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三八三年 動の十六日

少し長めです。

 朝、たぶん今日はと思って早く行くと、やっぱりロビーにナリスの姿があった。

「おはよう、ナリス」

「おはよう」

 泊まってるのはナリスたち四人だけ。だからかな、その場で引き込まれてキスされる。

 今日は厨房に行かずに、長椅子に並んで座った。

「今朝は私たちも店で食べようって言ってるの」

 お客さんがいないからね。皆で店に行こうってことになってる。

「そうなんだ」

「皆で一緒に食べれるね」

 とは言っても、お兄ちゃんとククルはふたりで先に食べてるはず。

 お兄ちゃん、訓練中もずっと店で朝食食べてたけど。この先もそのつもりなのかな。

 訓練中はアリーもいるけど。今はふたりだよね?

 ククルにとってもお兄ちゃんにとっても、ふたりでいるのは当たり前なんだろうなって思うけど。

 もうちょっと特別になればいいのにな。

「どうしたの?」

 考え込んでたら、ナリスに手を握られたから。

 何でもないよって、ナリスにもたれかかった。



 皆で朝食を食べて。出るのはお昼だからって、ダンが手伝ってくれた。リックは食堂の仕事が気に入ったみたい。ククルがジェットとクライヴさんたちのところへ行ってるから、その間手伝うって店に行った。

 私はまだ休みだから手伝うなって言われて。せっかくだからナリスと一緒にいればいいって、ふたりで厨房に追いやられた。

「ごめんね、ナリス。付き合わせて」

 お茶を淹れようとしたら、俺がするからって座らされる。

「俺は嬉しいけど?」

 頬にキスして、お茶を淹れにいくナリス。

 ナリスまで仕事取らないでよ。手持ち無沙汰だよ。慣れてないんだよ。

 ……何もできないって、暇だよね…。

 だから。せっかくナリスがいるしと思ってずっと眺めてた。竈に向かうとこっちからは背中側だからちょうどいいよね。

 お湯を沸かしながら、ポットとカップの準備をして。たまにこっちを見て、にっこりしてくれる。

 やっぱり背が高いよね。鍛えてるから触れると結構がっしりしてるのに、あんまりそうは見えないのは何でだろ?

 柔らかい髪は淡い金色だから余計に柔らかそうで。私は直毛だからちょっと羨ましいし、触るのも好き。ナリスには内緒だけど。

 何をするのもそうだけど、几帳面だからか適当なことをしなくって。丁寧なのに早いって、ホントすごいよね。

 ソージュも丁寧だけどナリスのほうが早いのは、すぐ次の動作に移るから、かな。

 そういえばダンもそんな感じだよね。戦える人ってやっぱり先を考える癖がついてるのかな?

 ……ジェットは…どうだろう。考えてるのかもしれないけど。動作には出てないよね…。

 それでも強いのは……勘?

 笑いそうになったところで、ナリスがお茶を置いてくれた。

「…何見てたの……」

 言いにくそうな声に見上げると、少し困った顔してる。

 これって。照れてる?

「俺だけ見ててって言ったよね」

 昨日言われた言葉を繰り返すと、間違いなく照れた。

「…レム……」

 ちょっと恥ずかしそうな顔がかわいくて、隣に立ったままのナリスに抱きつく。

「だからいっぱい見てたんだよ」

 見飽きることなんかないんだからね!



 ちょっと拗ねてるナリスと並んでお茶を飲んで。

 昨日は色々あったけど楽しかったねって話をしてて思い出したけど。

 訓練生の皆にふたりでいるところを見られちゃったんだよね。

 レンとセラムも、カートも気付いてたし、スヴェンも聞いてたって言ってたから、ディーとエディルも知ってるんだろうけど。皆は広めたりしないってわかってる。

 でも。私はただの宿屋の娘だけど、ナリスはギルドじゃ知られてるだろうから。訓練生の皆は話題にするかもしれないよね。

 ナリス、大丈夫かな。

 ギルドから何か言われたり、訓練に来れなくなったりしないよね?

 考えてたのに気付かれて、どうしたのって聞かれたから。正直に話したら、大丈夫だってあっさり言われる。

「ギャレットさん、知ってるから」

 ギャレットさんなら、と思ってから気付く。ギャレットさん、ジェットともお父さんとも親しいけど、事務長って言ってたよね?

 そんな人に知られてるって、どうなの……。

「だからギルドでどれだけ噂されても大丈夫」

「私は大丈夫じゃないよ…」

 だって、ここに来るお客さんが私とナリスのことを知ってるってことだよね??

 何か滅茶苦茶恥ずかしいよ?

 っていうか! 私が変なことしたらナリスにまで影響があるかもってことだよね…。

 ど、どうしよう…。そもそも恋人が私って時点で何か言われたりしないのかな……。

「レム」

 隣からちょっと棘のある声。

 何考えてたか、バレてるみたい。

 昨日、もう気にしないって思ったのに。駄目だなぁ…。

「……ごめんなさい…」

「…もういい加減わかってくれてると思ってたのに……」

 右手で肩を掴まれて。

 左手で頭を押さえられる。

 見上げたナリスはにっこり笑ってて。

 わ、私、ちゃんと素直に謝ったよ??

「…ホントに。自覚が足りない」

 謝ったってば!!

 近付くナリス。もちろん逃がしてなんてもらえない。

 甘すぎるお仕置きは、たぶん、さっき照れさせた分も割増で。

 こんなときに限って次の用事もないから。

 じっくり時間をかけて。これでもかって程甘やかされるけど。

 途中から、絶対、目的変わってるよね……。



 へろへろな私をぎゅっと抱きしめるナリスはとっても嬉しそうで。

 …もう。そんな顔されると怒る気もなくなるよ。

 ホントのホントに、ナリスは私で―――私がいいんだって。言葉にされて、態度で示されて。

 好きな人にここまでされて。こんな幸せなことってないよね。

 …ホント言うともうちょっと、手加減してほしいけど。

「ナリス」

 もたれかかって、名前を呼んで。

 覗き込む金の瞳に笑いかける。

「また、間違いそうになったら教えてね」

 一瞬驚いた顔をしてから、微笑むナリス。

「もちろん」

「私もね…」

 腕を伸ばして首に回して。引き寄せてキスをする。

「やりすぎだって、教えてあげるから…」

 じっと見つめてそう言うと、途端に真っ赤になったナリスがごめんなさいと謝ってきた。



 少し早めにお昼も皆で食べて。ジェットたちも出発の時間。

 今日は皆で外でお見送り。

 手伝ってくれてありがとうってダンとリックに言って。

 残ってくれてありがとうってジェットに言って。

 一緒にいてくれてありがとうってナリスに言った。

「素直に話してきてね」

「わかってる。行ってくるよ」

 ナリスはそう言ってくれた。

 丘を降りる皆に手を振って。

 次の訓練も決まってるから。すぐ会えるよね!

 あとは。わだかまりが解けて、ナリスにとっての実家が帰りたい場所になればいいな。

 もちろんここには変わらず来てほしいけどね。

 引き続きお休みのレム。ナリスとまったりの休日でした。

 何気にギルド公認のふたり。ホントなら婚約中と公表したほうが世間体はいいのでしょうが。ちなみにアレックは知りません…。

 本編はポンコツククルが迷走中。もう一歩、です。

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冬野ほたる様 作
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