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誰かと誰か  作者: 西野優
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僕と担任



一体いつから、こんなつまらない文章を書くようになってしまったのだろう。


いつものようにブラックコーヒーを飲みながら、自分の所謂表現者特有のあざとい文章を推敲していると、ふとあることを思い出した。


それは今から10年前、中学2年生の時。




毎年夏休みの宿題の恒例となっていた、環境作文の提出が目前に迫っていた。


環境問題をテーマに自分の意見を書くというものだが、当時は書きやすそうだからという理由だけで、ポイ捨てについて書いた。


題材も内容も我ながらベタだなと思っていたのだが、何故かそれが学年の最優秀作品に選ばれてしまった。


しかし、特に何の取り柄も無かった僕は、初めて人から認めて貰えた気がして素直に嬉しかった。


皆の視線を浴びながら、体育館の舞台の上で、自分の名前が呼ばれて賞状を受け取ると共に、この場所で何十回も聞いたはずの拍手が鳴り響いた。


今この瞬間だけは、これからもずっと僕だけの空間であり続けてくれるような気がして、それを手に入れたことが妙に心地良かった。


普段は大人しい僕も、賞を受賞したということで、周りからは凄いね、おめでとうなどと言ってもらえた。


言われ慣れない言葉と、日常とはあまりにもかけ離れた周囲の反応に戸惑いながらも、言い慣れないありがとうを何とか一つずつお返ししていった。




そしていつもの様に授業が終わり、帰りのホームルームが始まる前に、最優秀賞の副賞として図書券1000円分が贈呈されるということで、僕は教室の前まで呼び出された。


すると担任はこんなことを言ってきた。


「君の作文見せてもらったけど、なかなか良かったよ。


でもね、一つだけ気になるところがあったんだ。それは最後の部分。


(ポイ捨ては、自分一人がやったところで地球から見れば何の影響も無いかもしれない。


しかし、ゴミを捨てるという行為が日常化し、その光景が当たり前となれば、人間として本来見失ってはならない倫理観をそこに捨ててしまうということであり、それが一番の問題なのだと私は考える。)


という部分。先生ここはあまり関心出来ないかな。


だって、どんなに小さなゴミでも、それを捨てれば、地球にとっては害は0じゃないでしょう?


それに、それを小さな子供が口に入れてしまうかもしれないし、自転車のタイヤに絡まるかもしれない。


次回からはもう少し周りのことも配慮して、もっと色々なことを想像しながら書くとより良いかもしれないね。でもおめでとう!」


そう言うと共に図書券を渡し、クラスの皆に拍手を促した。



僕はその瞬間(あっ、こいつ文章ちゃんと読んでねぇな)と思った。


おそらく最初と最後だけチョロチョロっと読んだくらいなのだろう。


自分一人ぐらいゴミを捨てても地球に害は無いというのは、あくまで限りなくほぼ0に近いというニュアンスなだけであり、その行為自体を肯定するものではないし、そもそもそんなことを伝えたい訳ではない。


それに、ポイ捨てが何故いけないのかという点に関しては、文中で散々述べているはずなのに、彼はそこに一切触れなかった。


彼は元々教壇で何かを言うのが好きな男だった。


それにそもそも彼は、あまり目立たない生徒である僕には端から興味が無い様に思える。


問題児やら成績が優秀で目立つ生徒にばかり気を取られ、生徒一人一人を見れていないという現代の教育問題における見逃せない弊害だと感じた。



「先生は僕の作文、いつ読んでくれたんですか?」


そう聞くとその瞬間、彼は顔の色んなパーツをほんの少しずつだけ動かした。


僕はその微々たる動きを決して見逃さない。


「あぁ、つい昨日だよ。」そう答える。


今日は月曜日なので、つまり日曜日ということになる。


僕はその時点で色々察して、「そうですか、ありがとうございます。」と言って図書券を受け取り、席に着いた。



後日、その図書券で普段なら買わないが、興味本意で自己啓発本を買ってやったのだが、それがバカみたいに参考にならなくて可笑しかった。


しかし不思議と気分は悪くなかった。



そんなことを思い出している間に、パソコンの画面には自分が映っており、辺りはもう暗くなりかけていた。


オレンジに反射した飲みかけのブラックコーヒーは、もうとっくぬるくなっており、僕はそれを一気に飲み干してから、んーっと大きな伸びをした。



準ノンフィクションです。よければブックマークや評価等よろしくお願いいたします。

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