他の人とは違うなっていうのはわかってたけど…」
私たちは家族みたいなものだから。それでかなって思ってた。
嬉しいよ? 嬉しいんだけど、何か複雑。
「まぁここの二家族は普通の隣人じゃないから、本人たちにはわかりづらいのかもしれないね」
確かにナリスが言うように、私たちはずっとひとつの家族みたいだった。クライヴさんたちが亡くなってからは、余計にそうだったから。
…でも、そうなんだ。ククルもお兄ちゃんを好きだったんだ。
ウィルもロイもアルディーズさんもいるからどうするのって思ってたんだけど。
お兄ちゃんもとっくに告白してたし。
いらない心配だったんだね……。
何だか一気に疲れちゃったよ……。
家族以外から見たククルとテオの認識にショックを受けるレム。ずっと心配していた分、衝撃は大きいようです。
本編はテオを威嚇するジェット。大人気ないですね。