三八三年 雨の三十三日 ①
お待たせしました!
本当にいつもありがとうございます!
嬉しかったので、今日は七時と八時に上げますね。
あとはしばらく隔日で、と思っております。
前半、少し長くなりました…。
朝食を終えて、泊まってたお客さんが帰っていったあと。
お昼頃に北からのお客さんが来るまでの間、お兄ちゃんが宿に来てくれてる。
あれから変なことはないみたいだし。この時間にお兄ちゃんが来るのも慣れてきたけど。訓練が始まったらどうするか、またお兄ちゃんと相談しないとだね。
呑気にそんなことを考えてたら、食堂のドアベルが何度も何度も鳴って。
今、お兄ちゃんは食堂…ってことは!
「お父さん!!」
「わかってる!」
走ってきたお父さん、そのまま出ていった。
…お兄ちゃん、ククル、大丈夫だよね??
しばらくして戻ってきたお父さん。縛られた男の人を担いでる。
…これって、ディーたちがククルを襲ったときと同じだよね…?
「お兄ちゃんとククルはっ??」
声を上げた私に、お父さんは少しだけ足を止めて、大丈夫って言ってくれた。
二階に行って戻ってきたお父さん、私とお母さんを呼んで、ククルが襲われたって、ひとこと言った。
「襲われたって、怪我は?」
お母さんの声にお父さんは首を振って。
「気を失ってるが怪我はない。…というか、襲われたというのが……」
言葉を濁すお父さんに、お母さんははっとして腕を掴んだ。
「大丈夫なの?」
頷いたお父さん。お母さんは少し安心したように息をついて、私を見た。
「ここは私が見てるから。レム、ククルについててあげて」
「わかった」
「ククルが話すまで、何があったのかは聞いちゃ駄目よ」
そう言うお母さんは、ホントに真剣な顔で。
聞かないことがククルの為なんだよね?
頷いた私に、お母さん、お願いねって言ってくれた。
お母さんが何に気付いたのかわからないまま、お父さんと店に行く。
店にいたお兄ちゃん、怪我はなさそうだけど、ちょっと顔色悪いかも。
お父さんはこれからどうするか説明して出ていって。
お兄ちゃんに、ククルの服のボタンを留めといてって言われて初めて、襲われたっていう意味がわかった。
……そういう意味、だったんだ。
泣きそうになった私を、お兄ちゃんが頭を撫でて慰めてくれる。
とにかくククルのとこへ行かないと。
ククルの部屋に入ると、ククルはベッドに寝かされてて、テーブルの上に外したエプロンが畳まれて置いてあった。
毛布をめくって覗いてみたけど、ボタン、留まってるみたい。
ククル、大丈夫かな。
お母さんが大丈夫かって聞いたら、お父さん頷いてたけど。
……何されたのかな。
どうして気失っちゃったのかな。
ホントに大丈夫なのかな。
じわりと滲んだ涙を拭って、ぶんぶん首を振る。
私が泣いちゃ駄目。
ククルの前で、絶対に私が泣いちゃ駄目だ。
ベッドの横の椅子に座って待ってたら、部屋の扉が叩かれて。出たら、お母さんが立ってた。
「ククル、まだ気付かない?」
頷くと、そう、と心配そうにお母さんは呟いて。
「宿はソージュが来てくれたわ。店のほうも、お昼は宿泊の人だけにしてもらうからテオだけで大丈夫って、ククルが気付いたら伝えて」
「わかった。…ねぇ、お母さん」
「何?」
「ククル、大丈夫かな…」
心配で心配で。尋ねた私に、お母さんも瞳を伏せる。
「何をされたのかはククルに聞かないとわからないけど、少し落ち着いてからね」
「わかってる。私は何も聞かないよ」
お母さん、私をぎゅっと抱きしめてくれた。
「ククルに、ひとりじゃないんだって伝えてあげて」
お母さん?
「心配だろうけど、ククルを信じて待ってあげてね」
お母さんの言いたいことはよくわからないけど。
ククルがひとりじゃないのは当たり前だし、信じてるのも今更だよ。
「傍にいればいいんだよね」
そう聞くと、お母さんは頷いてくれた。
それからしばらくして気付いたらククル。
第一声は、お兄ちゃんのことだった。
こんな目に遭ったのはククルなのに。
自分のことよりも先にお兄ちゃんの心配をしてくれてるの?
泣かないって決めたから我慢して、お兄ちゃんは大丈夫だって伝えると、ククルはホントにほっとした顔をして、よかったって。
お兄ちゃんはククルを滅茶苦茶心配してて。
ククルは自分よりお兄ちゃんのことを心配してて。
…ホントに、ふたりは似てるよね。
嬉しいけど泣きそうになるのを何とか堪えて。
しんどくないかな、喉乾いてないかなって聞いてたら、ククル、急にはっとして。
「レム、今時間は??」
もう! こんな時まで仕事のことばっかり!!
ククルらしいけど。
皆心配してるんだよ??
結局押し切られて店に行くことになったけど、その前に着替えたいって言うから。
タオル濡らしてくるねって言って、一階に降りた。
「ククルは?」
私に気付いたお兄ちゃんの第一声も、やっぱりククルのことだよね。
「気付いたよ。大丈夫だから店に来たいって言ってる」
「……ククルらしいな」
お兄ちゃん、泣き笑いみたいな顔してる。
お湯をもらって、タオルを濡らして。
「ありがとう、レム」
ククルに渡すとお礼を言われた。
降りてきたククルにお兄ちゃんは謝って。
ククルはククルで自分のせいだって言ってる。
……ちょっと待って?
……違うよね?
お兄ちゃんもククルもなんにも悪くないよね?
だって。お兄ちゃんはククルの為に店にいる時間帯を見直して。
ククルは普通に接客しただけなんでしょ?
悪いのは、それをした人だよね?
なのに何でそんなこと言うの?
ふたりともが自分のことをそんなふうに言うのが我慢できなくて。
気付いたときには泣きながら叫んでた。
泣かないって決めてたのに。
駄目だな、私。
「レム…」
ククルが抱きしめてくれる。
優しい声。温かい身体。
「ごめんね、レム」
「悪くないんだからね」
ククルは本当に優しいよね。
でもね。自分が傷付いてるときくらい、怒っていいんだよ。悲しんでいいんだよ。
傷付けられたのは、ククルのせいじゃないんだよ。
ぶつけてもいいから、見せてくれたらいいんだよ。
私がいるから。皆がいるから。
ククルの気持ちを受け止めるから。
隠さなくって、いいんだよ。
ククルを抱きしめ返して、そんなことを必死に伝える。
ククルは何も言わなかったけど、しがみつくように身を寄せてくれた。
ふたりとも泣きやんで。ふたりで笑って。
ククルが笑ってるからかな。お兄ちゃんもちょっと優しい顔になった。
お兄ちゃんもククルも、もう自分のせいだとか言わないでね?
三十三日は、前半は店、後半は宿のほうが大変です。
ククルには少し酷な出来事。どこまで触られたのかは書きませんでしたが、状況からすると首元から下着に手を突っ込まれたくらい…ですかね…。エプロンがあってまだよかったです。
本編のほうではレムの気持ちは書きませんが、さすがに堪えきれなかった様子です。
八時に後半を上げますね。