三八三年 動の十日
今日から訓練。朝食を食べに行くとき、スヴェンとフォードさんも普通に話しててほっとした。ふたりが喧嘩してたわけじゃないけど、こじれなくってよかった。
「すみません、レムに聞きたいことがあるんです」
訓練の間にたぶん店に行ってたウィルに、戻ってくるなりそう声をかけられる。珍しいなぁって思いながら返事をすると、ククルの様子について聞かれた。
「ククルは隠すのが上手いので、無理をしてないかと……」
ウィルもククルのことよく見てくれてるんだね。
心配そうなその顔に、ウィルもホントにククルのことが好きなんだなって思う。
「ククル自身も、ホントに自分は大丈夫って思ってるとは、思います」
別に無理に隠してないのは、私にもわかる。でも。
「ただ、たぶん時々、あのとき自分がこうしてればって。そんなこと考えてるんじゃないかな…」
ククルは起こってしまったことを悲しむより、そうなってしまったことを悔やんでることのほうが多いから。
今回だって。どっちも悪くないのに、お兄ちゃんとふたりで謝り合いしてたもんね。
「でもそのときだけで。ずっと落ち込んだりはしてないと思います」
「…そう、ですか……」
少しは安心したのか、ウィルの表情が少し緩んだ。
ククルがあんな目に遭ってから、一番に来てくれたもんね。ククルのこと、ホントに心配してくれてたんだね。
ほかに安心してもらえるような話はないかなって考えて。
「それに、私たちアリーに身の守り方を教わったんです! ククルももうこんなことがないようにって練習してます!」
ククルは前向きなんだよって伝わるかなって思ったんだけど、ウィルはものすごく不思議そうな顔で頷くだけだった。
夜、自主訓練に行ってたはずの皆が帰ってきたけど、ものすごく疲れてて。
「スヴェン? どうしたの?」
だらりと歩くスヴェンに声をかけたら、ふらっとこっちに来てくれた。
「……やっぱ英雄って…すごいんだな…」
遠くを見てそんなことを言うスヴェン。
ジェット、またやっちゃったみたいだね。
ロイ、怒ってるだろうな。
ヘロヘロの皆が戻って。やっぱり怒ってるロイと謝るジェットが二階に上がってから。
仕事が終わるのを見計らって、ナリスが降りてきてくれた。
一緒に厨房に行くなり抱きしめられてキスされて。
何で急にって思うけど、ナリス、全然手を緩めてくれなくって。
前の怒ってるときみたいに乱暴じゃない、ホントに甘くて熱いキス。
「…な、に……?」
とぎれとぎれにしか声の出せない私を、キスの合間に嬉しそうに見つめるナリス。
「遠慮しないって、昨日言ったよね」
「そ、んっっ」
また塞がれて言えなかったけど。
そんなこと、まだ言うの??
からかうつもりじゃなくて確かめたかっただけなんだよ?
かわいいって言ったのも、ホントにそう思ったからなんだよ?
っていうか! 今からかってるのナリスだよね??
そんなことを考えてられたのもしばらくの間だけ。
座り込みたいくらい身体に力が入らないのに、ナリスにしっかり支えられててそれもできない。
もう! ごめんってば!!
ヘンリーは謝るときとアリー以外には普通に話してます。ちなみにアリーより年下です。
まだまだ心配なウィルですが、どうにもレムとは会話がズレます。ホントにこのふたりは馴染まない……。
引き続き主導権を主張するナリス。先手必勝でした。