三八三年 雨の三十六日
朝のうちに帰るって言って、ウィルは降りてきたときにはもう荷物を持ってた。
「来てくれてありがとうございます」
お礼を言うと、いえ、と首を振られる。
「俺が来ても何もできませんが」
「そんなことない! 知ってる人が心配してきてくれるの、心強いと思うから……」
急に大きな声を出しちゃったから、ウィルもびっくりしてるけど。
ククルのこと心配してる人、たくさんいるんだよって。ククルにわかってほしい。
「…だから…ありがとう。来てくれて…」
「レム…」
ウィルは私を見てから、ちょっと周りを見回して。
「…あくまで予定なのでククルには話してませんが、ジェットには四十日に連絡がつくことになってます。そこから数日はかかりますが、必ずここに来ますので」
ジェットは絶対来るって、ウィル、言ってくれた。
ジェットが来たら、ククルも大丈夫だよね。
「…ありがとう……」
お礼を言うことしかできない私を、ウィルはちょっと困った顔のまま見返してた。
夕方駆け込んできたアリーを見て、もうホントに嬉しかった。
「アリー!!」
「レム!」
受付から出た私を、アリーはぎゅっと抱きしめてくれる。
「大変だったわね」
「ククルが…」
「聞いたわ。だから来たの」
アリーが私を離して、じっと見て。
「レムも。辛かったでしょう」
「…私よりククルが……」
「レムだって傷付いてるでしょ?」
そう言って、もう一度抱きしめてくれる。
「ククルがあんな目に遭ったんだもの、レムだって辛い思いをしてるでしょ?」
それで当たり前っていうように、アリーが言ってくれるから。
傷付いてるのはククルなのに。私はククルを励まさないといけないのに。心配しなきゃならないのはククルのことなんだから、私が心配かけてちゃいけないのに。
…そう、思ってたのに。
「……アリー…」
「レムは優しいし、ほかでもないククルのことだもの。自分のことより辛いわよね」
温かいアリーの身体と優しい言葉に、涙が止まらなくなって。
私は泣きながらアリーを抱きしめ返す。
アリーは私が落ち着くまで、ぎゅっとしてくれてた。
「ありがとう、アリー」
やっと涙も止まってアリーから離れる。
「いいのよ。その為に来たんだから」
もう一度抱きしめてくれてから、アリーは私のうしろを見て。
「ソージュも。久し振り」
ソージュ?? うしろにいたの??
振り返ると、ソージュと目が合って。
よかったねって顔してくれてるけど。アリーに抱きついて泣いてるとこ見られてたんだね…。
「久し振り。来てくれてよかった」
「ソージュこそ。手伝ってたのね」
「俺にできるのはそれくらいだから」
それくらいって。ソージュ、そんなこと思ってるの?
「ソージュが来てくれてるから、お兄ちゃんも安心して店に行けるんだよ」
割り込んだ私に、ソージュが驚いて私を見た。
「それに私だって。いてくれるのがソージュだから、心強いし、嬉しいよ」
単に人手ってだけじゃない。
ソージュだから、なんだよ。
ソージュはびっくりした顔で私を見てから、ありがとうって言ってくれた。
ありがとうは私のほう。
ちょっと赤くなってるソージュにもう一度お礼を言うと、もういいよってそっぽを向かれた。
相変わらずよそよそしいウィルとレム。ウィルが言葉遣いを崩さないので、レムもあまり砕けて話せていません。アリー相手の会話とは大違いですね…。
本編は少し妬かれそうなくらいのテオとアリー。気は合いそうですが、互いに恋愛感情はありません。ちなみにアリーの好みは、年上で、自分より強い人。単に戦闘力というわけではなく、精神的にでも何でもいいけれど、自分が尊敬できる人、です。テオはどちらかというと、かわいい弟、ですかね…。