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三八三年 実の五日

長くなりました!

 お昼過ぎに到着したアリーたち。

「レム!」

 ゼクスさんたちと一緒に顔を見せに来てくれたアリーが抱きついてきた。

「アリー! 元気だった?」

「もちろん! 会えて嬉しいわ!」

 ふたりでぎゅうぎゅうしあってると、ゼクスさんたちに笑われた。

「確かに元気そうでなによりだ。またしばらく世話になるよ」

「はい!」

 皆に鍵を渡して、荷物を置きに行くのを見送って。

 しばらくアリーがいてくれたから、ロイが降りてくるまで一緒に話した。

 明日には皆も来るし。

 終わればククルの誕生日!

 楽しみだよね。



 裏口からアリーが駆け込んできたのは、それからしばらくしてからだった。

「アリー?」

「レムはそこにいてっ!」

 初めて聞く、思わずびくりとするくらい強い声。

 すぐに降りてきたゼクスさんたちと、アリーの声を聞いて来てくれたお父さん。私にもう一度ここにいるように言って、外に駆け出していく。

 受付から出たところで、お母さんも慌てて来てくれた。

 何?

 何が起こってるの?

 あんなに慌てたアリーは初めて見る。

 しばらく待ってても、話し声も物音も聞こえない。

 でも誰も帰ってこない。

 どうしよう?

 どうしたらいいのかわからないよ?



「お母さん。私見てくるよ」

 待ってても誰も戻ってこなくて。

 いてられなくて、そう決めた。

「駄目よ。ここにいるようにって…」

「でもここじゃ何もわかんないよ? 何もできないよ?」

 何が起きてるのか。わからないと動けない。

「お願いお母さん。とにかく様子だけでも見させて」

 お母さん、ものすごく心配そうな顔をしてたけど、頷いてくれた。

「一緒に行くわ」

「ありがとう」

 とりあえず様子を。そう思って宿を出た途端、目に入った光景に足が止まった。

「レム?」

「そこにいて」

 まだ宿を出てないお母さんを小声で止める。

 店の中だとばっかり思ってたのに。

 店の外、並ぶ皆の視線の先。

 ククルが知らない男の人に捕まって。

 うしろから首を絞めるみたいに腕を回されてる。

「戻れレムっ!!」

 お父さんの叫び声。

 外に出た私に気付いて皆が私を見てる。

 どうしよう。

 そう思って見返す中、アリーの眼差しだけ何か違ってて。

 何か言いたげな、アリーの瞳。

 必死に考えながら、もう一度ククルを見て、気付いた。

 私たち、アリーにたくさん教えてもらってきたよね?

 その中に、こういうときにどうすればいいかもあったよね?

 でも。前にナリスには全然できなくて。わかってたら防げるかなって言われて。

 …………ククルも?

 ククルもそうなの?

 皆だって離れて立ったままで動けてないみたいだし。ククルだって動けないんだよね?

 それなら。私にできることはある。

 そうだよね、アリー!



「お母さんはそこにいてね」

「レムっ!」

 悲鳴みたいなお母さんの声を聞きながら。

「……ククル…?」

 私は走り出す。

「ククル!」

「止まれっ!!」

 強い声に驚いて足を止めてしまったけど。大丈夫と自分に言い聞かせる。

「お願い。私が代わるから。ククルは駄目」

 首を振ってそう言って。

 震えるのは構わない。けど、ちゃんとこっちに気を引いて。

 さらに一歩。

「レム!」

「動くな!!」

 必死なお父さんの声。心配かけてごめんね、お父さん。

 私を見てるククルは慌ててない。きっとわかってくれてる。

 男の人の視線がお父さんから私に向く。

「お前も―――」

「駄目なの。お願い」

 わざと言葉を被せて。

「まだ大事な時期なの」

 大丈夫。まだ私を見てる。考える時間を与えちゃ駄目。

「ククルのっ…ククルのお腹には赤ちゃんがっ……」

 男の人が、目を見開いた。



 ククルはアリーに教えられた通り、少し屈んでからうしろに仰け反って。

 アリーは気付いたらもうククルの前で。うずくまりかけたククルの腕を引っ張って男の人から引き離した。咄嗟で強く引かれたのか、ククルはそのまま倒れちゃって。

 そこからはもうアリーの独擅場。自分より大きな男の人を簡単に倒して捕まえた。

 アリーに呼ばれてロイも皆も動き出す。

 そうだ、ククル!

「ククル! 大丈夫?」

「ありがとう、レム」

 お礼を言ってくれるククルは、全然怯えた様子はない。怪我もないよね。

 ほっとしたのと、気が抜けたので、私は今更震えが止まらない。

 何とかククルを起こして。

 メイルさんが男の人が見えないよう壁になってくれて。

 アリーにほめられて。

 ククルに変な嘘をついたことを言い訳して。

 ククルと、アリーと。三人でぎゅっと抱き合って泣いて。

 あれ? アリーも泣いてる。珍しいよね。

 でもそれだけ心配してくれてたんだよね。

 ありがとう、アリー。本当に、アリーのおかげだよ!



 落ち着くのを待ってから来てくれたお兄ちゃん。頭を冷やすのにタオルを持ってきてくれてる。

 ククルはお兄ちゃんに任せて。アリーの言う通り心配してるだろうから、お母さんに謝りにいかないと。

 アリーがついてきてくれたから、ふたりで宿に戻る途中。

 アリーが足を止めて振り返るのにつられて、私もうしろを振り返った。

「えっっ!!」

 思わず声が出て、慌てて自分で塞ぐ。

 お兄ちゃんとククルがめっちゃ抱き合ってるんだけど???

