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三八三年 動の二十七日

 朝、今日もロイはいつの間にか宿を出てて。朝食の時間が終わっても戻ってこない。

 朝食にも来てないならアリーが呼びに来るだろうし、店にいるとは思うんだけど。ゆうべも様子が変だったから、ちょっと心配。

 昨日の食器なんかは、朝にはもう扉の外に出してくれてた。少しは役に立ってたらいいんだけど。

 店のほうが一段落したのか、お兄ちゃんが手伝いに来てくれたから。ついでにロイの様子を聞いたんだけど、いつも通りだって返された。

 でもそういうお兄ちゃんがいつも通りじゃないよね? 何かめっちゃ考え込んでるよね?

 わかってるんだけど、お兄ちゃんには聞けなくて。仕方なく黙ってた。



 お兄ちゃんがこっちにきてからすぐ、突然アリーが駆け込んできた。

「レム、テオは?」

「お兄ちゃん、二階で片付けてるけど…」

「わかったわ。ありがとう」

 ヒラヒラと手を振って、アリーは二階に上がっていったけど。

 アリーがお兄ちゃんに用事って珍しい。っていうか、さっきまで店で一緒だったんじゃないの?

 昨日からお兄ちゃんの様子がおかしいから、それでかなって思うんだけど。

 もうホントに! 一体店で何が起こってるの??



 お昼過ぎに、予定通りゼクスさんたちが到着した。

「今回も一日早くてすまないな」

「全然! 嬉しいです!」

 そう言うと、三人共喜んでくれた。もちろんお世辞じゃないよ。

 ゼクスさんたちに、ジェットたちも今日の夕方着くって教えてもらった。

 もちろんナリスも。会えるのが待ち遠しい。

 明日も前みたいにお兄ちゃんとリックの訓練をするんだって。

 じゃあナリスはまた店に行くのかな。アリーと仲良くなってたし、ふたりとも変な話しないといいんだけど。



 そして夕方。予定通りジェットたちが到着した。

「今回もこっちに世話になるな!」

 アリーが店のほうに泊まってるから、ジェットとダンが同室だよね。

「また世話になる」

 そう言ってダンが頭を撫でてくれて。

「駄目だってダン! ナリス見てるんだから」

 リックが余計な心配をしてて。

「それくらい気にしないって」

 そう言ってナリスが笑ってる。

 お兄ちゃんとロイの様子を心配してたから、いつもの光景が何だか嬉しい。

「ただいま、レム」

 にっこり笑うナリスに、あとで話があるからって言われた。

 もちろん何の話かはわかってるよ。



 夜になってやっと戻ってきたロイ。受付の前を通るときに、昨日はありがとねって言ってくれたから。

「私は持っていっただけだよ」

「それでも。ありがと」

 もしかして私からだったって気付いてるのかもしれないけど。知らないフリしてようっと。

 ロイ、今日はいつも通りに見える。

 元気になったんだったらいいんだけどな。



 そうして仕事も終わった頃に、ナリスが来てくれた。

 ふたりで厨房に行ったら、抱きしめてキスされて。

 って、実家のこと話してくれるんじゃなかったの?

 しばらく待ってたら、ナリスは私を抱きしめたまま、行ってきたんだとポツリと言った。

「レムから手紙が来たって喜んでた」

「うん。お返事もらったよ」

 テレーズさんとはもう何度も手紙のやり取りをしてる。ホントはナリスが来たときのことも少しだけ聞いてるよ。

「ジェットが、なかなか帰せなかったことを謝ってくれて。それから、レムのことを話してた」

「ナリスも、話をしてきた?」

 そう聞くと、さっきまでより強く抱きしめられる。

「…謝られたんだ。気付かなくってごめんって。言葉が足りなくてごめんって」

 実家は帰りたい場所じゃなかったって言ってたナリス。ナリスからは詳しい理由は聞いてないけど。

 テレーズさんが教えてくれた。ふたりのお兄さんと少し年の離れてるナリスは、家族皆が仕事をしてても手伝えなくって、ひとりでいたんだって。

 小さなナリスには手伝わせるより好きなことをしていたらいいって思ってたけど、それを伝えたことがなかったって。

 寂しい思いをさせたんだって、今になってわかった。そう書いてあった。

「レムが教えてくれたって。母さんに言われた」

 手紙にナリスのことを書いたの、聞いたんだね。

 何となく甘えられてるような気がしたからナリスの頭を撫でると、少し笑ったような息が洩れた。

 しばらく宥めるようにそうしてから。

「…ナリスは何て答えたの?」

「それはお互い様だからって、そう言ってきた」

「それだけ?」

「…今度、レムを連れてくるからって」

 そう言って、私の首筋に顔を寄せて動かなくなったナリス。

 触れてる唇とかかる息と髪がくすぐったいけど。

 お父さんとお母さんの言葉が嬉しかったんだよね?

 だからちょっと照れてるんだよね?

「…ありがとう、ナリス」

「何でレムがありがとうって言うの?」

 私もぎゅっと抱きしめ返すと、そのままの位置で少し笑ってナリスが呟く。

 その日ナリスが私のことを何て言ってくれてたか、テレーズさんが教えてくれた。

 自分が一番大事な人を、家族にちゃんと紹介したいんだって。本当に素敵な人だから、自慢したいんだって。

 ナリス、それはちょっと言い過ぎだと思うけど。

 私がいないところで、自分の家族にそんなふうに言ってもらえてるのが嬉しかった。

 でも、ほめられすぎてて私も恥ずかしいから。聞いたってことは内緒にしておくね。

「だって、ナリスの故郷に連れていってくれるんだよね?」

 だから代わりにそう言って。

「うん。来てほしい」

「ナリスの家族に会えるの、楽しみにしてるからね」

 やっと離れて顔を見せてくれたナリスにキスをした。

 気が気でないテオと、立て直すロイ。ひとり事情を知らないレムは心配が尽きません。

 そんな中到着のナリス。もし自分の言葉が筒抜けなことを知ったら、開き直ってお仕置きモードですかね。黙っていて正解だったと思います。

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冬野ほたる様 作
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