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三八三年 動の三十六日

「お兄ちゃん、おはよう」

 あくびをしながら降りてきたお兄ちゃんに声をかける。

「おはよう。えらく早いな?」

 宿にお客さんはいないから、確かにこんなに早い必要はない。

「ククルの様子を見に行こうかなって」

 昨日熱を出してたククル。ぶり返してなければいいんだけど。

 そう言うと、お兄ちゃんはちょっと考えてから。

「様子がおかしかったら呼ぶから。せっかく時間あるんだし、レムはゆっくりしてろよ」

 そう言って返事も聞かずに行っちゃった。

 心配だし、行きたかったのにな。

 ゆうべのことも聞くの忘れてたと思いながらお母さんと作った朝食を食べてると、お兄ちゃんが戻ってきた。

「ククルに寝てこいって言われたから。昼まで休んでくる」

 部屋に入らず通り過ぎながらそう言って、駆け上がるみたいに二階に行ったお兄ちゃん。

 一瞬だったけど、顔赤くなかった?

 もしかしてお兄ちゃんまで熱が出たとか? だからククルに家に帰されたの?

 慌ててお兄ちゃんの部屋に言って扉を叩く。

「お兄ちゃん、大丈夫?」

「だ、大丈夫、だから!」

 しんどそうな声じゃないけど、扉は開けてもらえなかった。



 お父さんとお母さんに言って、仕事を始める前にククルの様子を見に行った。

「ククル、大丈夫?」

 見た感じは元気そうだけど、一応そう聞いてみる。

「大丈夫よ。ありがとう、レム」

 うん、すっかりいつもの様子だね!

「よかった! そういえばククル、どうしてお兄ちゃんに寝てこいって言ったの?」

 ククル、一瞬びくっとしてから私を見て。

「…ゆうべも昨日も、あんまり寝てないって言うから…」

 そう返してくれるけど。

 あれ? またちょっと顔が…?

「ククル?」

「それだけよ?」

 ちょっと赤くなってるククル。何でそんなに慌ててるの?



 お昼にお兄ちゃんが、今から店に行くからって言いに来た。

「こっち手伝えなくてごめんな」

「お客さんいないから大丈夫だよ。それより、お兄ちゃんは大丈夫なの?」

「ちゃんと寝てきたから」

 笑うお兄ちゃんはいつもの顔で。

 そういえばいつの間にか、考え込むのやめてるよね?

「ね、お兄ちゃん。何かあった?」

「な、何かって?」

 お兄ちゃん、何か焦ってない?

「何かはわかんないけど…」

 じっと見ると、顔を逸らされた。

「別に何も。店、行ってくるな」

 あ、また逃げられた!!



 そのあとお客さんが来る前にって、ククルがたくさんお菓子を持ってきてくれた。

 嬉しいけど! 無理しちゃだめだってば!

「お客さんがいない間くらいゆっくりしてたらいいのに…」

 ククルらしいけど。病み上がりなんだよ?

 そう言うと、心配かけてごめんねって笑って。

「でも、レムだってそうよね?」

「そうだけど…」

 今はククルの話をしてるんだよ?

 ククルはさらに笑って、今度はありがとうって言われた。

「…本当に。私は幸せね」

「ククル?」

「なんてね」

 そう言って笑うククルは、何だかいつもよりドキッとするようなかわいさで。

 何だろう? ホントに幸せそうだからかな?

「じゃあ戻るわね」

「あっ、うん。ありがとう、ククル」

 お菓子の籠を持ったまま戻るククルをぼんやり見送って。

 よくわからないけど。

 ククルもお兄ちゃんも元気そうならよかった、かな。

 レムの追求から逃げるテオ。喜んでもらえるのはわかっていますが、まだ照れくさいので言えません。

 本編はようやくテオが現実だと悟りました。

 この一年半はテオにとっては苦しい片想いになりましたが、その分幸せを噛みしめてほしいと思います。意外とククルが積極的なのは、普段のテオがヘタレだからでしょうね。

 新しい距離感を模索中のふたり。どうしてもぎこちなくなりますね。ちなみに普段は仲の良い熟年夫婦だと思って書いています。

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冬野ほたる様 作
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