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三八三年 動の三十四日

 朝から浮かれ気味のミュスカーさん。今日のお茶の前にアリーと手合わせするんだって、本当に嬉しそう。

 エディルはちょっと考えてるような顔してたから。どうしたのかなって思って見てたら、にっこり笑ってくれた。



 お茶のお菓子は、アリーが手合わせしてるからってお兄ちゃんが持ってきてくれた。

 お兄ちゃんもだいぶ落ち着いたかな。

 今回の訓練、騒動はないんだけど、ククルもお兄ちゃんもロイもウィルも。ちょっと様子がおかしいからね。

 たぶんククル絡みだから、聞きにくいんだよね…。

 アリーなら知ってるのかな?



 そのあと、宿は呑気に四人でお茶しながら、今回はお兄ちゃんが休みだねって話してたんだけど。

 お茶のあと、アリーが駆け込んできた。

「聞いてよレム! おじいちゃんったら酷いのよ??」

 自分はダンと手合わせできないのに、ミュスカーさんとまた手合わせすることになったって怒るアリー。

 話を聞いたけど…店はそんなことになってたんだね…。

 話すだけ話したら気が済んだみたいで。仕方ないから追加訓練の前にもう一度手合わせしてくるわねって笑って、アリーは戻っていっちゃった。

 確かに初めてアリーと手合わせしたとき、お兄ちゃんもきょとんとしてたもんね。

 …もう一回で済むのかな…?



 訓練後に嬉しそうなミュスカーさんが帰ってきて。

 一回で済んだかはわからないけど、満足はしてもらえたみたいだね。

 店のほうももうすぐ閉める頃かなってときに、ウィルが降りてきて。

「ちょっと出てきますね」

「あ、はい」

 思わず普通に返してから、訓練中なのに珍しいなって気付いた。

 訓練以外のときなら、店に行ったまま帰ってこないとかよくあったんだけど。ウィルは真面目だから、いつも訓練中は勝手なことをしないのに。

 そんなことを思いながら片付けてたら、ウィルもそのうち戻ってきた。

「戻りました。休ませてもらいますね」

「あ、はい。おやすみなさい」

 そう言って二階に上がっていくウィルは普通だったけど、そのあとすぐに来たお兄ちゃんはやっぱりちょっと様子がおかしくて。

 どうしたのって聞いても、何でもないって笑うだけ。

 ホントに。心配してるんだけどな。



 今日は最後の夜、またしばらくナリスにも会えなくなる。

 だからホントはちょっと甘えたかったんだけど。ナリスの様子もちょっとヘンで。私の隣に座って頭を撫でながら、滅茶苦茶見てくる。

 怒ってもないし、妬いてるってわけでもないし。明日帰るからかな。

「ど、どうしたの…?」

 そう聞いたら、ナリスは私を見つめたまま少しだけ笑った。

「レムはすごいんだなって」

 突然何のこと??

 驚く私に、ナリスはエディルに言われた言葉を教えてくれた。

 エディル、噂のことも気にしてくれてたけど、ナリスにもそんなこと言ったの?

「やっぱりちょっと妬けるのと、そんなに大切に思われてるレムのことが誇らしいのと、そんなレムが俺の恋人なんだってことが嬉しいのと」

 だから! ほめすぎだって!

 たぶん赤くなった私にナリスは笑ってから、ぎゅっと抱きしめてくれる。

「…目一杯大事にして。目一杯幸せにするから」

 私にというより、宣言するように。ナリスがそう呟く。

「私はもう幸せだよ」

「じゃあ今よりもっと」

 ナリスってばこどもみたい。

 だけど。

「ナリスが一緒に幸せだって思ってくれるなら、私ももっと幸せだって思えるよ」

 私ひとりじゃ意味がない。

 ナリスがいるから。ナリスといるから。だから私は幸せなんだよ。

 ナリスはまた中央に戻っちゃうけど、今はお互い次に会えるのを楽しみにしてるってわかってるから。会えないことが悲しいんじゃなくて、会える日を楽しみに待つことができるんだよ。

「ねぇ、ナリスも私といて幸せ?」

 ナリスがどんな顔をしてるのか、抱きしめられてるから見えなかったけど。

 抱きしめる腕に力が入って、柔らかな髪が首元に触れて。

「幸せに決まってる」

 耳元で囁くナリスの声に、たぶん滅茶苦茶照れてるんだろうなって。私にももうそれがわかるようになったから。

「同じで嬉しい」

 そう応えて、私もナリスを抱きしめた。

 珍しく本気で嫌がるアリーと、そこまで追い詰めるユーグ。誰に対しても余裕の態度のアリーにしては、珍しい反応です。ちなみにゼクスが怒鳴り込みに行った仕事仲間とはネウロスのことです。笑って諌められました。それ以来仲良しです。

 最後のひとりだからと、レムの幸せの為にナリスに挑んだエディル。彼なりのエール、ナリスはちゃんと受け取ったようですね。

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冬野ほたる様 作
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