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三八三年 動の二十九日

『動の三十二日』『ラウル/会える日を』のネタバレを含みます。

 昨日あんなこと言われたし、今日こそナリスより早く行こうかなって思ってたんだけど。

 夜のナリスの様子を見て、やっぱりやめた。

 いつも通りで、ナリスが幸せだって思ってくれるなら。もうそれでいいよね。

 そう思って昨日と同じくらいの時間にロビーに行くと、やっぱりナリスが待っててくれて。私を見て、嬉しそうに笑ってくれた。

「おはよう、レム」

「おはようナリス!」

 長椅子に座って、今日皆が来るねって話して。

 朝食のあとはダンと交代で店を手伝うんだって。

 ってことは、それだけお兄ちゃんが疲れてるってことだよね。

 今日もいつもより起きてくるのが遅いみたいだし。ホントに。大丈夫かな。

 結局朝食のあと宿に戻ってきたお兄ちゃんは、部屋で休めと追い返されてた。

 こないだのお休みのときの自分を思いだしてちょっとせつない。

 でも。これでお兄ちゃんが元気になればいいんだけどね。



 お昼を回って、ギルドの皆が到着した。

 最初に来てくれたのはウィル。

「今回もお世話になります」

 って、いつものように言ってくれるけど。何だかちょっとぎこちない。

 ロイも、ウィルも、お兄ちゃんも様子がおかしいってなったら、やっぱりククルのことしかないよね?

 ククルも様子が変だったし。アリーにも見ててって言われたし。

 …もしかしてククル、三人に何か言った?

 ウィルを見るけど、もちろんどうなのかなんてわからなかった。

 そのあと来てくれたのは、もちろんエディル。

「レム!」

「エディル! 待ってたよ!」

 そう言うと、エディルはちょっと苦笑して。

「俺だけ最初から来るのがわかってるんだよな」

 今までは誰が来るかっていうのは教えてもらえなかったから、確かにその度にびっくりしてたけど。

「うん! だから今日はエディルが来るんだって思って楽しみにしてたよ!」

 そう言うと、エディルはちょっと驚いてから、嬉しそうに笑ってくれた。

「レムにも師匠を紹介するよ」

 そう言うエディルのうしろ、優しそうな男の人が立ってて。ナリスくらいの年のその人は、にっこり笑って頭を下げてくれた。

「ユーグ・ミュスカーです。噂のレムさんにお会いできて嬉しいです」

 名乗る前から噂のって何??

「レム・カスケードです。…あの、噂って……」

「師匠! アレックさんにも挨拶したいんですよね? レム、またあとで!」

 エディル、慌てて行っちゃったけど。

 噂って?? 気になるよ?



 顔合わせのあとは、いつも通りお茶を淹れて。今日もククルとアリーが持っていってくれる。

 お茶のあとミュスカーさんがひとりで降りてきたから、何かあったのかと思って声をかけたら。

「アレックさんに手合わせをしてもらう約束をしていて…」

 お父さんと手合わせ?

 驚いてたらお父さんが来て、ふたりで裏から出て行っちゃった。

 しばらくして戻ってきたミュスカーさん、ものすごく嬉しそうで。

 何でギルドの人がお父さんと手合わせするの?

 しかも何でそんなに嬉しそうなの??



 夜にナリスにその話をしたら、楽しそうにケラケラ笑って。

「ユーグ、面白いよね」

 そう言って色々教えてくれた。

 ナリスよりひとつ年上のミュスカーさん。色んな人の戦い方を知るのが好きなんだって。

 もちろんナリスも手合わせしたらしいけど。

「ユーグらしい戦い方がないから、やりにくいんだよね」

 知った戦い方を覚えて真似するって。ミュスカーさん、ものすごく頭がよくて器用ってことだよね。

 そんなギルド員の人もいるんだね。

「あとね、私の噂があるって…」

 笑ってるナリスにそう言うと、ぴたりと笑いがやんだ。

「…ナリス?」

「……それに関しては、アレックさんに謝らないとって思ってたんだ…」

「お父さんに?」

 頷いたナリスが私の両手を握った。

「何ていうか。レムは優しいしかわいいから。…正直俺が妬くようなことも、訓練に行ってた奴らには色々言われてたんだ」

 今さらっと恥ずかしいこと言われたよ??

 じゃなくて。私ギルドでそんなふうに言われてたの??

「でも今は、お互い見てるのがすっかりバレてて。ギャレットさんも知ってるから否定しないし、前回ふたりでミルドレッドに行ってたのを見られたのが大きいんだとは思うんだけど。だから何ていうか、俺のことを知ってる人は、レムとのことも知ってるって感じに…」

 ナリス、ちょっと照れた顔してるけど。

 ナリスはジェットとずっとパーティー組んでて。ジェットは『英雄』で。

 ってことはだよ?

「……ギルドにナリスのこと知らない人っているの?」

「……たぶんいない」

 やっぱり!!



 ギルド員全員に自分のことが知られてるって、冗談だよね?

 そう思ってナリスを見るけど。

 ナリスは微笑んで私を見てる。

 …冗談なんかじゃないって。ホントはわかってるよ。

 ナリスは手を放して、私の髪を梳くように撫でる。

「………嫌だった?」

「嫌じゃないよ。恥ずかしいだけ」

「俺と恋人ってことが?」

 ナリス、わかってて意地悪言ってるよね。だって、見つめる瞳が熱っぽい。

「違うよ。皆に知られてるってことが恥ずかしいんだよ」

 ナリスを引っ張って、そっとキスする。

「ふたりでいたら、こういうことしてるって。知られてるってことだもん…」

 だからちょっと仕返ししたら、ナリスが赤くなって固まった。

 ウィルが来ました。レムとは接点が少ないですが、様子がおかしいことはバレています。

 来て早々にアレックとの手合わせを願うユーグ。あの一件のおかげでジェットと戦えたことを喜ばれ、少々複雑なエディルでした。

 レムは自分とナリスのことがギルド公認だと知りました。来る人来る人、自分のことを知っている……。…大変そうです…。

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冬野ほたる様 作
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