三八三年 動の十五日 ①
笑える長さになりました……。
ので、予告なしで申し訳ないですが、七時と八時で二話上げますね。
今日は皆が帰る日だけど、ジェットたちはもう一日。
今から言ってくる、と楽しそうに笑ってジェットが出ていった。お兄ちゃんとククル、もちろんびっくりするだろうけど、絶対怒られると思う。
宿の台帳も、最初は今日までって聞いてたのをいつの間にか書き換えてあったし。ホント。こういうとこだけこどもだよね。
受付にいたら、スヴェンと訓練生の皆が来てくれた。
「ありがとう、レム。楽しかった!」
嬉しそうに言ってくれるスヴェン。
「私も楽しかった! また来てね!」
そう言うと、絶対来るよって笑ってくれた。
訓練生の皆もお礼を言ってくれたけど、フォードさんだけ顔がこわばってる。
「ヘンリー、アリヴェーラさんに言うつもりなんだよ。もう会えないかもしれないから」
見てる私に気付いたひとりがこっそり教えてくれた。
言うって、告白するってこと??
アリーに??
「駄目だろうってのは本人もわかってるんだけど、どうしてもって」
フォードさん、だからこんなに緊張してるんだね。
テーラーさんが降りてきて、話しかけてくれたところでこの話は終わったけど。
フォードさん、勇気あるよね。
結果はたぶん…だけど。頑張った自分はほめてあげてね。
そのアリーはちょっと前にゼクスさんのところに行ってたから。二階から皆で降りて来た。
「レム!」
ロイに自分の荷物を押しつけて、駆け寄って抱きしめてくれるアリー。
「もう帰らないとだけど。また次も来るわね!」
「うん。待ってるよ、アリー」
抱きしめ返してそう言うと、さらにむぎゅっとされる。
「お前は本当に節操のない…」
うしろで呆れたようにゼクスさんが言ってるけど、もちろんアリーは気にした様子ないよね。
「ね、レム」
少しだけ離れたアリーが小さな声で名前を呼んで。
「ククルのこと、よく見ててあげて」
「ククル?」
尋ね返すと、優しく笑って頷かれる。
ククルがどうしたんだろ?
アリーはそれしか言わなかったけど、わかったって言ったら安心したみたい。もう一度ぎゅっとされた。
ゼクスさんもメイルさんもノーザンさんも。私とナリスのことも何を悩まないと駄目なのかも知ってるみたい。焦らないようにって、いつでも相談に乗るからって、そう言ってくれた。
ロイはふたり分の荷物を持ったままうしろで不思議そうな顔してたけど、また来るねって手を振ってくれた。
最後に、いつも大部屋を確認してから降りてくるウィルが来て。
「ありがとうございました。また次回もよろしくお願いします」
いつものように丁寧にお礼を言ってくれた。
「…ククルも、落ち着いてるようでよかったです」
ウィル、来たときから心配してたもんね。
ククルのことが好きなんだって、いつの間にか見てわかるようになって。その頃からかな、優しい顔も見るようになった。
フォードさんもそうだけど。誰かを好きになるって、やっぱりすごいんだね。
私もナリスを好きになって。
少しは変わった、のかな。
皆が帰って。今日は見送りだけのソージュに、また夕方来てねって言っておいて。
今からナリスとミルドレッドに行くんだよね!
「ゆっくり楽しんでこい。ナリス、頼んだぞ」
お父さんがそう言ってくれる。
「着替えないとだよね。ロビーで待ってるから」
馬に乗るからスカートじゃ無理だもんね。待っててねって言うと、ナリスに急がないでいいよって返されたけど。
楽しみなんだもん! 急ぐに決まってるよ!!
服も荷物もゆうべのうちに準備しておいたから、着替えるだけ。
ちょっと悩んでから、ナリスにもらったペンダントを服の下につけた。
お父さんとお母さんにいってきますって言ってから、ロビーに行くとナリスが待っててくれた。
二階にお兄ちゃんが見えたから、いってくるねって手を振って。
お兄ちゃんが声をかけてくれたみたい、ジェットとダンも顔を出してくれた。
最後に店に顔を出して、ククルとリックにもいってきますって言ってから。
「行こうか」
ナリスが手を出してくれたから。
「うん!」
つないで丘を降りていく。
帰りは荷物があるからひとりずつ乗らないといけないだろうからって、行きはふたり乗りでって押し切られた。
距離が近いし、緊張するんだけどな…。
色々話したり、たまにドギマギしてるうちにミルドレッドに着いた、けど。
街の入口! 皆まだいるんだけど??
皆馬を降りてて、邪魔にならないように端に寄って。何か待ってるみたい。
アリーたちはいなくて、スヴェンとテーラーさんと、訓練生の皆だけだけど。
「レムさんだ!」
「えっ、うしろって……」
「ナリスさん?」
「ふたりって……」
気付いた誰かの声で全員こっち見るし! って、私まだナリスとふたり乗りだし!! 皆ぼそぼそ言ってるし!!!
ああぁぁ、もう、恥ずかしいったら!!
