三八三年 動の七日
お昼過ぎにゼクスさんたちが来た。
「一日早いがよろしく頼むよ」
そう言って笑うゼクスさん。ククルと、多分私のことも心配して早く来てくれたんだよね。
「ありがとうございます!」
めいっぱい元気に返すと、もう大丈夫だって伝わったのかな、三人共ほっとしたような顔してる。
「元気そうでよかった」
「そうだな」
メイルさんとノーザンさんもいつも通り。皆で顔を見合わせて笑い合った。
「またよろしくね。アリーは荷物置いたら来るって」
一番うしろから来たロイがそう教えてくれる。
鍵を渡してると、アリーが駆け込んできた。
「レム!」
ゼクスさんたちを押し退けて、受付越しにぎゅっと抱きしめてくれるアリー。
「お前はもう……」
呆れた声だけど、ゼクスさん、目は優しいままだよね。
また賑やかになって嬉しいな。
夕方、ナリスたちまで一日早く来たから、ホントにびっくりした。
「ただいま、レム」
皆がいるから抱きしめられたりはしなかったけど、十分甘い声。
おかえりなさいと返してから、ジェットだけいないのに気付いた。
店にいるのかなって思ってたら、ミルドレッドに寄ってるんだって。
ダンがいつもみたいに頭を撫でながら教えてくれた。
リックも元気そう。ここに来るのも慣れたよなって、そんなこと言ってる。
夜になってからジェットも着いて。
急に皆来てくれて。ホントに嬉しい。
これでククルも寂しくないよね?
夕食のあと、私の仕事を手伝ってくれたナリスと厨房に行って。
渡すものがあるって言われて、封筒を渡された。
宛名は私。差出人はテレーズ・アサレイ……ナリスのお母さん??
びっくりしてナリスを見たら、ちょっと笑って頷かれた。
「手紙、出してくれたんだね」
そう、ナリスから私の話をしたって聞いたから。私も手紙を書いて、挨拶が遅くなったこととか、会いに行けないこととかお詫びして。
そのうち会いに行きますって。待っててくださいって。そう書いた。
「最初だから、俺から渡してほしいって。送ってきたんだ」
「…読んでいい?」
頷いてくれたナリスの前で、ちょっと緊張しながら封を開ける。
中には丁寧な字で、挨拶と自分のことと、私の手紙のお礼と嬉しかったってことと。お互い緊張するから、この手紙はナリスに渡してもらうことと。そんなことが書いてあって。
最後に、今目の前にナリスがいてるだろうからって。
息子の手を取ってくれてありがとう、これからもよろしくって。そう書いてあった。
ナリスはあんまり実家に居場所がないみたいに言ってたけど、ナリスのお母さん、滅茶苦茶ナリスのこと大切に思ってるのが滲み出てて。
読みながら泣き出した私にナリスは驚いてたけど、声をかけずに頭を撫でてくれてた。
落ち着くまで待ってくれたナリスに手紙を渡す。
ナリスには内緒でねって書いてあったけど、絶対ナリスも読んだほうがいいって思ったから。
黙ったまま最後まで読んだナリスは、手紙をしまってテーブルに置いた。それからそのまま私を抱きしめる。
私もナリスの背中に手を回して、ぎゅっと抱きしめて。何も言わないまま、しばらくそうしてた。
「……こんなふうに思われてるなんて知らなかった…」
ぽつりとナリスが呟いて、私を抱きしめる手に力を込める。
「…本当に。この年になっても気付かないことばっかりだ」
ナリスの声、戸惑ってるけどちょっと嬉しそう。
「ねぇナリス。今度、家族に会いに行ってきたら?」
その分ここに来る日が少なくなるかもしれないけど、我慢するから。
「ちゃんと会って、話してきて」
たぶん今ならナリスも素直に家族と話せるよね?
そう思って言ったんだけど、ナリス、ますます私を強く抱きしめて。
「それならここに来たい」
駄々っ子みたいなこと言わないでよ?
どうしたら行ってくれるかなって考えてたら、ナリスがちょっと腕を緩めてくれた。
顔をあげるなりキスされて、もう一度ぎゅっとされる。
「年始に。アレックさんたちが許してくれたら、一緒に来てくれる?」
「一緒に?」
「うん。ふたりで一緒に」
もしかして、ちょっと不安なのかな。
そう思ったけど、別にそれはいいや。
だって私もナリスの家族に会いに行きたいもん!
「行きたい」
だからすぐに答えたら、ナリスは私を一旦離して、こつんと額同士を当てて。
小さな声で、ありがとうって言ってくれた。
じぃちゃんずとジェットたちの到着です。
ナリスは母の手紙付き。何才になろうと母は母です。
ここぞとばかりに約束を取り付けるナリス。抜かりがありません。