三八三年 動の十四日
本編『動の十五日』のネタバレを含みます。
今日は訓練最終日。皆張り切ってる。
今回は最初のフォードさんの騒動だけで、あとは落ち着いてたかな。
あ、ジェットはロイに怒られてたけどね。
スヴェンも仲良くやってるし。ホントよかった。
お茶の時間はいつものように皆が食堂に行っちゃってるから、お父さんとお母さんと、もちろんソージュと四人、宿の食堂で食べる。
「今回はレムが休む番だな」
「何度も抜けさせてもらったから大丈夫なのに」
ナリスと話す為にたくさん迷惑かけてるし、私の休みはとばしていいって言ってたんだけど、お父さんもお母さんもいいからって言ってくれてる。
「そう言うな。ミルドレッドに行きたがってただろう? ちょうどいいから行ってこい」
お父さん、笑ってそう言うけど。
「ひとりで行っていいの?」
いつもは駄目だって言われるのに。そう思って聞くと、お父さんは首を振る。
ひとりじゃ駄目なのに行ってこいって言われても!
私とさらにもうひとり抜けたら、たぶん仕事は終わらない。どんなに急いで帰ってきても二時間はかかるもん。
もしかしてソージュが来てくれるつもりなのかと思って隣を見るけど、違うと首を振られる。
どうしていいかわからずお父さんを見ると、お父さんが笑った。
「ナリスに頼んであるから。一緒に行ってこい」
「えっ?」
ナリスに? 頼んであるってどういうこと??
「抜けるならやっぱり明日がいいと思ってな。ナリスとジェットにもう一日残れないか頼んであったんだ」
そういえば、前にお父さんがナリスを呼んでたのってそれだったんだ!
「こっちのことはジェットたちも手伝ってくれる。気兼ねせずゆっくり見てこい」
お父さん、私が急いで帰らなくてもいいようにナリスに頼んでくれたの?
お父さんを見てもお母さんを見ても、ふたりとも笑って頷いてくれるから。
「ありがとう…」
ちょっと泣きそうになってると、横からソージュがよかったねって言ってくれた。
「そう。前の帰りに聞かれてたんだよ」
夜、厨房で。明日のことをナリスに聞いたら、そう言って笑った。
「黙っててごめんね。ジェットがびっくりさせたいって言うから、まだククルたちにも話してないんだ」
…それ、ククルに怒られるやつだと思うけど。
見上げると、ナリスも仕方なさそうな顔してた。
「帰りはここから南下して、東回りで行く予定なんだけど…」
ナリスがちょっとためらってから、私に手を伸ばしてくる。
抱きしめる力はそんなに強くはないけど、すっぽり腕の中に収められて。
顔。見られたくないのかな。
「……ジェットが、エンドールに寄るって言うんだ」
「エンドールってナリスの…」
「うん。実家」
やっぱり見られたくないんだと感じたから、顔を上げずに話しかける。
「もちろん会ってくるよね?」
「ジェットが、アレックさんの代わりに挨拶するんだって張り切ってる。俺は弟子だし、レムは姪だからって」
ジェット、そんなこと言ってくれてるんだ。
何だか嬉しいよね。
「……年始に。レムに一緒に行ってもらおうと思ってたのに」
拗ねた口調だけど。ジェットが来てくれるのが嬉しいんだよね。
こういうとこ、素直じゃないよね。
思わず笑っちゃって、腕に力を入れられる。
「……何?」
「何でもないよ」
「そんなふうには聞こえないけど」
声まで拗ねちゃったナリスが、私の頭の上に顎を載せてくるから動けなくなって。
そのままナリスの胸にもたれかかる。
「よかったね」
「………うん…」
やっぱりちょっと嬉しそうな声。
ナリスのお母さんの気持ちはもうわかってるんだから。
私がいなくても、素直にね。
エンドールの実家に寄ることが決定のナリス。張り切るジェットの姿が目に浮かびます。
本編は再びしつこい呼ばわりのナリス。さすがにもう落ち込むのも落ち込んだフリもやめたようです。
鈍感ククルも一歩前進。畳みかけられないのがテオのいいところです。