遺跡調査依頼
「新たに発見した遺跡での護衛?」
ある日、名ばかりの調査員である俺の事務所に、本物の調査員が訪れていた。
「はい、今回の遺跡群はかなりの広さで何がおこるのか全く予測できません。ですので、あなたに護衛として同行していただきたいのです。」
眼鏡をかけた女性が説明を続ける。
「調査期間は一ヶ月、管理局には許可を頂いています。お願いできますでしょうか。」
俺は、知り合いの管理官のおっさん(年齢的には俺のがおっさんな訳だが)に、お前たまには仕事しろ と言われていたことを思い出す。
酒の席の冗談だと思って軽く流していたが本気だったようだ。
そう言えば最近平和続きなので、日課のトレーニングとテレビ掃除炊事洗濯しかしていない気がする。
「そもそも遺跡って危険な場所なのか…?」
ふとした湧いた疑問をぶつけてみる。
「はい、過去に遺跡を根城とする犯罪グループが住み着いていたことがあり、その際調査員が人質にされる事件があって以来、正規の遺跡調査の際十分な護衛をつけることを義務付けるようになりました。」
十分な護衛ねぇ…
本来なら過剰すぎて許可下りないわけだが、個人情報管理法制定後の遺跡に犯罪グループなんて滅多に住み着くはずがないのと、ただ飯食らいを働かせたい思惑が透けて見える。
「本来であれば下のグレードの方にお願いをしていたのですが、何やら上の階層で大規模な火災があったらしく事後処理に駆り出されるみたいなんです。そこで区役所の方に相談した結果ここを紹介して頂きました。」
グレードとは俺たち新人類の指標でありつまり格である。
全国の地底都市共通の6段階評価で1が最上級だが、数人しか存在していない。
おまけに、過去の大戦でグレード1同士大暴れしたせいで、今度は地下をも失いかねないと判断され、地位を約束する変わりに、管理局の許可なしでの戦闘行為は基本的に禁止、軍に配備禁止等色々制限されている。
そんなわけでグレード1の俺は、名ばかりの調査員として何不自由ない生活を送っている。
他の都市への抑止力の為にここで飼われているとも言うが今はいいだろう。
どうやら平和と感じていたのは俺だけだったみたいだ。
「わかったわかった。代わりにきちんと同行するから日時を教えてくれ。」
遺跡にも少し興味があり元々行く気ではあったが、ここまで逃げ道をふさがれるとなるとなぜか負けた気がする。
「明日の7時私がここに向かいに来ますので準備の方お願いします。」
「は?」
急すぎる。急すぎて思わず驚いてしまった。
「何分急なキャンセルでしたもので… それに管理局の方もここなら絶対大丈夫と言ってくださったものでして。」
大丈夫なのは事実ではあるんだが、あのおっさん俺と仲がいいとはいえ大丈夫なのか?
「・・・急で驚いただけで大丈夫だ。それにしても君俺相手に肝が据わっているというか。そっちにも驚きなんだが」
「何か可笑しかったでしょうか?」
無垢な表情で返され何も言えなくなってしまう。
かつての大戦でグレード1は、歩く災害とも呼ばれていたのだがこれも時代の流れと思うことにしたのであった。