三八三年 雨の二十一日
本編『雨の二十二日』のネタバレを含みます。
ウィルは朝から店に行ったまま戻ってこない。訓練じゃないから、ずっと店にいるつもりなのかな。
出立のお客さんを見送って、いつも通り仕事をして。今日は朝からジェットとダンが手伝いに来てくれてる。
「そういやレム、あの話、あさってでいいか?」
お父さんたちがいないときに、ジェットがそう聞いてくれた。
ククルとお兄ちゃんと三人で話したときに、次はお父さんかお母さんに休んでもらおうって言ってたんだけど。お父さん、休みそうにないよねってことになって。
ジェットたちがいる間ならって思って、相談してたんだよね。
いつも大人がいなくなるからって、お父さんとお母さん、別行動なことが多いから。せっかくジェットとダンがいるんだし、この際ふたり揃って休んでもらえたらって思って。
だって。顔を見合わせて話すのがどんなに大事なことなのか。私もわかったから。
最近いっぱい迷惑かけてるからね! その分がんばるよ!
「うん。私はいつでも大丈夫。ソージュもいつでもって言ってくれてるから」
ソージュにはもう話しに行って、了解してもらってる。
ジェットは頷いて、あとは任せろって言ってくれた。
昼から来てくれてたお兄ちゃん、こっちが一段落したから店に戻ったのに、またすぐこっちに来た。
どうしたのかなって思ってたら籠を渡される。
「ウィルから。俺は向こうで食べたから」
食べたって何のこと?
そう思って籠を覗くと、パウンドケーキが入ってる。
「ウィルからって…?」
「ウィルが朝からククルと作ったんだ」
「作ったの??」
ウィルってお菓子作れたの?
びっくりしてお兄ちゃんを見ると、ちょっと笑って頷いて。
「代わるから。食べてきたら?」
そう言ってくれた。
厨房に行って出してみると、ちゃんと三人分入れてくれてて。
柑橘ジャムのパウンドケーキ。ウィルのジャムのほうかな。
ホントにククルが作るのと変わりなくってびっくりしたよ。
結局ウィルが戻ってきたのは店が閉店してからだった。
姿を見かけたから呼び止めて、お礼を言う。
「美味しかったです! ウィルがお菓子作れたなんて知らなかった」
「いえ、俺はククルの言う通り混ぜただけで…」
珍しく慌ててる。というか、照れてる?
「でも、口に合ったならよかったです」
最後にはそう言って笑って、ウィルは部屋に戻っていった。
ありがとうって言ったら、ウィル、何だか嬉しそうだったな。
ククルの影響なのかもしれないけど。
ウィルも変わったよね。
両親のいない隙にジェットと密談するレム。仲良しです。
本編は、ロイに続きウィルがお菓子作りに着手。慣れない分手間取ったようですね。
焼き立てパウンドケーキの頭部分。邪道だとわかりつつ、毎回削いで先に食べてしまおうかどうかと葛藤します…。