 何? どうして?? あれ、普通に心配してとかそんなんじゃないよね? お兄ちゃんもククルも何の遠慮もないよね? もう思いっきり恋人同士のそれだよね?? ククルが捕まってたときより、今のほうがびっくりしてるんだけど??

 アリーを見たら、ちょっと嬉しそうに笑って頷いてる。

 アリー、知ってたの???

 ひょっとして前の訓練中皆の様子がおかしかったのって、こういうことだったの?

 訓練後のお兄ちゃんが変だったのって、つまり、ククルとってこと??

 もう一度ふたりのほうを見るけど。やっぱりそうとしか見えなくて。

 お兄ちゃん!!!

 いつの間に!!!



 混乱しながら宿に戻ると、お母さん、入り口のところで泣いてたから。

「お母さん!」

 慌てて駆け寄ったら、思い切り抱きしめられた。

「この子は本当に…」

 お母さん、それしか言わなかったけど。

 止めるのを聞かずに行っちゃったから。ものすごく心配かけたんだよね。

 また涙が出てきた。

「…ごめんなさい、お母さん……」

 私も泣きながら素直に謝ると、さっきよりぎゅっとされる。

「…でもね、できると思ったから行ったんだよ。私でも力になれると思ったから―――」

「ありがとうレム」

 涙声の、お母さんの言葉。

「無事でいてくれて。ありがとう」

 もう一度ぎゅっとしてから、お母さんは私を離して今度はアリーを抱きしめた。

「ありがとう、アリー。ククルとレムを助けてくれて」

 アリーは一瞬だけ驚いた顔をしてから、ふっと笑う。

「レムのおかげなの」

「でもあなたも無茶をしすぎよ。強いのは知ってるけど、もっと自分を大事にしなさい」

 ぎゅうっとアリーを抱きしめてそう言うお母さんに、アリーはまた驚いてから、お母さんを抱きしめ返した。

「はぁい」

 アリー、嬉しそう。

 ふたりでお母さんにもう一度謝って。

 店で話をするって言いに来たお父さんにも抱きしめられて怒られて。でも無事でよかったとかよくやったとかほめられて。

 もうホントに。色々あって頭がいっぱいだよ。



 アリーは店に来るかって聞かれてたけど、たぶん私たちの為に宿に残ってくれた。

 しばらくしてからロイが駆け込んできて。部屋に戻ったと思ったらすぐに降りてきた。

「ゴードンに行くから。あとよろしく」

「わかったわ。気を付けて」

 ゴードン? 何で急に?

 不思議がる私に気付いて、ロイは笑って手を振ってくれた。

「レム、色々ありがとね。アリーをよろしく」

「えっ? あ、いってらっしゃい!」

 ひらひらと手を振りながら、ロイは出ていった。

 そのあとすぐにゼクスさんが来て、店でした話を私たちにも教えてくれたんだけど。アリー、わかったって言って。

「ね、レム。ロイのフリをするから、同じくらいまで髪を切ってくれない?」

「ロイの振り?」

「訓練にロイがいなくちゃ。こっちも見張られてるかもしれないし、何より訓練生たちに悪いでしょ?」

 そう笑うアリー。

 断れなくて、切ったけど。

「…髪、だいぶ伸びてきてたのにね…」

「いいわよ髪くらい。それに、元々私がロイのマネするのに切ったんだし」

 うん。アリーだったらそう言うよね。

 でもね。

「ありがとう、アリー。ごめんね」

「どうしてレムが謝るの?」

「だって…」

 アリーがホントはかわいいものが好きなこと、私はちゃんと知ってるから。

 黒く染めてたけど、髪が長かったときは、目立たないよう小振りのかわいい髪留め使ってたよね。

 もうすぐ少しは結べる長さになってたのに。

「もう。いいって言ってるのに」

 私が何を気にしてるのかわかったみたいで、アリーは明るくそう言って抱きしめ返してくれた。



 そうして。ホント色々あった一日が終わって。

 明日からの訓練、いつも通りにできるかな。

 そんなことを思いながら仕事を終えて。お兄ちゃんはまだ来ないけど、もう家に戻ろうかなって思ってたとき。

 やっと来たお兄ちゃん。もう終わったって言ったらお礼を言われたけど。

 違うって! 聞きたいんだって!

「お兄ちゃん、いつの間に―――」

「そういえば、何だよあの嘘」

 私の言葉を遮って。

「父さん本気にして変なこと言うし…」

 お兄ちゃん、そうぼやくけど。

「お兄ちゃん! そうじゃなくて―――」

「終わってるなら帰るぞ、ほら」

 また!

 絶対わざとだよね??

 話す気ないよね???

 もう!

 お兄ちゃんのばか!!!

 スタインの騒動、レム視点です。

 アリーはもちろん、レムもククルも冷静でしたよね。『できる』と信じた女性陣の活躍でした。

 上手くいった喜びも、いつの間にかの兄とククルの関係に吹っ飛んだレム。現場は押さえたというのに、まだ逃げられます。詰めが甘いです。

 本編は頑張る女性陣。助けられはしませんでしたが、テオも決めるところは決めた…でしょうか。アレックの誤爆に巻き込まれましたが…。

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冬野ほたる様 作
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