三八二年 動の四日
ロビーを通りかかると、長椅子にリックが座ってた。少し前に朝食は食べに行ってたし、お茶でもほしいのかな?
私が声をかける前に気付いたリックは、慌てた様子で立ち上がって駆けてきた。
「レムさん! 俺、態度悪くてすみませんでした」
な、何?
急に頭を下げて謝られて滅茶苦茶びっくりした。
っていうか、リックって態度悪かったっけ?
「えっと…よくわからないけど大丈夫だよ? 何も嫌な思いしてないし」
ぴょこんと顔を上げるリック。私と同じくらいびっくりしてる。
「…レムさんも?」
「え?」
「その、ククルさんにも同じようなこと言ってもらえて…」
しょんぼり下を向いて、ククルのこと誤解して怒ってたんだって話をしてくれた。
憧れのジェットが辞めるって聞いて、周りが見えなくなっちゃってたんだね。
ククルも私も怒らないから、どうしていいかわからないみたい。
「ククルはホントに気にしてないと思うよ。それより、そんな顔して食事するほうが心配されるからね」
お兄ちゃん程じゃないけど、私にだってククルのことはわかる。
ククルが望むのは、絶対気を遣ってもらうことじゃない。
「今のリックは普段のリックじゃないんでしょ? 食堂も宿も寛ぐところなんだから。力抜いて、ね」
普段通り、楽しんで過ごしてくれるのが一番なんだから。
「レムさん…」
「レムでいいって」
私を見上げるリックにそう笑うと、ちょっと驚いた顔をしてから、へへっと笑ってくれた。
「ありがとう、レム」
あ、何かちょっと緩んだみたい。
今の、まだちょっとこどもっぽい感じでしっくりくる。やっぱりずっと気を張ってたんだね。
「俺、ククルさんたちともう一回話してくるよ」
行ってくる、と手を振って、リックは走っていっちゃった。
元気だな、と思って見送ってると、ぽふんと頭に何か置かれた。
「ありがとう」
うしろから来たダンが、そう言って頭を撫でてくれる。
よくわからないけど。何か役に立てたならよかった!
リックが懐きました。根は人懐こい少年です。
ダンの頭を撫でるクセは、自分がルギウスにされていたことから。生まれたときから知ってるククルたち三人のことは、今でも自分のこどもか弟妹かというくらい大事に思ってます。