三八三年 雨の三十八日
今日も朝からアリーに色々教えてもらった。
雨だから、やっぱり店で。宿のロビーのほうが広いんだけど、お客さんがいるからね。
今日も朝から店に行ったお兄ちゃん、今日から朝食もククルと一緒に食べてるんだって。三人で食べて楽しかったってアリーが言ってた。
楽しそうだからちょっと羨ましいけど。お母さんが作ってくれてるからね。
今日もソージュが来てくれた。ホントにずっと来てくれてるけど、いいのかな?
そう思ってふたりとも手が空いたときに聞いてみたら、大丈夫って頷いてくれた。
「ククルのことがあってから、アレックさんが父さんに話しに来てくれて。今回はククルにこういう形で、だったけど。暴力って点では俺にも危険がないとは言えないから、手伝うのを辞めてもいいって言われたんだ」
お父さん、そんなこと話してたの?
驚いてる私に、ソージュはちょっと笑って。
「父さんは俺に任せるって言ってくれたから。だから辞めない」
そう言ってくれるけど。最初は訓練の間だけって言ってたのに、何かある度に来てもらってるよね。
「…いいの?」
本職は木工職人なんだから。手間も時間もかかる仕事なのに。
それでも。いいんだよ、ってソージュが返してくれる。
「父さんに、ここに来始めてから仕事に対する姿勢が変わったなって言われたんだ。何ていうか、使う人の姿が見えるようになったな、って」
「使う人って、お客さん?」
ソージュは私じゃなくて自分の手を見ながら、そう、って頷いた。
「家具にしてもさ、実際使ってもらえてるとこってなかなか見れないし。今までそんな実感なかったんだけど。ここでありがとうって言われるようになって、何ていうか、一緒なんだなって思えるようになった」
顔を上げたソージュは、ちょっと照れくさそうに笑ってから。
「だから俺にとってもここでの仕事は役に立ってる。ホントに忙しくなったらちゃんと言うから、手伝わせてほしい」
きっぱりと、そう言い切ってくれた。
訓練以外でも、文句なんて言わずに来てくれて。こっちが休んだらって思うくらい一生懸命働いてくれて。家に帰ってから細工の勉強もして。
絶対に大変だと思うのに。
それなのにまだ、こんな優しいこと言ってくれるんだね。
「レム?? 何で泣くの??」
零れた涙に、ソージュの慌てた声がする。
「あら、ソージュったら泣かしたのね?」
お菓子の載ったトレイを持ったアリーがちょうど来て、ソージュのうしろから声をかけた。
「アリー! 違、俺じゃなくて!!」
からかうアリーとホントに焦ったソージュと。
泣き笑いで見ながら、ありがとうとごめんねを伝えようとするけど。
涙が止まるまで、言えそうにないから。もうちょっと待ってね。
本編にはない日付です。
ソージュもだいぶ吹っ切れたようで。今はレムの為だけではなく、自分の為にも働いています。
間が悪いというより、アリーにこういうカンが働くのでしょうか。慌てたところは年相応の反応です。