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三八三年 動の二十八日

 今日と明日は、と思って早めに宿に来ると、やっぱりナリスが待ってくれてた。

 嬉しいけど。来る時間、段々早くなってきてるよね? いつもちゃんと寝てるのかな。

「おはよう」

「おはよう。疲れてない?」

 そう聞くけど、やっぱり大丈夫だって笑われる。

 ホントに大丈夫なのかな。

 今日はお兄ちゃんが個人訓練に出るから、ナリスも午前中は店に行くんだって。

 お兄ちゃん、最近様子が変だけど。訓練やって大丈夫なのかな。



 お昼過ぎにククルのお菓子と一緒に戻ってきたナリス。

 お兄ちゃんが疲れてるから少しでも負担を減らす為にって、昼からも店にいることにしたんだって。

 やっぱりお兄ちゃん、あんまり調子よくないんだね。考え込んでることと関係あるのかな。

 心配してたらナリスに気付かれて、聞かれたから話したんだけど。ナリスはひとりで納得したような顔で、しばらく見守ってあげてて、だって。

 何に悩んでるのか知ってるのかって聞いてみたけど、教えてもらえなかった。



 夕食後に戻ってきたナリスに、ジェットとダンと話をするからお茶を淹れてって頼まれて。ふたりで厨房に行く。

 お湯を沸かしてる間に、お兄ちゃんを休ませないといけないから明日もダンと交代で店に行くんだって教えてくれた。

「昨日こっちまで来たのに、朝も早く起きてたし。ナリスは大丈夫?」

 今日も一日店に立ってたんだし、と思って尋ねるけど。

「うん。ここに来るとね、早く目が覚めるんだよ」

 こどもみたいだよね、とナリスが笑う。

「ロビーでレムを待ってるの、結構好きなんだ」

 手が伸びてきて。引き寄せられる。

「俺に気付いて、笑って、走ってきてくれるのが嬉しいんだ」

 そんなとこ見られてるの??

 ナリスがいて喜んでるのバレバレな、そんな様子をじっくり見られてたの?

 ナリスは嬉しそうな顔してるけど、何だか恥ずかしい…。

 しかもそれに気付かれて、ナリスがますます嬉しそうな顔になってるのがもう!! ホントにもう! ものすごく恥ずかしいよ!

「……楽しんでるよね」

 ナリスが蕩けそうな笑顔になってるのが、何だかもう見てられない。

「今更恥ずかしがってるのがかわいくて」

「今更って……」

 恥ずかしいものは恥ずかしいんだってば。

 目を逸らすと、わざわざ両手で頬を挟んでまっすぐ向けられる。

「……ホントに。こんなつもりじゃなかったんだけど」

 ゆっくり顔が近付いて。かなり長い間、唇が重なった。

 はふ、と洩れた吐息に瞳を細めて。頬を離してくれないまま、何度もキスされる。

 何だかいつもより静かだけど濃厚で。私のことを探るような、窺うような、確かめるような。そんなキス。

 何度もキスはしてるのに。さっきの気持ちを引きずってるのか、恥ずかしすぎてぞわぞわする。

「…待っ……」

 かくりと膝から力が抜けた。

 すぐにナリスが抱き止めてくれる。

 そのまま椅子に座らされて。ぎゅっと抱きしめられた。

 支えてもらわないと座ってもいられない。

 ナリス、私に何したの??

「……ごめん。止まらなくて」

 困って私を見てるけど! しゅんとした顔もかわいいけど!

 一番困ってるのは私だからね?



 やっと淹れれたお茶を持って、ナリスは謝りながら先に厨房を出て。

 私はしばらく落ち着くまで待ってから、残る仕事を片付けに戻った。

 うぅ、身体は落ち着いたけど、心の奥が落ち着かない。ナリスが目の前にいなくてよかった。

 もうすぐ終わるってときにナリスが降りてきて。カップとかを持ってきてくれたけど。

 行くときより落ち込んでるのは何で??

 見るからに塞いでるナリスと厨房に行って。片付けないとだけど気になって。

「どうしたの?」

 聞くと、ナリスはちょっと苦笑して頭を撫でてくれた。

「…自分ばっかり浮かれてて、情けなくなった」

 そう呟いて、手を止める。

「ごめんね、レム」

 何に謝られてるのかわからなくて。でも悲しそうなナリスをそのままにしておけなくて。

 だからぎゅっと抱きしめる。

 ナリスはしばらくそのままだったけど、最後には抱きしめ返してくれた。

 ふたりで無言で抱き合って。

 夕方のどうしていいかわからないような、そんな感じじゃなくて。ナリスの体温にただ安心する。

 ナリスもそんなふうに感じてくれたのかな。自然に離れる頃には穏やかな顔になってた。

 私を見つめて。頭を撫でて。

「…俺は幸せだよね……」

 噛みしめるように、ナリスが呟いた。

 久々暴走気味のナリス。あちこちから公認になってきているので、あまり隠さなくなりました。ですがジェットからの話と直前の己のテンションの落差に反省した模様です。おそらく長くは続きませんが…。

 本編は相変わらずのすれ違うふたり。基本自分に自信のないふたりです。

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冬野ほたる様 作
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