笑年と笑年
『あれ、まだ帰ってなかったん?』
教室の後ろで扉が開くと同時に声がしたので、振り替えると同じクラスの野田がいた。
野田は学ランのボタンを一番上まで閉めたうえで、上履きのカカトを踏んでいたので相変わらずアンバランスで違和感があった。
「あぁ、今家帰ってもどうせまた妹のお迎え行かなアカンから、ここで時間潰してんねん。」
『ふーん。ならさ、部活とか入ったらええやん。うちのお笑い研究部なんかどう?』
以前から野田には、お笑い研究部の勧誘を受けていたのだが、部活動に興味の無かった僕は、「俺を部長にするなら入ったるわ~。」とか言って、適当にあしらっていた。
「なら俺を彼女にするなら入ったるわ。」
『嫌やわ、なんでお前と付き合わなアカンねん。周りになんてゆーねん。』
「じゃあ、明日お前が角刈りにしてきたら入ったるわ。」
『嫌やわ、ほんで角刈りて。昭和やないねんから。』
「じゃあ、明日食堂で小鉢のキャビアくれたら入ったるわ。」
『キャビアなんか出やんわ。どこの私立やねん。』
いつもの賑やかな教室は、夕日が沈んでいくと共に、客のいない、僕ら二人だけの舞台になっていた。
「もうそろそろ妹のお迎え行くわ、じゃあな。」
『なぁ、思ってんけど、今の俺らの会話って漫才みたいになってなかった?』
「まぁ漫才は元々雑談の派生やから、自分等がそーゆーたらそーなんちゃう?」
『でも漫才やったら最後になんか言わなアカンよな。……もーええわ!』
「『どーもありがとうございました!」』
二人の声は、舞台に響いて儚く消える。風に揺れた雑草が、鳴りやまない拍手の様だった。
この作品につきましては、いずれ一つ長編物語として書き上げたいと考えております。面白ければ是非ブックマーク、評価等よろしくお願いいたします。