三八三年 動の十二日
今日は朝から元気な皆を見送って、いつものように仕事を進める。
今回アリーは店のお手伝いとして雇われてるらしくって。あんまりこっちに来れないのはちょっと寂しい。
アリーといえば。フォードさん、どうするつもりなのかな。
アリーはセレスティアに住んでて家が工房だから、中央からすぐ会いに行けるけど。
…そうだよね。ライナスは遠いよね。
私とナリスが一緒に住むには、どっちかが仕事を諦めないといけない。
まだ何も考えられてないけど。ちゃんといい方法を見つけられるのかな。
ギルド員の人ってどうしてるのかなって思って、お昼に戻ってきたゼクスさんに聞いてみようと思ったんだけど。
はっきり聞くのも恥ずかしいから、いつからマデラに住んでるのかって聞いてみた。
ゼクスさん、少し驚いた顔したあと、優しく笑ってくれた。
「結婚を機に中央から移った。妻はほかの街でガラス細工の職人をしとったが、家業は兄が継ぐからと、儂と一緒に来てくれたよ」
ゼクスさんの奥さん、職人さんだったんだ。
って、まるで私が何を聞きたかったのかわかってるみたいだよね?
「来てからはセレスティアのガラス工房で働いとった」
ゼクスさんは懐かしむように瞳を細めてから、ぽんと私の肩を叩いてくれた。
「後悔せんように。ゆっくり決めるといい」
やっぱり何に悩んでるのか知ってたんだ!
驚く私に、ゼクスさんはそれ以上何も言わなかったから。
「ありがとうございます」
私も聞かずにお礼を言うと、このくらい、と返された。
ゼクスさん、訓練では厳しいみたいだけど。ホントは優しいよね。
そのあとで、メイルさんとノーザンさんも話しに来てくれた。
ノーザンさん、結婚してからしばらく別々に暮らしてたんだって!
奥さんの仕事の都合って言ってたけど。結局二年そのままだったって。
「……まぁ、勧めはしないがな」
ライナスよりは近かったらしいけど。やっぱり大変なんだ。
「それで、一緒に暮らすようになったきっかけは?」
私としては素朴な疑問だったんだけど。
ノーザンさん、ちょっと困ったように笑って、こどもができたから、だって!
何だか聞いてるだけだと幸せそうだけど。
実際は色々あったのかもしれないね。
「なかなか難しいよね」
ナリスにそう言うと、そうだねって笑った。
「ノーザンさんの話は知ってたから、俺も詳しく聞いたんだけど。奥さんには苦労をかけたって言ってた」
やっぱり私には話してないことがあったんだね。
ナリスは手を伸ばして私の頭を撫でてから、ぐっと引き寄せる。
「…俺には無理かな」
胸の中に引き込まれて、顔を上げるとキスされた。
「結婚したのに毎日会えないとか。考えたくない」
「うん、私だって毎日会いたい」
素直に言っただけなのに。
ナリス、赤くなってそっぽ向いて、またってどういう意味?
からかってないから! 照れるところじゃないから!
私間違ったこと言ってないからね?
本編にはない日付です。
ゼクスたちは訓練中のふたりの様子から、アレックに尋ねに行って詳細を知りました。バレバレなふたりです。
ゼクスの妻が勤めていた工房にジャンが弟子入りし、ルミーナと知り合いました。
その後独立して自分の工房を立ち上げ、軌道に乗ったら迎えに…と思っていたのですが、共に苦労したいとのルミーナの言葉に結婚を決めます。
ぶっきらぼうなジャンですが、ルミーナには素直です。