三八三年 雨の三十九日
アリーが今日帰ることになった。
「来てくれてありがとう」
挨拶しに来てくれたアリーを抱きしめる。
「私もちゃんと訓練するからね!」
朝、自分がいなくても練習できるようにって。アリーは今まで教えてくれた身の守り方を書いて渡してくれた。
「ええ。ククルと一緒に、程々にね」
そう言って笑うアリー。
アリーが来てくれて、ククルも元気になったし楽しそうだったよ。
私じゃできないから。ホントによかった。
「ナリスさんが来たら、たくさん甘えるのよ?」
アリーはそう言ってくれるけど。
もしナリスが来てくれても、大変だったのはククルなんだから。私が甘えてる場合じゃないよね。
アリーが帰っちゃって。すっかり寂しくなっちゃったな。
急に帰ることになったから、ソージュは会えないままだったんじゃって思ってたら。
今日も来てくれたソージュが、家にアリーが寄ってくれたって。
「レムのことよろしくって言われたよ」
「どうして私?」
そう言うと、ソージュもちょっと困った顔になって。
「…レムのそういうところ。俺もアリーも心配してるんだけど」
そんなふうに言われたけど。
大変なのはククルだし。お兄ちゃんが頑張ってくれてるけど、私には宿のことをちゃんとするくらいしかできることがなくて。
だからせめてそれだけはちゃんとしようと思ってるんだけど。
「レムだって辛いだろって、アリーに言われたんじゃないのか?」
「言われたけど…」
ククルのこと考えたら、辛いけど。
私じゃなくて、ククルが辛いから、だよね。
それ以上答えられない私に、ソージュは溜息をついた。
「…俺に甘えろなんて言えないけどさ……」
呟くソージュは辛そうで。
「十分甘えてるよ?」
毎日店に来てくれて。私を励ましてくれてるんだもん。
そう言ってみても、ソージュはもう一度溜息をついて、困った顔のまま笑った。
私、そんなに心配かけてるのかな。
基本無邪気なレムですが、自分のことより周りのことのほうが心配です。
吹っ切れたとはいえ、レムのそんな姿を見ていられないソージュ。もどかしそうです。