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三八三年 動の三十二日

 訓練三日目。今日も相変わらずのアリーとミュスカーさん。

 アリーに何で受けてあげないのって聞いたら、受ける理由がないからだって。

 ダンとの手合わせは楽しいのに、ミュスカーさんだと楽しくないんだ?

 その辺り、私にはよくわからないな…。



 エディルにそんな話をしたら、何となくわかるかもって。

「初めて手合わせするときは、師匠も観察しているから受け身なんだ。戦って楽しい相手ではないだろうな」

「そうなんだ」

「それに、アリヴェーラさんは強いと聞くから。師匠では物足りないんだろう」

 パーティーのリーダーをしてる人でも物足りないって。アリー、一体どれだけ強いの?

 でも。だからダンがいいのかな。

 ジェットだったら面白がって受けてくれると思うんだけど。

 そんなことを考えてたら、いつの間にかエディルがじっと私を見てた。

「…エディル?」

 あんまり見つめられてるから何かと思って声をかけたら、エディルははっと我に返って、何でもないってちょっと笑ったけど。

 エディル、こないだも何か言いかけてたよね。

「…何か話があるなら聞くよ? ここじゃ駄目なら、厨房に行ってもいいし」

 何でもないって言われても。気になるよ。

 まっすぐ見返す私に、エディルはしばらく驚いてたけど。そのうち諦めたみたいに溜息をついた。

「…ギルドでナリスさんとのことを聞いたんだ」

 気にしてたのってその話??

「スヴェンも間違いないからと言うんだが。…どうしても確かめたくて」

 真剣なエディルに、今度は私がうろたえる番だった。

「ギルドでは、レムは…ライナスの宿にいる女の子は、ナリスさんと恋仲だって言われてる。それは本当のことなのか?」

 まっすぐに私を見て、エディルが聞いた。

 何でこんなことを聞くんだろって思うけど。真剣なエディルにごまかすようなことはできないから。

「そうだよ」

 私にできるのは、ちゃんと答えることだよね。

 きっぱりそう言うと、エディルはちょっと表情を緩めて、そうかって言って。安心したように息をついた。

「誤解がないならいいんだ。レムの知らないところで間違った噂が流れているなら、元を正すべきだと思って確かめたかっただけなんだ」

 それって、つまり。私の心配をしてくれてたってことだよね?

「…ありがとう、エディル」

「ああ、あと、レムのことは大切な恩人だと思っているが、恋愛感情はないから安心してくれ」

「そんな心配してないよ?」

 あんまりはっきり言われたから、ついそんなふうに返して。

 ふたりで顔を見合わせて、笑った。



 夜にナリスに、ギルドの噂のことを聞かれたって話した。

 大切な恩人だって言ってもらえたのは、ちょっと恥ずかしいから内緒で。

 心配してくれてたってだけ話したら、ナリスは何だか落ち込んだ顔になって。

「…ごめん。レムを守るにはいいかなって思ってそのままにしておいたんだけど、確かに一方的だよね…」

 そう謝られた。

「…守るって?」

「俺の恋人だって知られてたら、余計なちょっかいをかける奴もいないかなって」

 確かに言われたことはないよ。

 っていうか。気にしすぎじゃないかな。

 ククルならわかるけど。私だよ? こんなこどもっぽい私をそうそう見初める人なんていないってば。

「…そんな人がいるとは思えないけど。それでナリスが安心できるなら、ホントのことだし、そのままでいいよ」

「……いるから心配してるんだよ」

 拗ねたように呟いて、ナリスが私を抱きしめる。

「本当は結婚のことも噂にしておきたいくらい心配なんだ」

 優しく私の頬に触れて引き寄せて、キスされて。唇が離れただけの至近距離で、ナリスがもう一度呟いた。

「レムは俺のなんだからって」

「んっ…」

 強く塞がれて少し声が洩れる。

 そこから何度も、離してもらえないままのキスが続いた。

 不安なのか、嫉妬なのか。わからないけど。

 私が好きなのはナリスだけなんだから。

 そんなに心配しなくても大丈夫だよ。

 エディルのレムへの恋愛感情がないというのは本音で。ただ自分たちを立ち直らせてくれた恩人として慕っています。性格上、好きなものは好きとはっきり言うタイプです。

 一方のナリスは相変わらずですね…。

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冬野ほたる様 作
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