「な、なんで皆まだこんなとこにいるの?」
「ウィルバートさんがギルドに報告に行ってるんだよ」
手綱をテーラーさんに預けて、スヴェンが近くに来てくれる。
「レムは?」
「私は明日までお休みで、ミルドレッドに買い物に…」
み、皆見てるよ…。
せめてひとりで乗ってくればよかった…。
うしろでくすっと笑ってから、ナリスが馬を降りて。私も降ろしてくれた。
「返してくるから。皆といて」
「う、うん…」
「お願いしても?」
頷いたスヴェンにありがとうと笑って、ナリスは馬を引いていっちゃった。
「……聞いてたけどさ。ホントに仲いいんだな」
「言わないで……」
見送りながらのスヴェンにぼそっと言われるけど。
もうホントに! 恥ずかしくって仕方ないよ!!
皆にからかわれながら、ナリスが戻るまで話してたんだけど。
フォードさん、やっぱりアリーに断られたって。しかも理由が! ダン??
え? アリーってダンが好きなの?
今まで全っ然そんな素振りなかったよ??
どうしよう。今からアリーを追いかけていって問い詰めたい。
…アリーもセレスティアでこんな気持ちだったのかもね。
そんな話をしてたらナリスが戻ってきて。
そのあとすぐにウィルが来て、私とナリスを見て、ふたり乗りで来たって聞いて、滅茶苦茶驚いてた。
そっか、ウィルは知らなかったよね。
ごめんね、びっくりさせて。
改めて皆を見送って。
さっき聞いたアリーの話をナリスにしたら、ああって頷いてる。
「知ってたの??」
「そうじゃなくて。たぶん、訓練相手って意味だと思うよ」
そっちの意味?
皆は完全に好きな人だと思ってるみたいだけど。アリーのことだし、わざとそう聞こえるように言ったのかもしれないね。
…尊敬できる人。アリーを甘えさせてくれる人。ダンは間違いなくそうだけど。
まぁ、だいぶ年上だからね…。
ナリスとまた手をつないで。まずはって聞いてくれたから、布地屋さんに行ってもらった。
一軒しかないけど、広いんだよね。
「ちょっと時間かかるかもしれないから、ナリスはほかのお店見てきてていいよ」
そう言うんだけど。ナリス、大丈夫だって言って離れてくれない。
ナリスの分の生地も買いたいから、ホントは外してくれてるほうがいいんだけど…。
仕方ないから買うときだけ外に出てもらおうと思って諦めた。
誰の何の分を買うのかはちゃんと考えてきたんだけど。ついつい余分に買いたくなっちゃうよね。
そういやお兄ちゃん、今年のククルの誕生日はどうするつもりなんだろう? 訓練中だったから、まだ考えてないのかな。
ミルドレッドでなら買えるものもたくさんあるから。聞いてくればよかったかな。
だいぶ待たせちゃったけど、買う布を選んで、ナリスには頼んで外に出ててもらった。
生地と、糸とレースも買って。お金だけ払っておいて、あとで取りにくるからってお願いしておいた。頼んだ長さに切るのも時間かかるからね。
ナリスにまた帰りに寄ってもらえるよう頼んで、これで一番の目的は済んだけど。
「あとはどこに行きたい?」
「ナリスは?」
「俺は今日レムの付き添いだから。レムの行きたいところに行けたらそれでいい」
ナリスがそう言ってくれたから。
「じゃあ皆にお土産のお菓子買いたい」
今日こうして来られたのは皆のおかげだからね。
ナリスはわかったって笑って。またふたりで歩き出す。
こうしてふたりで歩くのはゴードン以来かな。ちょっと旅気分で嬉しい。
ナリスとふたり、時々味見をしながら皆へのお土産を探して。楽しい時間はあっという間で、気付いたらもうお昼だった。
「お腹すいてない?」
ナリスがそう聞いてくれるけど。お土産を探すのに店頭で売ってるお菓子を結構食べちゃってるから、正直あんまりすいてない。
でもナリスはそういうわけにはいかないよね。
「ナリスは何か食べるよね? 一緒に行くよ」
「じゃあ少し休憩しようか」
お店に入って。ナリスは食事を、私は飲み物だけ頼んで。少しは食べたらって、ナリスがサンドイッチをわけてくれた。
何だかこうしてわけて食べるとか。恋人同士みたいだよね。
…って、恋人同士なんだけどね。
でもたぶん周りからはそんなふうには見えないんだろうけど。
だってナリス、ミルドレッドに来てから結構女の人に見られてるし。向こうのテーブルの人たちもナリスのこと見てるし。手をつないで歩いてたら私まで見られてる。
もしかしたらゴードンでもそうだったのかもしれないけど、夕方だったのと、私もはしゃいでたから気付かなかった。
淡めの金の髪に、金の瞳で。背も高いから目立つんだよね。顔だってかっこいいって思うのは、たぶん私の贔屓目じゃないはずだし。
…ナリス、絶対もてるよね。
…………。
もうちょっと大人っぽい格好してきたらよかったかな…。
レムにはイベント盛り沢山の一日です。
またね、と言ったのに。まさかのミルドレッドでのすぐの再会。張り切って早く行きすぎました。ふたり乗りじゃバレますよね…。
アリーの疑惑はナリスに一蹴されました。ナリスといいテオといい、アリーを戦闘狂だとでも思っているのでしょうか。…否定はしませんが。
一緒に町を出ることがほぼないので、ナリスのモテっぷりを知らなかったレム。
そりゃあ、夜の街をうろついてたら泊めてもらえるくらいですからね…。
八時に後半を上げますね!