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三八三年 雨の四十三日

 お兄ちゃんもいつも通り早めに店に行ったし、もしかしてって思って私も早めに宿に行ってみたら。

 ロビーの長椅子。やっぱりナリスが待っててくれた。

「おはよう、レム」

「おはよう、ナリス」

 駆け寄ると、ほかに誰もいなかったからか、軽くキスされる。

 お茶はって聞いたけど、ここで話すだけでいいって言われた。

 受付の準備をしながら、前に立つナリスと話す。

「ジェットが店にいない間は俺がいることにしたから。午前中は向こうかな」

 ジェット、今日はミルドレッドに行くんだって。あのときの話を聞きに行くんだろうな。

「ごめんね、こっちあんまり手伝えなくて」

「ううん。ククルのとこにいてあげて」

 そう言うと、ナリスはちょっと笑って頭を撫でてくれた。



 宿にはいつも通りソージュが来てくれて。

 昨日は遅くまでごめんねって言うと、いいよって言ってくれた。

「落ち着いた?」

「…落ち着いてたつもりなんだよ?」

 そう答えてから、昨日ナリスに言われたことを思い出す。

「ずっと私のことも心配してくれてたんだよね? ありがとう、ソージュ」

 お礼を言ったら、ちょっと驚いた顔で私を見て。

「そうだよ。ちゃんとそう言ってたはずだけど?」

 そう、だよね。

 アリーとふたり、心配してくれてたよね。

「…ごめんね、ちゃんと聞けなくて」

 大変なのはククルなんだからって。そればっかりで。

 私自身ことを、こんなに心配してくれてたのに。

 ナリスの前でいっぱい泣いたら、ちょっと周りが見えてきたみたい。ソージュとアリーの言ってくれてたことが、今ならよくわかる。

「もう大丈夫だよ。ありがとう」

「いいよ。レムが元気になったなら、それで」

 優しい笑顔で私を見て、ソージュはそう言ってくれた。



 昼からは宿にいてくれたナリス。ソージュがふたりで休憩に行かせてくれた。

 お茶のときにって言って持ってきてくれてた、ククルのりんごのパイ。

 お兄ちゃん、これ好きだもんね。喜んでるだろうな。

 ひょっとしてお兄ちゃんに作ってくれたのかな、と思いながらお茶を淹れる。

 ナリスの前にお茶を置くと、ありがとうって言われた。

 ふたり並んで座ってお茶を飲む。

 いつも厨房でふたりだとお茶を淹れるのも大変なくらいくっついてくるナリスが、今日は全然触れてこなくって。

 …キスはしたよ? 昨日も、今日も、してくれたけど。

 でも、久し振りに会えたのにな。

 どうしたのかなって思って、ちらりと隣のナリスを見た。

「どうかした?」

 気付かれてじっと見つめられる。

 優しい金の瞳。

 見返してから、頬に手を伸ばす。

 私からキスをして。そのまま抱きつく。

 こんな時にって、思われるかな。

 でも、目の前にナリスがいるんだもん。

 私だって触れたいよ。

 そのまましがみついてたら、ナリスが髪を梳くように頭を撫でてくれてから、ぎゅっと抱きしめてくれた。

「レム」

 優しい声に、呆れられてなくてほっとする。

「…レムも辛かっただろうから。我慢してたんだけど」

 抱きしめる手に少し力が籠もって。

「いいならもっとキスしたい」

 ナリスがそう言ってくれたから。

「私も」

 同じ気持ちだよって、ちゃんと伝えた。

 ナリスは一度私を離して、嬉しそうに見つめてから。

 お互い近付いて、ゆっくり唇を重ねた。

 長いキスのあと、吐息をつく私を追いかけるようにまた唇を塞がれる。

 何度か繰り返したあと、ナリスが私の膝裏と背中に手を添えて抱え上げた。

「え、あっっ」

 膝の上に横抱きで乗せられて、被さるようにキスされる。

 上から塞がれて動けずに、僅かな息しかつけないくらいで、名前も呼べない。

 熱っぽい眼差しも。支えてくれてる腕も。

 重なる、唇も。

 全部私に向けてくれてる。

 まだ受け止めるだけで精一杯だけど。

 私の大好きも、伝わってるといいな。

 少し周りが、というより自分が見えたレム。ナリス効果は絶大でした。

 一応遠慮してたナリスですが。我慢してた分反動が……。

 店でも高評価のナリス。テオとどちらが器用でしょうかね。

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冬野ほたる様 作
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