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三八三年 雨の十五日

少し長めです…。

 明日に向けて、今日は次々人が来る。

 ソージュもいつでも手伝うからって言ってくれてるけど、今回は私たちでってことになった。もちろん普通のお客さんもたくさん来ちゃって、手が足りなくなったらお願いするねって言ってあるんだけど。

 それに、訓練じゃないからって、ナリスはずっと手伝ってくれるつもりなんだって。今日も朝からお土産のエプロンをして、一緒に働いてくれてる。



 まずはお昼にゼクスさんたちが来た。

「よろしく頼むよ」

 そう言って笑うゼクスさん。ノーザンさんもメイルさんも、雨で冷えたって言ってるけど元気そう。

 ロイはエプロン姿のナリスを見て、やっぱそうなんだ、って呟いてた。

 部屋に荷物を置いた四人が店に行って。

 北からのお客さんはいつもこのぐらいにくるけど、今日は来ないみたいだね。



 次は夕方にセドラムさんたちが着いた。

「レム!」

 駆け込んできたリック。嬉しそうだね。

 そのうしろからセドラムさんたち。もちろんディーも。

「また世話になる」

 セドラムさんが、初めて来たふたりを紹介してくれた。

 皆に鍵を渡して。ディーが同じ部屋のリックに先に上がっててって言って。

「久し振り」

 受付前で足を止めて、私にそう言ってくれた。

「訓練以来だね。元気だった?」

「うん。レムも元気そうでよかった」

 そう笑うディー。パーティーの人たちとも問題なさそうだったもんね。

「あれからどうだった?」

 ギルドに帰ってからのことを聞くと、大丈夫って返される。

「一緒に訓練に出た皆に色々よくしてもらって。今はもう遠巻きに見られることもないよ」

 そういうディーはすごく嬉しそうで。

 ギルドで上手くやれてるのなら、ホントによかった。

「カートもレンもセラムも、最初から皆と仲良くしてたよ。ディーのおかげだね」

 自分が前例を作るんだって言って。あとの皆が困らないよう、一番初めに来たんだもんね。

 そう言うと、俺は何もしてないよって、ディーは笑った。

「…ところでさ、レム」

 しばらく話してたら、急にディーが声を小さくして。

「どうしてナリスさんはエプロンしてここに?」

 そんなことを聞かれたけど。

「手伝ってくれてるの」

 そうとしか返せないからそう言うと、不思議そうな顔で、そうなんだ、と言われた。



 暗くなってきてからハーバスさんが来た。

 前に来たときは挨拶しただけで。朝もすぐ出ちゃったから、ほとんど話したことないんだよね。

 ただ、お父さん宛に手紙はよく来るけど。

「一年振りだね」

 そう笑うハーバスさん。

「レムさんに、お礼とお詫びを言わないとと思っていたんだ」

 お礼とお詫び?

 驚く私を、ハーバスさんは優しい笑顔で見てから、すっと真剣な顔になった。

「ディアレスたち六人が立ち直れたのは、間違いなくここで過ごしたおかげだ。彼らを導いてくれたことに心からの感謝と、今なおゴタゴタに巻き込んでしまっていることに謝罪を」

「あ、あの、ハーバスさん」

 そう止めると、ハーバスさんも驚いた顔をして。

「そうか、レムさんとはあまり話す時間がなかったから…」

 そう呟いてから、ギャレットでいいと言われる。

「ギャレットさん、私、お礼を言われることも謝られることもしてませんから」

 だから改めて、ギャレットさんを見返して。

「私は普通に仕事をして、皆と仲良くなりたかったから仲良くなって。ただそれだけなんです」

 本当に、ただそれだけだったから。

 だから、お礼を言いたいのは私のほう。

「…ディーたちを許してくれてありがとうございました。皆が辞めずに済んで、ほかの人にも普通にしてもらえてて。皆笑ってここに来てくれるのが、本当に嬉しくて」

 今日のディーの嬉しそうな顔を思い出して。

 本当によかったって、そう思って。

「レムさん?」

 零れた涙に、ギャレットさんの声がちょっと上擦った。

「本当に。ありがとうございました…」

「レムっ!」

 話し声に気付いて来てくれたナリスが、泣いてる私に驚いた声を上げて。

「驚かせてすみません、ギャレットさん」

 慌てて駆け寄って、私の代わりにギャレットさんに謝ってくれた。

「…いや、私のほうこそすまなかった」

 ギャレットさんは全然悪くないのに謝ってくれて。

「…ナリス。一瞬誰かと思ったよ」

 そう言われて、ナリスも笑ってた。



 お父さんに皆とゆっくり話してもらう為に、宿のことはお母さんと私とナリスですることにしたけど。

 普通のお客さんが来なかったから困ることなんてなかった。

 夜は皆で食堂で話して。

 今日は店でクライヴさんとシリルさんのことをゆっくり話してもらう為に、ククルは私の部屋に泊まることになってる。

 閉店作業をするククルより先に戻って、宿の仕事も終わらせて。

 最後まで一緒に仕事してくれたナリスが、お疲れ様って言ってくれた。

「ナリスは店に行かなくていいの?」

 お父さんとお母さんは店に残って話してる。

 ナリスだってクライヴさんたちとは十年以上の付き合いだもん。思い出だってあるよね。

 そう思ったから言ったんだけど、ナリスは首を振った。

「俺がいるとジェットが気を抜けないだろうから」

 そう言われて、店に残ってる人の顔を思い浮かべて。

 そうだね、ジェットが甘えられる人ばっかりだね。

「大丈夫だと思うけど、こっちは俺が聞いておくから」

 本当なら私が聞かないといけないんだけど、ナリスは笑っていいからって言ってくれる。

「レムはククルといてあげて」

 私の頭を撫でて、キスをして。

「おやすみ」

「ありがとうナリス。おやすみ」

 お休みなのに、いっぱい働いてもらってごめんね。

 ありがとう。



 お兄ちゃんがククルと家に戻ってきて。

 どうせなら少し三人で話そうってことになって、しばらく三人でクライヴさんとシリルさんのことを話してた。

 時々涙を拭うククルを、お兄ちゃんはずっと優しい顔で見てて。

 そろそろ帰るって言ってから、最後にジェットがするみたいにククルの頭を撫でたお兄ちゃん。

「おやすみ。また明日」

「ありがとう、テオ。おやすみなさい」

 ククルもちょっと笑ってそう言って。

 …何? ふたり、何かあった??

 命日前日。続々と集まるので挨拶も大変です。

 ギャレットとは軽く会話しただけのレム。ひとりギャレット呼びの許可が下りていませんでした。

 一日宿で働くナリス。まさかのエプロン姿にディーもギャレットもびっくりです。

 本編も同じく集う皆様。緩みきったジェットをここぞとばかりに甘やかそうとするダンでした。

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冬野ほたる様 作
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